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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生1学期
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49/117

終業式

 7月22日。

今日は終業式。明日から夏休みだ。


商店街を横切り、大通りに出、学校に向かう。この通学路にも慣れ親しんだものだ。

すっきり晴れ渡った空だ。風が頬を撫でるのが気持ちよかった。


学校に到着した俺は1Bの教室に向かって歩きながら、この前のテストの結果のこと思い出していた。


テストの集計がなされた後、学年お知らせの電子掲示板に点数が高い人から順に名前が公表された。


ただ、公表されたのは上から三十人の上位勢だけ。

およそ全体の八分の一の生徒のクラス・氏名・点数が順に表示されていた。

ただし、名前の欄が空白で表示されているものもあった。氏名の開示を拒否できるというわけだ。


全員の名前が載るものだと勘違いしていたため、そわそわしながら掲示板を覗いたとき、上位三十人の名前しか載っていなくて落胆した。ぎりぎりランクインしているかどうかといった手ごたえだったからだ。

そして、案の定その中に名前が載っていないことを確認して肩を落とした。

巷で最近流行りのアーケード筐体ゲーム『クイズ・シナプスアカデミー』ではランク上位の俺だが、リアルの学力試験で雑学知識が味方することはほぼ皆無なので仕方がないことだ。

今振り返ってみると、氏名開示を拒否するかどうかの確認が来ていない時点で、ランク外であることに気づくべきだった。思考が回っていないことにやるせなさを感じる。



上位勢のメンツを思い出してみる。

一位はもちろんA組にいる首席の彼。名前は、桐生玲(きりゅう れい)だ。

続いて二位はE組で名前は匿名の人。能ある鷹は爪を隠すということで、今後はクレバーホーク様と呼称しよう。

おっと、ばかなあだ名を考えている場合ではないな。三位は我がEクラスが誇る、琴吹さんだ。琴吹さんは大っぴらに自分のことを言い広めるような性格ではないが、Bクラス内では能力が皆に知れわたってしまっているから、隠したところで意味はなかっただろう。名前を隠していたとしても何組かはばれてしまうため、そこから聞き取り調査を行えば特定は容易だったことだろう。

さすが琴吹さん。称号「Star of our B class」を与えます。


気になる合計点数だが、主席の桐生玲はなんと全科目満点。

一点差で匿名の子、そこから一点差で琴吹さんと、ものすごい接戦を繰り広げていた。

三位の琴吹さんと四位の差が三十点ほど開いているので、トップ三が頭一つ抜けた状態で、上位三人が雲の上の存在のよう。殿上人ですね。



一通り振り返ったところで、ちょうど我が1Bの教室に到着。

後ろのドアから入室し、鞄を下ろして椅子に座り一息吐いた。



「和人、おはよう!」


ほぼノータイムで、ライトが教室に入ってきた。


「おはよう!」

「おっ、なんか機嫌いいな」

「だって明日から夏休みじゃん」

「ああ、そういうことか」


ライトは首に巻いていたタオルを手に取り、席に座った。バスケ部のエース、朝練おつかれさまです。


「おはようございます」


間を空けずに、琴吹さんが教室に入ってきた。


「「おはよう」」


俺とライトの声が被った。

すると琴吹さんは、ニコッと笑って席に座った。

いつ見てもいい笑顔だ。これで今日も一日やっていける。


「んで和人、そっちは何か大会とかあるのか?」


椅子に横向きに座り背もたれに膝をかけると、ライトはまた話しかけてきた。


「うん、全国高等学校文芸コンクールっていう大会がある。結構大掛かりなやつね」

「へーそうか。なら、和人もそれに応募するわけだな?」

「え、うーん……多分応募すると思う」

「そっか。がんばれよ」


会話が途切れたところで、キンコンとチャイムが鳴った。そして、一ノ瀬先生がいつも通りの明るい挨拶を浮かべて、教室に入ってきた。


「みんな、おはよう。今日は終業式です。この朝会が終わったら……」


先生はハキハキと元気な声で話すのだが、俺はいつものごとくそれをスルーしていた。きっと、朝会の後すぐに終業式が始まるとか、そんな話だろうから、まあ大して重要なことではないよな。


 数十分後。

俺たちは体育館に総動員して、終業式が始めるのを待っていた。


「これより、終業式を行います……1.校歌斉唱!」


チャンチャンチャーン♪


ゆったりした古風な前奏を聴き、声高らかに歌い始める。山河自然と灯台のー……。


周りの生徒たちも口を大きく開きながら校歌を歌っている。

入学から三か月たち、そろそろ校歌も暗唱できるレベルになった。

覚えることを強制されたわけではない。全校集会があるたびに曲を聴かされて、意識せずとも頭が覚えてしまったのだ。

アニメを一気見したときに、オープニングの曲を覚えてしまう感覚に近いと言える。


コード進行はなかなか良いのだが、この歌詞は問題だ。現代人には難しい言葉が多すぎる。

ルビが振ってなければ読めないような漢字ばかり。「(たえ)なる」とか「揺籃(ゆりかご)」といった感じで、普段絶対目にしないものばかりだ。


とまあ、難読漢字だらけの校歌にツッコミを入れながらも、難なく歌い終えた。

次は校長の挨拶だ。呼吸瞑想でもしてスルーしよう。


「今日で一区切りとなります。三年生の皆さんはこの夏が勝負と思って、これからのーー」


ああ、三年生は受験があるのか。高校三年間はあっという間だっていうから、俺も早めに進路のことを考えた方がいいのかな。

「ーーそれでは、皆さん。夏休み明けに会いましょう。以上です」


校長先生の話は入学式に比べるとかなり短かった。いつもこれくらい短ければ、皆真面目に聞くだろうな。とはいえ俺は半分も聞いてなかったけど。


「では、次に表彰です。受賞者は登壇してください」


ゾロゾロと十人ほど生徒が登壇し、次々に表彰された。

壇上にいるのは運動部の人たちが大半で、文化部の人は二人しかいなかった。

力の入れ具合からして、受賞者の比率が偏るのは当然か。そもそも出場できる大会の数も違うわけだし。


そのあと、生活指導やその他のことについて話があった。

この学校は真面目な生徒が多いので、「夏休みだからといって羽目を外さないように!」というお決まりのフレーズが飛んでくることはなかった。


そして無事終業式が終わり、教室に戻って休憩をした。



「それでは、成績通知表を配ります」


一ノ瀬先生が重々しい口調で言った。それに準じてクラス内の雰囲気が澱みはじめる。


「出席番号順に取りに来てください」


この学校は、お知らせや授業の資料をデバイスで伝えることが多い。しかし、進路関係などの重要なものはプリントが配られるのだ。成績通知表はその枠を外れない。


俺は期待しながら列に並んだ。


「はい」


先生は微笑みながら、俺に成績表を差し出した。


「どうも」


俺は少しだけ頭を下げて、素っ気なく受け取った。


早く確認しないとーー俺は早足で席に戻り、通知表を開いた。


「成績は1~5の五段階評価で、様々な観点から総合して評価される」という説明文が見開きにわたって書かれている。


ああもう。これが見たいわけじゃないんだ。


俺は説明文を読み飛ばし、ページをめくった。

するとついに、成績のページが現れた。


国語 5 数学 4 物理基礎 4 家庭科 5

英語 4 地理 5 化学基礎 5 世界史 5

情報 5 体育 5 現代社会 5 音楽  5


4が三つ。あとは全て5。おお、思ったより良い成績だ。よかったよかった。



一ノ瀬先生が成績の比べっこはしないようになどとと言っているようだが、聞こえないふりをしてライトに話しかけた。


「どうだった?」


「一つだけ4で、後は全部5。そっちは?」


え、すごい……。

運動も勉強もできてしかもイケメンって、完全無欠じゃないか。神様、不平等は良くないですよ。


「三つ4で、後は全部5だよ」


「へえ、そんなもんか」


聞くまでもないが、俺は隣の琴吹さんにも成績を聞いてみることにしよう。


「成績どうだった? 俺は三つ4で、他は5だったけど」

「えっーと、私は……全部5です」

「う、やっぱり。さすが琴吹さん」

「ありがとうございます。小暮さんも十分凄いですよ」

「いやいや。俺は自分のことで精一杯だったけど、琴吹さんは他の人達の面倒も見てその結果でしょ。さすがとしか言えないよ」

「ふふ、ありがとうございます」


琴吹さんは再度お礼を言った。彼女は謙虚なので、結果を自分から自慢したりなんてことはしない。

まあ、すぐに他人と成績を比べたがるやつが、彼女に敵うわけがないよな……。


「はい、皆さん聞いてください!」


騒がしい教室に先生の声が通る。


「進路のプリントを配ります。夏休み初めに提出してください」


渡ってきたプリントを見ると、文理選択についてが書かれていた。


 それから数十分後。


「それじゃあ、皆さん夏休み明けに会いましょう。これで終わります」


先生がそう言って放課となった。


「やったな」「メシ食いに行かね?」「ちょ、待てよー!」


クラスメイト達が一斉に教室を出ていく。

今日は部活が無いので、俺も帰り支度を始める。


「古暮くん」


名前を呼ばれたので顔を上げる。すると、声の主である日代さんの端正な顔が思ったより近くにあったので、咄嗟に身をのけぞらせてしまう。


「驚きすぎじゃない?」


日代さんはクスクスと笑っている。いや、今のはいきなりだったし仕方ないでしょ。


「古暮くんは夏休み、暇?」


彼女が問いかけてきた。俺は姿勢を正して応える。


「暇です。部活は週2なので」


運動部や吹奏楽部のように、意識高く活動はしない。文芸部はゆるい部活なのだ。


「じゃあ、遊びに誘ってもいいかな?」

「うん、いいよ」

「ほんと? ならラインするね」


俺は頷いて応える。


「じゃあね古暮くん。ばいばい」

「うん、また」


日代さんが手を振るので、軽く手を上げて、彼女を見送った。

さて、俺も帰ろう。



 夜の自室にて、俺は期待で胸を膨らませていた。

明日から夏休み。やりたいことは沢山ある。

まず、新作のラノベやミステリーをとことん読むことだろ。それから、最近ゲームショップで見つけた中古のRPGをやるだろ。そしてそして……。


それに、まさか日代さんからお声がかかるとは思わなかった。部活もあるだろうに。

俺と遊ぶ時間を作ってくれるのはとても嬉しい。一体どんなお誘いが来るのやら。



 そういえば話は変わるが、学校のアプリに自由研究の中間発表の評価シートが届いていた。寝るまで時間があるから確認してみよう。


アプリの画面を開くと、提出したデータと一緒に評価者の名前が表示されている。

評価者は……なんと、一ノ瀬先生だった。先生といえば、国語担当。文学部系の人が多いはずだから、俺たちの自由研究に目を通すとは意外だった。

いや、もしかすると先生は教育学部出身なのか。

教育学部なら、学習法や学習環境について学んでいてもおかしくはない。いずれにせよ、期待と不安が混ざった気持ちになる。


評価の詳細を開く。項目ごとに点数とコメントが並んでいる。


「なるほど……」


まずはテーマ性について。「テーマ選定が具体的でわかりやすく、現実の学習に応用できる点が優れている」とのコメントがあった。

俺が事前に調べて整理した内容が評価されているらしい。

続いて、資料の構成。「図や表の配置も良く、説明の流れがスムーズ。文章も簡潔で読みやすい」とある。日代さんが写真やスクリーンショットをきれいにまとめてくれたおかげだ。


万和人の担当分については、少し控えめなコメントがあった。

「学習環境に関しては、情報がやや不足気味で定性的。次回はもう少し詳細な分析を加えるとさらに良い」と書かれている。俺は心の中で苦笑いする。今後もこの調子の場合、どこかでフォローを入れる必要があるかもしれない。


次に総合評価を確認すると、「概ね良好。テーマ性もバッチリなので、この調子で進めてほしい」と褒められていた。

正直、ほっとした。これで安心して研究を続けられる。

中間発表という段階でここまで評価してもらえるとは思っていなかったからだ。


少し考え込む。俺たちの研究は、まだまだ改善の余地がある。

万和人のデータをどう補完するか、日代さんの写真やスクショの見せ方をどう工夫するか、次の段階でどれだけ具体的な成果を出せるか。

それを考えると、胸が少し熱くなる。

自由研究は単なる課題じゃなく、仲間と一緒に知識を積み上げていく過程だ。中間発表の評価は、まだ通過点に過ぎない。


それにしても、評価コメントを読みながら、俺は一ノ瀬先生の顔を思い浮かべていた。

普段は明るくて天然っぽいけど、ときに厳しい先生だ。

国語の授業では、顔見知りということで、指名されることが多かった。頻度で言えば琴吹さんも似たようなものだが……。

思っていたより自由研究をちゃんと評価してくれたようだ。褒められたことは、ちょっと自信がついた。


スマホを閉じ、深呼吸を一つ。窓の外には夏の光が差し込み、教室の机に反射している。

これから夏休みを経て、自由研究はさらに深まっていく。

日代さんや万和人と一緒に、どんな発見があるのだろうか。


「楽しくいこう」


小さくつぶやく。研究はこれからだが、ひとまずは小休憩だ。


一生に一度の、高校一年の夏休み。楽しめるといいな。


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