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ミッドナイト・キャナル  作者: 河野 る宇
◆第5章~静から動
14/27

*我慢ならない

 ホテルで泉と合流し、話し合いが始まる──

「計画変更か。俺もそれは考えていた」

C-4(シーフォー)を頼む」

「他は」

「スタングレネードと催涙弾を」

「解った」

 相変わらず“あうんの呼吸”が素晴らしく、2人の会話が淡々と進んでいく。

 そうして打ち合わせなど終了し、部屋から出て行く泉の背中を見送った健吾はベリルに目を移す。

「C-4って?」

「プラスティック爆薬と言えば解るか」

 いつものようにカップを傾けて発した。

「ばっ、爆弾!?」

「用途は色々だ。大きな爆破だけではない」

 応えたあとにバックポケットに手を回す。

 常にマナーモードにしているのだろうか、携帯端末が音もなく震えていた。やや眉をひそめると、無言でアイコンをスライドさせる。

「……」

 目を細め健吾を一瞥した。

「どうするというのだね」

「?」

 相手は誰だろう……相変わらず何を考えているのか解らない表情してるなぁ。

「それは無理な話だ。元より対立する立場にある」

 そのあとに電話は切られたらしく、小さく溜息を吐き出した。

「どうしたの?」

 少し困ったような表情を浮かべているベリルに怖々と問いかけると、立ち上がり思案するように唸る。

「相手も構えてきたか」

「え?」

 手にある携帯を見やり、再びどこかに電話をかけ始めた。

「うむ。unknownアンノウンだ。こちらで正体を突き止める。続行してくれ」

「? アンノウン?」

 問いかける青年を一瞥して、さらに電話をかける。

 少しムッとしたが、話せない以上はそういう態度に出るしかないんだろうと理解しつつ視線を外した。

「ベリルだ。尚人なおとを頼む──探してもらいたい相手がいる。おそらくナイトウォーカー、年齢は40前後。ドイツなまりがあるアメリカ英語だ。うむ、頼む」

 携帯を閉じてバックポケットに仕舞い、ソファに腰掛ける。

「……教えてよ。君は何者? どうして泥棒なんかやってるの? 今のはだれ? もう解らないことだらけでイヤだよ!」

 勢いよく立ち上がり、ベリルを見下ろすその表情は半泣きだ。

 こんなに置いてけぼりにされるのは耐えられない。少し浸かったなら、とことんまで知ってやる!

 ベリルは青年をしばらく見上げたあと一度、目を閉じた。

「知りたいというのなら」

 静かな声に、健吾はソファに腰を落とす。

「傭兵を知っているか」

「!? 傭兵? 傭兵って雇われて戦争する人でしょ?」

「それだけでは大した稼ぎにはならんよ。人により受ける依頼は異なる」

 淡々と述べられる言葉に、妙な違和感を覚える。日常では決して聞く事の出来ない世界のためなのは解っていても、顔をしかめずにはいられなかった。

「その傭兵がなんで泥棒なんかしてるの?」

「我々が受けた依頼の内容は『形見の奪取』だ」

「!」

 その宝石は亡き父の形見で、彼女はそれを売るつもりは無かった。

「外出している間に盗まれたようでね」

 娘は必死に行方を追ったが、その宝石はイタリア系アメリカマフィアの手に渡ってしまい、そこから日本の宝飾店に飾られる事となった。

「なんで日本に……」

「詳細は解らん、日本の巨大企業が絡んでいるという情報は入っている」

 あの宝石は高価ではないものも含まれているが、希少な石である事は間違いないのだそうな。

「マフィアは充分に金を手に入れた。盗難に関与する事はないだろう」

「へ、へえ……」

 つまり、ベリルさんたちが盗んでいてもアメリカマフィアは何にもしないってコトか。

 聞いている方としては、どういうつながりでの話なのかさっぱり解らない。しかし、訊いた処で自分の頭で解るのかどうかも疑問なため、質問しないことに決めた。

「それで今の電話は?」

 そう問いかけると、ベリルの表情が少しだけ険しくなったように見えて怪訝に感じた。

「当然だが、宝飾店の人間の中に多少なりとも裏と繋がっている者がいるのだろう。私だと気づかれたようでね」

 やっぱりこの人は、それなりに有名な人みたいだ。まあこれだけ綺麗ならすぐに顔も覚えられちゃうか……って顔は見えてないのに気づかれたって事は動きとかでかな?

「ナイトウォーカーを雇ったらしい」

「! ナイトウォーカー?」

「盗賊という意味で呼ばれている」

 その相手が直接、電話をかけてきて宣戦布告したらしい。

「アンノウンてなんですか?」

「相手が特定出来ない場合に用いられる言葉だよ」

「そのあとにかけた相手は?」

「相手を特定してもらうため要請した」

「情報屋みたいなやつ? テレビでよくあるような」

「テレビほど簡単な組織ではないがね」

 小さく笑みをこぼした。

 静かで起伏のない物言いは、なんだか子どもを諭しているようにも感じられる。それが心地よいと思えるのが不思議だ。

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