前日譚4「原点の午後」
高校生のとき、神田は祖母と二人で暮らしていた。
両親が離婚し、親族のなかで唯一引き取ってくれたのが、その祖母だった。
祖母は当時、膝を悪くしていて、外出も家事もままならなかった。
学校から帰ると、神田は制服のまま買い物に出かけ、夕飯を作っていた。
「ただいま、おばあちゃん。今日はサバ味噌だよ」
「まぁ、いい匂い。誠はえらいねぇ」
そう言ってくれるだけで、報われる気がした。
ある日、学校で進路希望調査が配られた。
「神田、おまえんとこ誰も介護士とか医療系じゃねえのに、なんで介護福祉士?」
級友にそう訊かれ、神田は少しだけ考えて、答えた。
「うち、介護保険とか申請できなかったんだ。だから……俺がやるしかなかった」
「でも、それってただの家庭の事情じゃん?」
「……そうだよ。でも、誰かが手伝ってくれるってことが、こんなに嬉しいって思わなかったから」
そのときの言葉が、神田の中でずっと残っていた。
“ありがとうって、言われてはじめて、必要とされてたってわかるんだな”——と。
祖母は数年後、静かに亡くなった。
最期まで、誰にも頼らず生きようとした人だった。
だからこそ神田は、
「頼ってもいいですよ」と、介護の現場で言える人になりたかったのかもしれない。
あの原点の午後が、すべての始まりだった。
今回は神田の“介護職を志す原点”を描きました。
「身近な人の支えになりたい」と思う気持ちが、
どんな未来を生むかを感じてもらえたら幸いです。
次回は、いよいよ“現実から異世界へのつながり”をもう一度見つめる最終章です。




