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9話 盗賊ですか?

俺達3人はミダリさんの報告を聞いて、急いで崖を登り、彼が指差す方向を食い入るように眺める。そこには馬車とそれを囲うように人を乗せた大きな馬が10~12匹走っている。離れた距離で分からないが、馬車から比較すると、あの馬はデカイ。俺達が森で追われたロアン人が乗っていた種類と同じか?そもそもあれは馬か?いや、それより乗っているのは人間か?


先に見える集落と俺達のいる崖の間を、俺達のほうへ向って来ている。いや、周りにいるデカイ馬達がこちらに誘導するように囲って追い込んでいるように見える。



「なんだ?あれは……小さな小屋をロアン人が乗っていたような化け物が引いているぞ!」


「バケログテさん、アレはたぶん、村で使っていた荷車に屋根をつけたもんですよ。たぶん……」


「すごいな、バデール良く分かるな、さすが村一番の魔法の秀才だ」


そんな会話を小声で続けながら、俺達は視線の先の状況を隠れるように見続ける。馬車は集落へ向おうとしているようだが、あっという間に馬に乗った輩に囲まれて、馬車から中の人が引きずり降ろされて、馬に顔を潰されているのは見えた。


「うおぉ、残忍だな……」

「酷いですね」

「ロアン人だな、あいつら」


走れば1~2刻ほどの距離の崖下で行われている光景を俺達は見続ける。あっという間にその光景は終わり、囲っていた奴らは、左の崖下の森へ馬車ごと消えていく。


「あいつら仲間同士で殺し合いしているのか?」

「たぶん、盗賊ですよ」

「なんだい?それは??」

「え~とですね。襲って荷物を奪うのですよ、えっと、ほら残忍なロアン人は仲間同士で、そうするって父がいってましたから」

デガルデヌ(バデールの父)がそんな事を言っていたのか?ん~そんな言い伝えあったか?」



まぁ、どうですかね?とごまかしながら、俺達はどうするか話し合った。俺達のいる場所から1~2刻の距離に残忍なロアン人がいる。俺は情報を得るために何名か捕まえましょうと提案する。


「バデール、相手は残忍なロアン人だぞ。それに10人以上はいたぞ?俺達3人でいけるか?」

「いや、バケログテ、あの森にもっと居るかもしれないだろ?」


ふたりの押し問答が続くので、俺は暗くなったら、近くまで行き、様子をみてから決めて、危なそうだったら逃げましょうと提案した。もっとも一生この山で過ごす訳にはいかないだろうと分かったのか、ふたりは静かに頷いた。




夕暮れのうちに俺達は平原側へ崖を降りて、静かに森へ入る。すっかり夜が暮れたとき、俺達は彼らの住処を見つける。前世のログハウスのような小屋で、脇に馬車と、あのデカイ馬が見えた。ゆっくり近づくと蔓で仕掛けた罠も小屋を巡るように張られていた。


「なんだ、この下手糞な罠は?これじゃ、森で何も兎も捕まえられないだろ」


「間抜けなんだな、ロアン人って奴は、見張りもいないぜ」


先に進むふたりが呟くように言う。さすが森で育ったふたりだ。俺なら一発で引っかかるところだった。よかったよ……先に進まなくて。小屋に近づくとデカイ馬の鼻息が荒く、こっちに聞こえてくる。


俺達は馬の居ない方角から小屋に近づき、ゆっくりと小屋の中の音を探る。どうやら中には10名程が酒盛りをしているようで、ガハハと声が聞こえる。


「だろう!俺が言った通りだろ!それとな!身代金が取れなくても、この女を売り払えばいいしな」


「さすが親方だぜ!じゃ!じゃあよ、売るなら俺らが味見だろ!」


「ガベイのイチモツは無駄にでけぇから、お前は最後だぞ!」


「そうだぞ!そうじゃねぇと小枝のゴデックの奴が中々イケねぇからな!」


「おい!俺だって相手が変われば極太だぞ?故郷の村じゃ股間はオーガ並みって評判だったんだぜ!」


「ガハハハ!お前ら、身代金が取れなかったらな!ガハハ」


当初、故郷を追われた憎しみと怒りで、その会話を聞いていたが、明らかに盗賊の会話で脱力する。ゲスいな。ゲスの盗賊、お前。まさにそのトークは前世の上野か神田のセクキャバのスタイルだぞ。明らかに女性に嫌われるタイプだ。まぁそれは良いとして、それと小枝のゴデック、見栄を張るなよ、見栄を……と密かに思いながら会話を更にじっくり聞く。


暫し時間をみて、バケログテさんがゆっくり顔を上げて窓から中を覗き、ミダリさんと俺が周りを警戒する。顔を戻したバケログテさんが俺達に囁くように言う。それによると中には16人。俺達に似た姿の者で、そのうち縛られいる者が4人。窓は2つで扉が一つだと小声で呟く。


「これならいける。囮と先手必勝、皆殺しでどうだ?」


「ああ、いいな、魔法を打たれる前にな!」


「皆殺しって……1~2人は聞きだすのに……え?囮……?」


小声で作戦会議が開かれて、俺達は直ぐに行動に移した。








ドンドンと小屋の扉が叩かれる。



俺は飲んでいた酒瓶を静かに置いて扉を凝視する。仲間もさっきまで騒いで飲んでいたのに、その音が扉からだと分かると、無言で立ち上がり手元の得物を持ち、扉の脇に構えるように近づく。


更にドンドンと扉が叩かれる。そして外からガキの声が聞こえる。


「すいませーん、道に迷って……」


俺は横に居る仲間に小声で尋ねる。


「ガベイ……外の罠は忘れてねぇよな?」


「ああ、間違いない」


俺は自慢の斧を持って、立ち上がって声を上げる。


「おう!いま開けるぜ!」


扉を開けると、そこには毛皮を着たガキが立っていた。この毛皮、山猪か?こいつは蛮族か?ロアン帝国と国を区切る深い山間に蛮族がいると聞いていたが、こいつがそうか?焦りながらも俺は尋ねる。


「どうした坊主?迷子か?」


「はい、実は山から下りてきたんですが……」


俺にも幸運がきたか?ガキでも売れば、ちっとは金になる。蛮族のガキだと言って見世物小屋に売れば……。1日で2度美味しい!昼間の襲撃成功といい、この迷いガキといい……。だが、ふと、外の罠は?と警戒して斧を握る手を強める。


「お、そうか、表に罠があったが、大丈夫だったか?」


「あ、はい、危うく引っかかりそうになりましたが、大丈夫でした」


蛮族のガキだから罠に掛からなかったのか?そうか、そうなのか?まぁいい、縛り上げて聞けばいい。


「まぁ、外は冷え込むだろ!中で美味いもの食えや、晩飯くってねぇだろ?」


その声で安心したのか仲間達は、安堵のため息と得物を下ろすのが見えた。俺がそのガキの肩に手を掛けようとした瞬間、そのガキが俺に向けて手を掲げて、声を上げる。



「突撃、お前が晩ごはん!」



そのガギの手から火が出て、俺は顔を焼かれた痛みで目を閉じて、斧を振るおうと思った瞬間、腹をエグられるような衝撃で気を失った。


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