【第6話】職員、求む!異世界はたらき口案内
「……なんだこの行列は」
朝、掲示板の前にできた長蛇の列に、村人たちはざわついていた。
その中心にあるのは、優一が貼った一枚の紙――
「セカンドリーフ 職員募集中!」
まかない付き! 魔法学べます! モテるかも!
――この最後の一文が効いたのか、集まったのは三十名を超える“異世界人材”。
「うお……なんか想像以上に来たな……」
だが、現実はそう甘くなかった。
最初に来たのは、スライム族の若者。
「自分、マッサージに自信あるっス。ぬるっと包んで癒やしますッス」
「……床がびっしょびしょになるから無理かな」
次は半透明の妖精。
「わたし、空を飛んで利用者さんの耳元で癒しのささやきを……」
「高齢者には聞こえないから却下で……」
極めつけは――
「我こそは、かつて300年の眠りから目覚めし“魔界の皇子”」
「帰ってください」
日が暮れる頃、ようやく“まともそうな”応募者が3人、残った。
■1人目:サラ(20代前半・元盗賊)
「……あんたが責任者? ふーん、まあ悪くない面構えね」
短髪で小柄な女性。抜群の身のこなしと、軽口を叩く自信家。
「盗賊は辞めたの。もう真っ当に生きたいって思っててさ」
「介護を?」
「だって、盗むより“誰かの笑顔”のほうが価値あるって、思ったのよ」
根は素直らしく、細やかな気配りができそうだ。
■2人目:レオン(17歳・見習い神官)
「は、はじめましてっ……ぼ、僕、人と話すの、すごく苦手で……でも……」
小柄で声も小さいが、回復魔法の素質があり、なにより“人を助けたい”という強い想いを持っていた。
「介護って、誰かの“生きる力”になるんですよね? 僕……そういうの、やってみたくて」
緊張しながらもまっすぐに話す彼に、優一は静かにうなずいた。
■3人目:グラン(中年・ケンタウロス)
「風呂掃除も布団干しも任せろ。力仕事なら朝飯前だ!」
威圧感のある風貌だが、どこか父性的な安心感もある。
自身の両親を早くに亡くしたことから、「高齢者を大切にしたい」という想いを抱いていた。
「……ただし、細かい作業は苦手でな。書き物は頼むぞ?」
「この3人……アリだな」
優一は迷わず言った。
「みんな、セカンドリーフで働いてください」
サラは肩をすくめ、レオンは目を輝かせ、グランは笑って頷いた。
その夜。
初の“職員シフト表”を作る優一の顔は、どこか誇らしげだった。
(ようやく、ひとりじゃなくなる)
介護は“個人”の力だけじゃ回らない。
支え合う“チーム”があってこそ、本当の安心を届けられる。
次回:「はじめての夜勤!チーム介護、始動!」
新人3人組、大失敗の嵐!?
優一の“教える立場”としての奮闘が始まる――
(第6話・追加挿入パート)
――その日の夕暮れ、セカンドリーフの裏口に、ひとりの影が立っていた。
「……余は、本気だったのだがな」
長く黒いマントに、やけに高貴な言い回し。
彼の名はヴァルゴ=グレイアス。
“300年の眠りから目覚めし魔界の皇子”を名乗る、元・落選候補である。
「……介護、というものに、ふと興味を持ったのだ。
老いた者に寄り添い、身を洗い、衣を整える……それはもはや、戦とは別の強さだと感じてな」
そう、彼は“介護”を“神秘の修行”だと本気で思っていたのだ。
「だが……余の言葉は、届かなかったか……」
落ち葉を見つめながら、彼はがっくりと肩を落とす。
だがそのとき、施設の中から聞こえてきた声。
「よし、明日から研修スタートだぞ! まずは掃除当番から!」
「えー! グランの馬蹄、でかくて掃きにくい!」
「細かいこと言うな! 介護は段取りだ!」
その笑い声に、ヴァルゴの目がふっと和らぐ。
「……やはり、あれが“人の営み”というやつか。
ならば、余ももう少し……見てみたいものだな」
彼は懐から、ひとつの封筒を取り出す。
そこには、手書きでこう書かれていた。
「再応募願い書」
その端には、小さくこう記されていた。
「特技:介護詩の朗読・癒やしのオーラ」
第6話まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
介護をしていると、「正解がない」と感じる瞬間によく出会います。
どんなに経験を重ねても、相手の気持ちや体調はその日によって変わるし、
うまくいかない日も、悩む日も、たくさんあります。
でも、だからこそ向き合う意味がある。
答えのない中で、“その人にとっての最善”を一緒に探す――
そんな介護の本質を、少しずつ物語の中でも描けていけたらと思っています。
これからも、登場人物たちの成長と関わりを見守っていただけたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。