【第20話】介護は続くよどこまでも――“ありがとう”が届くとき
「ありがとう、って言われると、なんか照れるよな」
そう呟いたのは、見習い職員の一人、獣人の少年ルガ。
掃除の手を止めながら、ポケットの中から一枚の紙を取り出した。
それは、入居者のトゥリルおばあちゃんがくれた手紙だった。
『るがくんへ
この前、椅子に座るのを手伝ってくれてありがとう。
ちょっと照れたけど、うれしかったよ。
あんた、ええ手してるのう。
その手で、また誰かを助けてやんなさい。』
「……なんか、やべぇな。これだけで、今日もう頑張れそうな気がする」
彼の言葉に、レオンが小さく笑った。
「僕も、最初に“ありがとう”って言われたとき、手が震えたよ。
嬉しくて、ちゃんと返事できなかったけど」
その日の午後、セカンドリーフでは「ありがとうメッセージ企画」が始まった。
職員が利用者に、
利用者が職員に、
そして新人たちも、それぞれが心にある“感謝”を言葉にした。
リリスからは、こんなメッセージが。
『優一さんへ
あなたが“見送ることの尊さ”を教えてくれたおかげで、
私は“生きること”を見つめ直すことができました。
ありがとう。』
ヴァルゴはなぜか短歌で書いていた。
「詩というは ありがとうすら 言葉足らず
老いと涙と 背中の温もり」
「……なにこの謎の情緒」
夕食後、ミルダがぽつりとつぶやいた。
「人はな、最期に残るんじゃ。“誰かにしてもろうたこと”が。
ありがとうって言葉は、“生きた証”みたいなもんじゃよ」
その言葉を聞いて、優一はそっと、記録ノートを開いた。
【記録メモ】
今日、ルガが初めて“ありがとう”をもらった。
介護は、誰かを支える仕事だけど、
こうして誰かに“生かされている”仕事でもある。
夜、セカンドリーフの食堂に、遅れてきた見習いの少女が入ってきた。
「……優一さん。私……介護、向いてないかもって思ってました。
でも、今日、手を握られて“ありがとう”って言われて……泣いちゃって……
でも……それでも、またやりたいって思ったんです」
優一は静かに頷いた。
「それなら、君はもう十分、介護士だよ」
次回:「嵐の前の静けさ――新たな問題の影、迫る」
穏やかな時間の裏で、王都の政策転換の噂が――
セカンドリーフの運命を揺るがす“制度の壁”が近づきつつある…!
第20話まで読んでくださり、ありがとうございます。
介護の現場で、「ありがとう」のひと言をもらえる瞬間は、
本当に胸に残るものです。
一生懸命やっていても、報われないことのほうが多いかもしれません。
でも、たった一言の「ありがとう」が、
また明日もこの仕事を続けよう、という力をくれることがあります。
支える側と思っていたけれど、
実は自分もまた、誰かに“生かされていた”と気づくとき――
それは、介護という仕事の中でしか得られない、とても特別な瞬間だと思っています。
読んでくださるあなたにも、何か小さな温もりが届いていたら嬉しいです。
次回は、物語の裏で少しずつ動き出す、次なる試練のお話になります。どうぞお楽しみに。




