15話
構えからしておそらくは突進でもしてくることはわかる。
となれば距離を取ったのは、アーノルドに対する配慮か。
先ほどは十メートル程度の距離であったが、いまでは二十メートルほど。
アーノルドとバルトラーにしてみれば瞬き一つで詰められる距離ではあるが、それでもそのコンマ数秒の差は結果に差異を齎すであろう。
舐めているとため息を吐いてもいいが、アーノルドはそれをバルトラーのその技への自信と受け取った。
その差異程度関係ないとの自負からくるものだと。
故にアーノルドも全力で応対する。
アーノルドの体からオーラが漂い始める。
それも纏うは黒いオーラだ。
現状、金色のオーラはその使える時間こそ長いがその出力は黒いオーラに遥かに劣る。
逆に黒いオーラはその力が金色のオーラよりも遥かに強いが、現在使える時間は極短い間のみだ。
それに燃費も悪い。
それでも黒いオーラを使うのはこれから放たれるであろう技への脅威度もそうであるが、何より武人としてのバルトラーへの配慮だ。
最後の戦いへの餞。
アーノルドとてそのくらいは弁えている。
先人への、そしてアーノルドの糧となった者に対する敬意として。
ハイルに殺意はあれど道具たるバルトラーには本来ない。
それに試したいこともある。
命を賭けた試行——されど命を賭けるに値する試行を。
アーノルドが何かを振り払うかのように手を上げる。
それによってアーノルドの周りにあった気配が遠ざかる。
互いの準備が整った。
地面スレスレに低く平行に構えられた槍。
その槍から逆巻く力の奔流が無数の渦を作る。
アーノルドはそれを見て思わず口角を上げた。
バルトラーがその腕に、そしてその脚に力を込める。
それだけで渦巻く風は勢いを増し、地を捲り上がらせた。
(我が生涯、最後の神撃!)
——『神吸垂撃』
まさしく消えたようにしか見えないほどの初速。
それも早過ぎて砂煙が立つことすら遅れるほどだ。
戦時中、幾度となく穿ち、一撃で数千、果ては数万という数を仕留めた、この槍だからこそできる奥義。
その逆巻く風が周囲の人々を捕らえ、逃げることすら許さず、立つことすらも許さず、頭を垂れさせ、ただバルトラーが突き穿つ止まらぬ槍の猛進。
ただの一度として止められたことはない神槍がゆえに為せる最強の一閃。
それをただ一人のためだけに放つなど考えたこともなかった。
本来ならば一度放てば数キロメートルは止まらない。
だが今回は二十メートルほど。
規模としてはこれほど小さいことなどない。
だがいまはもうこれしかない。
バルトラーの槍術はついぞアーノルドに届くことはなかった。
もちろんバルトラー自身が耄碌したというものあるが、それを抜きにしたとしてもアーノルドの剣術にはバルトラーも敵として相対しているのでなければ何の陰りもなく称賛したほど驚かされた。
まさかこのような少年が自分と純粋な力で張り合えるなど夢にも思わなかったと。
もちろん武人として自身の不甲斐なさに忸怩たる思いを抱いたが、後悔などしても仕方がないと、ただハイルの命令遂行のために邁進した。
そして一瞬の気の緩みが招いたミス。
嘗ての、戦場に身を置いていたバルトラーが聞けば、そんな愚行など馬鹿にするように鼻で嗤っただろう。
それに昔ならばこの程度の傷、死力を尽くして動き続けたかも知れない。
そもそもが攻撃を喰らうこともなかっただろう。
アーノルドほどとは言わないが、戦時中には幼き少年兵も数多くいた。
その者達と相対したときに油断など微塵たりともしなかった。
今回あの程度の動揺で攻撃を喰らうなどまさしくアーノルドが言うように油断し、そして神槍があることからと心の内で慢心していたということだ。
戦いとは選択の連続によって構成されている。
どんな攻撃をしてこようとも、理解できなかろうとも、常に最良を選択することこそが戦い。
にもかかわらず、戦闘中に呆けるなど自殺志願にも等しい蛮行であった。
だがどれだけ後悔しようとも、いまの体で戦い続けることが出来ぬことくらいバルトラーも感覚的に分かっていた。
あとは徐々に動きが鈍くなるだけだと。
だからこそ後がない。
だからこそこの神槍に全てを注ぐ。
後のことはもはや考慮に入れぬ、全身全霊の一撃。
まるで幾重もの仲間を引き連れてでもいるかのように逆巻く風と共に——否、それを追従させてバルトラーは構え待つアーノルドへと駆ける。
バルトラーの槍は見える風だけでなく、その前方にも不可視の渦を作りその領域に入った者の自由を奪う。
左右、前後、上下——その全てが槍の領域。
たとえ遠距離の攻撃であろうともバルトラーに届く前に砕け散る。
領域内に入れば動くことすら赦さない。
故にバルトラーは止められない。
止まるはずがない。
そして時間にしてコンマ数秒、だがバルトラーにとっては体感時間数十秒にまで引き伸ばされた時間が経過した後、その槍が遂にアーノルドへと届く——
轟音と、何かが爆せたような砂煙が舞い散る。
そして数十メートルもの距離を地を粉砕しながら進撃する。
だがその勢いも徐々に落ち、次第にバルトラーの足が止まる。
そして追従していた逆巻く風がバルトラーを後ろから叩いた。
バルトラーは歯噛みし思わず目を瞑りたくなったが、グッと堪える。
だが目を逸さまいが現状が如実に語る。
全身全霊を賭けたバルトラーの攻撃が——不発に終わったと。
なぜならば、この攻撃はバルトラーが止まるまで進み続ける猛進の槍。
それがバルトラーの意に反して止まったとなれば、それが意味することは一つ。
——止められたということ。
風が巻き起こした砂煙でバルトラーには槍の先端すら見えやしない。
だが力を込めようとも槍がびくともしないことだけは事実だ。
いつもならばバルトラーの後ろには、ただ幾重もの臓物が混じり合った死臭とうめき声だけが感じる全てであるはず。
だがいまあるのはバルトラーが進んだことによって出来た一筋の破壊された地面だけ。
そこに血一つ滴っていないことはもはやわかっていた。
誰も前に立つことなどできなかった神の槍が——神槍が遂に破れた。
バルトラーが感じ取る前に立つ気配は一つであるが、他の者達の気配はバルトラーには判別できぬくらいの曲者揃い。
煙が晴れればそれを止めているのは、幾人もの隠密達かもしれない。
だがバルトラーはそれがアーノルドただ一人で為されたものだと何の根拠もなく確信していた。
これまでの戦いによる経験か、はたまた直感か。
数十秒が経ち、互いが互いに身じろぎ一つしない中、遂に砂煙が晴れてくる。
まず見えたのは砂煙の中でも宝石のように輝くアーノルドの鋭い双眸。
そして——穂先が地面に刺さる槍と、それを為したであろうアーノルドの“脚”だ。
その右脚には不気味なほどの威圧感を伴った黒いオーラが纏わり、それがバルトラーの槍を包むように侵食していた。
それを見たバルトラーはまるで幽霊でも見たかのように瞠目し、口を震わす。
「ば、ばかな……」
その言葉にはバルトラーの想いの全てが乗っていた。
剣で受けたのならまだわかる。
だが、脚で受けたなどあり得ぬと。
たとえオーラで防御を固めようとも、それすら貫くのがこの槍の力だ。
巻き込むもの全てを灰塵に化す。
確かにアーノルドの剣ならば——これまで数百合ほども斬り結んでも壊れなかった黒剣ならば止められた可能性はあるだろう。
だがそれでも風の引力からは逃れられなかったはずだ。
槍が灰塵と化し、追従する風が全てを狂わせ吸い込み斬り刻む。
逃れる余地などない、放たれれば必殺の奥義。
それを足で受けるなど、世の法則を捻じ曲げるかのような異業だ。
そもそもアーノルドが未だ立っていることすら信じられぬ光景なのだ。
「そ、それは、そのオーラは一体……ッ‼︎」
バルトラーはアーノルドの脚に纏わりつくようなオーラを見て、そう言葉を溢す。
闇のオーラ。
どこまでも吸い込みそうなほど底が見えぬ漆黒。
思わずバルトラーの喉が鳴る。
「何かか? はっ、さぁな。一体なんなのだろうなこれは。私もそれが知りたいところだ。だが、先ほどの貴様への攻撃といい、今回のこれといい、少しは“理解”出来たかもしれんな。とはいえ十全には程遠いだろうが……。とにかく礼を言うぞ? 貴様のおかげで長く止まっていた時が少しばかり動いたような気分だ」
機嫌良さそうにそう言ったアーノルドはそのままバルトラーを蹴り飛ばし、次いでその手に持つ槍を弾き飛ばした。
互いを別つようにゴロゴロと転がるバルトラーと神槍。
死んではいないが、槍を手放した今、もはや勝敗は決まったようなもの。
そうでなくともバルトラーにとっては先ほどの攻撃が止められた時点でもはや打つ手なしだ。
「うぐっ……」
うめき声を上げながらも立ち上がろうとするバルトラーに泰然と近づくアーノルド。
「もはや勝敗は決した。異論もないだろう?」
そうバルトラーに問うが返答はない。
当然だろう。
認めるということはハイルの死すらも認めることに等しい。
とはいえ、アーノルドにとってはバルトラーが認めようが認めなかろうが関係ない。
「さて、二つほど済ませなければならんこともあるな」
アーノルドはそう言うと、勝者の特権としてバルトラーの過去について問う。
体に積もるダメージで辛そうではあるが、バルトラーは血を口端から流しながらもその重い口を動かした。
少なくともバルトラーが話している間はハイルは生きながらえるのだから必死にもなろう。
それを聞いている間、アーノルドの表情は終始変わらなかった。
時間にして十数分といったところか、バルトラーは少しでもハイル生存の可能性を上げるためか口を開く。
その間バルトラーは数多の可能性を探るが、ハイルを生かす道は見つからない。
そして話も無限ではない。
遂に終わりを迎える。
「——これで……、以上となります」
その言葉を聞き終えたアーノルドは嘲笑するかのように鼻を鳴らした。
「予想に違わずつまらん話であったな」
真相はやはり王による謀殺という顛末。
だがそこに至る経緯は突然ではなかった。
まず王はやはり予想に違わず、褒美という方向でバルトラーに爵位と領土を授けようとしたようだ。
ここまでは当然だろう。
そして神槍である『ガラジュボルン』を国に献上するようにと誘導しようとしたようだ。
神具、それも戦争を勝利へと導いた武具が国にあるというだけでその国の持つ威信は計り知れないものとなる。
王としては是が非でも自身のものにしたかっただろう。
それだけで自身の名が後世に残るほどの偉業となる。
神具を賜りし神に愛された国の王として後世までその名が残ったことだろう。
だが神槍はバルトラーが神より賜りしもの。
人並みに信心深かったバルトラーは爵位や領土程度で、そしてまたそれと交換の形で槍を献上するというのは神を裏切る行為に感じ、それら全てを断ったと言う。
となれば、肝の小さき王にとっては叛意があるのかと思うのもまた道理。
本来、王の言葉は絶対の言葉。
それも言葉を賜したのが平民ともなれば抗うことすら赦されない命令にも等しい。
バルトラーにそんな意志はなくとも、王にとって自身の申し出を断るのは不忠にして疑惑の種。
一度疑惑を持てばあとは膨らみ成長するばかり。
そうでなくとも、自身の“好意”を断られて自らの自尊心も傷つけられたともはや疑心と怨心が入り混じるのも時間の問題。
権威に取り憑かれた王であるならば、断られたことによる怨心もまた大きかっただろう。
とはいえ、それら全て王の心が脆弱で暗愚であったがゆえのこと。
その王の道理とはいえ、世の道理とは程遠い。
国が違えば英雄の謀殺などということにはならなかっただろう。
そして当然の帰結としてバルトラーには追っ手が差し向けられた。
一人で戦争を終わらせた英雄に追っ手を差し向ける時点でその王の頭の程度が知れるというもの。
バルトラーからすれば王が寄越した軍や暗殺者程度、その槍を以てすれば斃すのは簡単だっただろう。
だがそれはしなかったと言う。
それをすれば神の意志に反することになるのだと。
あの槍はこの国を救うためのもの。
だからこそ国を廃する形で使うことはなかったと。
アーノルドからすれば全くもって理解できない思考だったが、それに対して文句を言うつもりもない。
そして数ヶ月の逃亡生活の末にバルトラーを拾ったのがハイルの公爵家の当時の当主だそうだ。
バルトラーはその当主を救世主のごとく崇拝すらしているといった有り様であったが、アーノルドはどうにもきな臭さを感じていた。
ただの善意で拾ったなどとは到底思えなかった。
少なくともバルトラーは王の敵。
その王に曲がりなりにも従う貴族ならばバルトラーを匿うなどありえない。
となれば考えられるのは当時の王への叛逆の駒。
ハイルの公爵家は元を辿れば王族の血を引く家門。
権威欲ある人物ならば自身が王になろうと目論むこともあるだろう。
そのための武力としてバルトラーを拾ったというのが有力だ。
とはいえ真実はもはやわからない。
少なくともその公爵が叛逆するよりも前にアルトティア帝国の手によって彼の国の王が殺されたのだから。
だがバルトラーは敢えて言葉を濁したところがあった。
なぜバルトラーがその公爵を信用出来たのかも語りはしなかった。
本来王に追われている中でその国の貴族に声をかけられホイホイとついて行くなど余程の馬鹿でない限りはありえない。
とはいえ、それを聞き出す気もない。
それに巧妙に隠そうとしていたが、おそらく当時アルトティア帝国を手引きしたのはハイルの公爵家だろう。
そしてバルトラーもそれを知っているとなれば、当時の公爵がバルトラーを利用しようとしたことも知っているのやも知れない。
だがそれらが事実であるならば、その公爵は願いを叶えたに等しいだろう。
王が死に、属国となったその国で誰が代わりに国を治めるかなど皇女と結婚したその公爵を於いて他にいるはずもない。
皇女が公爵に惚れたが故に彼の国は滅びたのではなく、公爵の権力に対する欲が国を滅ぼしたというのが歴史の裏に隠れた事実かもしれない。
再度くだらぬなとアーノルドは軽侮の色を孕んだ笑みを浮かべた。
「貴様を助けたという公爵は今も生きているのか?」
その元皇女が数年前に死んだというのはアーノルドも知っているが、その配偶者である公爵がどうなのかまでは知らない。
既に国を代理として治める人物はハイルの父親になっているし、こうしてバルトラーが現れるまで自ら調べるほどの興味もなかった。
「……夫人の後を追うように、亡くなられました」
「そうか」
アーノルドは僅かに自嘲するような笑みを浮かべ、落胆にも似た鼻息一つ溢した。
そして最後にやるべきことを為す。
アーノルドは遠く離れたコルドー達にハイルを連れてこいと命じる。
数百メートル離れていようとも、これほど見通しが良ければコルドー達ならば視える。
案の定とでも言うべきか、コルドー達が近づいてくるにつれてやかましい声が聞こえてくる。
「貴様ッ‼︎ この俺様をこのような……ッ‼︎ 今すぐ降ろせ‼︎ さもなくば、貴様だけでなく、貴様の家族、友、貴様に関わりある全ての者を殺すぞ‼︎」
未だ現状を理解できない愚者がアーノルドとバルトラーの前へと投げられる。
グェッという声を出し、べちゃりと地面に投げ捨てられるハイル。
「貴様ッ——」
泥に塗れたハイルがそれを命じたアーノルドに憎悪の瞳を向け怒鳴ろうとしたとき、一瞬の隙でも突こうとしたのかバルトラーがアーノルドへと迫り、右腕を伸ばしてくる。
(ここで……ここが最後ッ‼︎)
だがアーノルドはため息一つ吐きながら事もなげにバルトラーのその右腕を斬り飛ばした。
流石に覚悟が決まっている元英雄だけあってか、バルトラーは僅かなうめき声を漏らすだけで悲鳴すら上げなかった。
そしてアーノルドはそのまま蹴りを叩き込もうとするが、それをバルトラーは間一髪でそれを躱した。
「ほう……」
すぐさま再度突き進んでくるバルトラー。
だが感嘆の吐息を漏らしたアーノルドは冷ややかな目でバルトラーを見るだけでそれ以上何もしなかった。
代わりとばかりに隠密達がバルトラーを取り押さえる。
ハイルはその光景を唖然とした間抜け面で見ているだけだった。
「き、貴様……ッ‼︎」
「どうだ? くだらん夢からは醒めたか?」
困惑と怒りに苛まれているハイルにアーノルドは憮然とそう言った。
「夢? 夢だと⁈ 貴様こそ何を夢見ておる‼︎ この俺様の執事に傷をつけたこと、もはや貴様一人の命で賄えると思うなよ⁉︎」
「愚物が……。未だ状況すら理解できんか。もはや話すだけ時間の無駄だな」
「お、お待ちください……ッ‼︎ 此度の件、全ての責は私にございます。この愚老の首、如何に耄碌したとはいえそれなりに価値あるもの。どうか私の首一つでこの場は収めていただけませんでしょうか⁈」
バルトラーは地面に押さえつけながらも、口から血を吐くことなど気にもせず声を張り上げた。
その忠誠心だけは見上げたものだろう。
他者のための自己犠牲。
ご立派なことだとアーノルドは鼻で嗤う。
だが——
「バルトラーよ。貴様の首の価値を決めるのは私であって貴様ではない。いつでも取れる愚者の首といつでも取れる老兵の首……片方だけ選ぶ理由がどこにある。貴様のその主人に尽くす気概は好ましく思うが、それも度が過ぎれば不快に思うだけだ」
「不快に思われたのならばいくらでもこの頭を下げましょう。どれほどの辱めであろうとも快く受けましょう。ゆえにどうか、ハイル様だけは……ッ‼︎」
その必死な様子にアーノルドはため息一つ吐いた。
「……わからんな。このようなクズにそこまでする価値があるか? 先ほどの話を聞き、貴様が彼の公爵家に恩義を感じているというのは理解できたが、それも純粋な好意ではなかっただろう? 所詮、打算の上の関係だろうに」
「それこそ、それをどう受け取るかは私の自由でございます。たとえそうであろうともあの時、公爵様が私を助けてくださったことは事実。それは誰であろうとも否定させはしません」
バルトラーはその声に意志を伴わせていた。
ハイルは動こうとしたところを影の一人に短刀を首に押し付けられ、喋ることも動くこともできていない。
流石に本物の死の気配くらいはわかるようだ。
いま動けば影は何の躊躇いもなくハイルの首を飛ばすと。
「そうか。まぁ貴様の想いまでは否定すまい。……とはいえ、私が貴様の願いを聞き入れる必要もない」
「武人としての頼みだとしてもですか?」
「はっ、くだらぬな。武人ならばそれこそ結果を受け入れろ。この世は強者こそが全てを手に入れられる世界だ。貴様は負け、私が勝った。全てを決めるのは私であり貴様ではない。思い上がるな」
そう言うとアーノルドはハイルの方へと歩を進める。
それに反応したかのようにバルトラーがアーノルドへと再び飛び掛からんと動く。
押さえていた影達すら退ける力。
槍が離れていようとも、神槍の主人としてその力の一部をバルトラーは使える。
正真正銘最後の奥の手とも言える
だが当然、別の影がバルトラーの前に遮るように現れる。
しかし命すら燃やして進む最後の抵抗。
並大抵のことで捕えられるつもりなど毛頭なかった。
それに阻む影も一人。
手を掴まれたバルトラーはそれを振り払うべく力を込める。
——だが逆に地面に叩きつけられる。
「グハッ……‼︎」
『クスクスクス、あ〜あ、みっともな〜い』
淫らなほど他者を嘲笑する笑い声と嘲罵がバルトラーの脳内に直接響く。
(女……ッ⁈ それも若い⁉︎)
顔は見えないが声色から、そして掴まれた際に感じた体の造形からそう断じたバルトラーはその顔に驚愕を浮かべた。
女だから弱いなどというつもりはないが、傷ついているとはいえ単純な力でいとも容易く制圧されたことは饒舌にしがたい体験であった。
「おい……」
「は〜い」
どこからともなく聞こえてきた窘めるような声色に返事をしたかと思えばその影は消えていった。
そしてずっと前を見ていたはずなのにいつ現れたかもわからぬに影が倒れ伏すバルトラーの前に立っていた。
自身では認識すら出来ない実力者。
「クッ……‼︎」
バルトラーは突然体に重りが乗ったかのような体の変調に思わず声を漏らした。
「お前はそこでただ観ておくといい」
その影は感情を窺わせぬ声でそう言った。
バルトラーはそれでも動こうとするが動けない。
意志がどうこうという問題ではなかった。
物理的に体が動かせないのだ。
動かせるのは顔だけ。
まさしく観ることだけが許される全て。
アーノルドがハイルへと近づき、短刀を当てている影に視線を送るのを見ていた。
そうすると影は霧のように霧散し消えていく。
それで危機が去ったなどとは喜べるはずもない。
むしろハイルの死を色濃く感じていた。
逃げなさいと、やめろと、声を出そうとするがそれすらも出ない。
ハイルは目に見える死が遠のいたことでまたしても勢いを取り戻したかのように勢いよく口を開く。
「貴様ッ——」
だがハイルが言えたのはそこまでであった。
もうアーノルドにとってハイルなど価値なき者。
ゆえに何の感慨もなく首を刎ねた。
声無き声がバルトラーの喉から漏れる。
そして倒れゆく首無き体を一瞥し、鼻を鳴らしたアーノルドはハイルの首を無造作に掴み、バルトラーのところへと放り投げた。
他者を見下すような表情のまま虚を映したハイルの瞳と目が合う。
「これが貴様らの選んだ結末だ。力無き者が得られるものなど虚飾に塗れた偶像でしかない」
先ほどまでバルトラーの目の前にいた影が消え、自由になろうとも動こうとしないバルトラーを見てアーノルドは踵を返した。
「帝国と貴様の主人にでも言っておけ。教育を間違えるなと」
「わ、私を見逃すと……言うのですか?」
恨みと疑念が混ざっていそうな声色。
本来ならば目撃者は須く殺すべきというのが常識。
貴族殺し、それも皇族に縁ある者。
だがどの道、皇族に連なる者が殺されたのならばその調査が絶対に行われるだろう。
これだけの痕跡を残している。
調査の末にアーノルドに辿り着くのは時間の問題。
ならばアーノルドは逃げも隠れもしない。
ハイルの首を持ち帰らせ、誰がやったのかを確定させる。
その方が都合がいい。
それに、バルトラーに出来ることなどもはや何一つない。
槍もなければ、利き手となる右腕すらない。
バルトラーがアーノルドに対して考えたように、腕一本というのはアーノルドにとって覆しようのない差がついている。
槍は基本的に腕二本で扱うのが常道。
その時点でバルトラーなどもはや敵ではない。
治癒魔法で腕を生やすことも出来るであろうが、その可能性は“ない”。
「見逃すか……。そもそも貴様を殺すつもりも、その価値もない。ああ、だが戦利品としてあの槍は貰っておこう。もはや武人としては終わったも同然。精々余生は静かに過ごすんだな」
アーノルドはそう言うと騎士達を引き連れ、項垂れるバルトラーを残し馬車で去っていった。
――∇∇――
試験が終わった次の日には受験生達の暫定となる総合点が関係者達には“データ”として公表されていた。
そんな中、とある部屋で一杯数百万はするだろうワインが入ったグラスが壁へと叩きつけられる。
「どいつもこいつも使えんやつだ‼︎」
小太りの煌びやかな服を着ている四十代くらいの男が猛り狂いながらそう叫ぶ。
「こんなことがあってたまるか! 何のために試験問題を盗ませて……、試験官まで買収したというのに我が息子が主席ではないだと? クソッ! これでは私の権威が上がらぬではないか! ありえぬ。こんなことはあってはならぬ! 他国の猿風情が……ッ‼︎ よりにもよって私の邪魔をするとはな。どこのどいつか知らんがこのまま終わらせてたまるか! 一体どれほどの根回しをしたと思っている‼︎ これほどの機会……。名ばかりの公爵家などこの私の代で終わらせる。そのために……ッ‼︎ 私は公爵だぞ⁈ 本来ならば王の次に偉い者。誰もが逆らえぬ者だというのに……。他国の無能な貴族共よりも権威が下であるなどありえぬ」
少し前まではこの国だけで完結していたからまだその想いもマシであったが、他国の貴族と自国の貴族、その違いを意識してしまえば、心の底にあった不満も次々と表面に出てくる。
本来貴族として受けられたであろう権利。
それをさも当たり前かのように享受している他国の貴族を見れば、その不満を抑えきれなくなるのも必定であった。
この男は開国する前であっても権威というものに囚われていたが、いまでは公爵という地位がもつ本来の権力を自分が持っていないことが我慢ならなかった。
無能なだけの他国の貴族が自分よりも上に立っていることが許せなかった。
「馬鹿どもが足を引っ張りおって。保険として他にも生贄を用意しておいて正解であったわ。とはいえ、私も疑いの目を向けられるのは避けられん。ボルネイめ、あれほど可愛がってやったというのに恩を仇で返すような真似を……ッ‼︎ この私の顔に泥を塗るとは計画が危うく台無しになるところであったわ」
怒りで握りしめる拳からは爪が食い込み血が滲んでいた。
「試験官という地位にまでねじ込んでやったというのにくだらぬ感情で台無しにするどころかこちらにまで面倒事を押し付けてくるとはな……。私自身で殺してやりたいくらいだが……、とはいえ、見捨てるのはまずいか。そうなれば私に追従する勢力が目減りことは必定。……ふん、死刑にならぬようにだけは根回ししとかなければならんな。まったく、やはり無能など目にかけるだけ意味のないことよ。元首の小僧め。よくも私の神聖な学舎にクズ共を入れてくれたものだ」
この世を統べるのは自分のような有能な者が持つ特権。
バルデバラン学院も嘗ては国の中でも有数の秀でた者しかいなかったのに、今では凡俗が我が物顔で闊歩している。
優れた自分が間違った世の中を是正せねばなるまいと。
「しかしガルフィードの小娘め。なぜあの場所に現れた? ああいったことがないように邪魔になりそうな者共を閉じ込めておくための宴までわざわざ開いてやったというのに……。女ならば女らしく男に媚びでも売っておけば良いものを。まったくどこまでも気に入らん小娘だ。しかし、私が直接動くことは極力避けたかったが……、そうも言ってられんな。まずはこの邪魔な者をどうにかせねばならん。……おい、この者の情報を何としてでも集めてこい」
そこに記されているのはアーノルドという文字。
それ以外の個人情報は黒塗りされている情報媒体。
それを確認した影に潜んでいた者の気配が一つ消えた。
「最終的に全てを手に入れるのはこの私だ」
――∇∇――
とある通路を進む隠密が二人。
「簡単、手薄ってね♪ 本当にここがトライデント魔導王国の深部? こんな罠程度に引っかかると本当に思っているのか?」
ここに至るまで大した障害もなく進んできた男は任務の最中であるにも関わらず軽口を溢す。
「無駄口を叩くな」
その男の上官にあたるもう一人の女がそれを窘める。
だが、確かに異常なほどここに来るまで大した障害の一つもなかった。
まるでお膳立てでもさせられているかのような違和感。
とはいえ、感じ取れる範囲では“正常”だ。
女は任務を出された際の言葉を思い出す。
『諸君らの任務はトライデント魔導王国の深部にある、とある書類を取ってくること。もしくはその場所を突き止めること。そして何よりも重要なのが痕跡を残さぬことだ。見つかれば“即撤退”しろ。要注意人物についてだが——』
自害ではなく撤退というだけでも異例も異例。
それは自害すら赦されぬということ。
死体一つが痕跡になるため、死ぬことすら赦されない。
経験上、そういった任務が簡単な訳などない。
とはいえ、今回はなかなか不可解な任務。
それほどの高難度の任務ならば自分よりももっと適任がいそうなもの。
捨て駒かとも思った。
別に捨て駒にされることにも何も思わない。
そういう風に“教育されてきた”のだから。
とはいえ、捨て駒としてあてがわれた気配は今のところない。
普通に歩けば響きそうな通路を足音一つ立てずに二人が超速で進む中、二人の眉がピクリと跳ねる。
「——止まれ」
通路の奥から聞こえてきた声に隠密の二人が止まり、示し合わせたかのようにすぐに別の道に行こうとするが動けぬ圧力がその身に襲いかかった。
(ッ⁉︎ なんだこれはッ⁈)
その一瞬の硬直が逃げるという選択肢を消した。
(だが……これほど近づかれるまで気配が掴めなかっただと?)
隠密として訓練されているだけに、相手の気配を探るなど造作もない。
それこそこの建物を囲む領域くらいならば誰がどこにいるかなど手に取るようにわかる。
だからこそこれまで誰にも会わずに来ることができた。
にもかかわらず、静止の声が掛けられる直前まで気配が読めなかったことに思わず歯噛みした。
コツコツとよく響く足音を立てて近づいてくるは二人。
大剣を携えた大柄な男と鋭い雰囲気を醸している子供のように小柄な女。
「くッ……」
その容姿に心当たりがある女は思わず苦悶の声を漏らした。
それとは逆に侵入者二人を見た男が僅かばかり眉を顰めた。
「……二人だと?」
小さい声でそう呟く大柄の男を尻目に侵入者の男が女に念話を飛ばす。
『おいおい、どうするね?』
この隠密のリーダーは女の方だ。
初動を抑えられたいま、叩くか退くかそれを決めるのは女である。
念話で飛ばされた問いかけに女は即座に決断を下す。
『撤退する』
見つかった以上もはや任務の遂行は出来ない。
相手の死体も攻撃の一つすらも痕跡となる以上、もはや任務は失敗。
見つかることまではまだ許容範囲内であるが、それ以上はダメだ。
そして撤退するために共に脚に力を入れた瞬間、軽薄な男の脚が崩れ落ちた。
「ぐっ……⁉︎ 暗器⁈ 毒か? ヒハ、なんとも見た目にそぐわない武器だね? いいや、それとも君の陰険さをよく表しているのかな?」
刺さった暗器を引き抜きながら軽口を叩く隠密に対してそれを放った女が口を開く。
「間諜にしては口が軽い。ここがどこだか分かっている?」
人形のような無機質な物言い。
「——まさか逃げれるとでも?」
そして怒気とも言える凄まじい殺気がその隠密達を貫く。
相対した時から分かっているが目の前に立つ二人は隠密よりも遥かに強いことはわかっている。
(ガラン・ハーネックにユン・ラーベル‼︎ 要注意人物リストに載っている二人……ッ‼︎)
「捕らえるつもりかい? あはは、それでも帰るのが——」
男が何かをしようとした瞬間、男の鼻から上が消し飛んだ。
「……もう喋らなくていい。不愉快」
「クッ……‼︎」
——格が違う。
それが今の気持ちであった。
先ほどもそうであるが、攻撃の初動が一切見えない。
『——痕跡は残すな』
その命令に従い、瞬時に女は男の遺骸を灰すら残さず燃やし尽くし、そのまま来た道を駆ける。
魔法も痕跡にはなり得るがそれでも死体を残すよりは遥かにマシだ。
ユンは即座に女に暗器を放つ。
だがそれは侵入者の女に当たることなく不可解な軌道を描きながら脇へと逸れた。
「?」
それに対して僅かに小首を傾げ、隣のガワンを見た。
侵入者の女を倒すのは本来ガランの役割であったはずであるが、侵入者の女が逃げても動かぬのを見てユンが小首を傾げた。
「……追わないの?」
何もしないガランに対する非難とも取れる声色。
だが——
「……出てこいよ。それで隠れているつもりか?」
視線険しく放たれた言葉にユンも警戒を強める。
数秒、いや、数十秒その場には物音一つしない沈黙が支配する。
『——ふむ、あの二人が現れたときは僥倖かとも思いましたが、いやはや……貴方のような者に気配を悟られるとは私も耄碌しましたかな?』
反響しているかのように四方から聞こえてくる声にユンが目を細めた。
「どこにいる……?」
声だけで姿が見えない。
ユンは視線だけを動かし、声の主を探す。
「目の前……十メートルほど先だ」
「え……?」
ガランの言葉に女は刹那固まった。
いくら見ようともそこには何もいない。
どれほど相手が隠密に優れていようとも、女の実力があれば、いる位置さえ分かればそこに集中し気配を探ることなど造作もないはず。
なのに何も見えない。
だが見えなかろうともユンは即座に暗器を飛ばす。
だが暗器は何かに弾かれたように床に落ちた。
「ほう、本当に視えているのですか。いやはや、困りました。探りたいことがあったのですが……。できれば事を荒立てたくはないのですがね」
言葉に乗る感情に敵対の意志は感じられないが、それはこの場を去るという言葉でない以上交戦は避けられない。
「勝てる……?」
ガランだけ聞こえるくらいの小声でユンがそう問う。
自分には見えもしない敵。
それにおそらくはいとも容易く自身の攻撃が防がれた。
ただ姿を消すのが上手いだけでなく、明らかに格上。
戦いになるかすら定かではない。
その表情は先ほどまでの余裕が嘘であったかのように硬いものとなっている。
「さぁな。だがやるしかない」
冷や汗を浮かべるガランは僅かに笑みを浮かべてそう言い放つ。
勝てないから退くでは守護など務まらない。
「それでは仕方ありません。少しばかり眠っていてもらいましょう」
その言葉に二人はそれぞれの武器を構えた。
「——いいや、それには及びませんよ」
第三者の声。
コツコツと泰然と歩いてくる一人の男。
「げ、元首様」
男達よりも前に進みゆく元首に声をかけたガランに対して元首は手でそれを制した。
「戦う必要はありませんよ。貴方の問いには私が答えましょう」
男達には未だに侵入者の姿形すら認識できていないが、元首はまるで相手が見えているかのように話していた。
「……まるで私が欲しているものが何かわかっているといったご様子」
「当然ですとも。貴方が何のためにここに来たのかはわかっていますとも」
厳粛とも呼べる空気の中、元首は笑みすら浮かべて軽い口調でそう返した。
「……」
「お互い無駄な時間を取る必要もないでしょう。知りたいことを答えましょう」
そう言った元首は薄らと笑みを浮かべ、一拍置いて口を開いた。
「——『傀儡士』はここにはいません。これで答えになったでしょう?」
その言葉に侵入者——クレマンの表情が険しくなる。
ここに来たのはクレマンの意志。
誰にも言っていないこと。
にもかかわらず、誰かをわかった上でその目的すら当てた目の前の元首に対して警戒心を抱くなというのは無理ある話であった。
「仮にそれが私の知りたいことであったとして、見ず知らずの貴方の言葉を信じるはずもないでしょう」
「当然ですね。ですが、貴方は信じるでしょう。なぜなら————」
元首はそれから焦ることもなくただ事実を話すかのように言葉を紡いでいた。
言葉が紡がれる毎にクレマンから発せられる存在感が増していく。
それにガランとユンが表情をより硬くしていくが、当の元首は涼しい顔色のまま。
元首の言葉が止まり、静寂が幾許か支配する。
少なくともクレマンには元首の言葉が嘘であるようには思えなかった。
「……なるほど。いいでしょう。ならば全てを確かめた後にそれが間違っていたならばまたここに戻ってくるとしましょう。もし貴方の言葉が嘘であったとき——楽に死ねると思わないことです」
常人ならば死んでもおかしくはないほどの殺意の波動が通路全体を軋ませる。
すぐにガランとユンが元首の盾となるべく前に躍り出た。
「それと最後の言葉は聞けません。もしあのお方に何かをするつもりならば……この国が滅ぶことも覚悟しておくことです」
そう言うと、最後には凄まじいほどの気配を放っていた存在の気配が初めからいなかったかのように忽然と消えていった。
「……そうはなりませんよ」
聞こえもしないだろうが元首は小さくそう呟いた。
そして守ってくれていた二人を労う。
「ガラン、ユン、ご苦労様。まったく災難だったね」
「い、いえ、」
「……いえ、お役に立てず申し訳——」
「あはは、そんなこと思う必要はないって。あんなものは天災と同じさ。まったく大人気ない爺さんだよね。若者にはもう少し配慮して欲しいもんだ」
元首はそう言うと忙しい忙しいなどといいながら再び来た通路を戻っていった。
「……強くなったと思っていたけれど、まだまだ足りない」
ユンはそんな言葉を溢した。
「俺もだ」
「でも少なくとも気配を察知できていた。私は……」
「いや、俺にもわかってなんていなかった」
「?」
『明日のこの時刻、この場に一人の侵入者が現れる。だから守っておいて。ああ、ユンでも連れていくといい』
元首がそう言っていなければ気が付かなかった。
侵入者の女を追わなかったのではなく追えなかったのだ。
何せ、あの侵入者は三人ではなく二人組。
元首が言っていた侵入者の数と合っていなかった。
侵入者をユンが倒している間も常に目を光らせていた。
だがそれでも結局気配を読むことはできなかったのである。
『もし君が侵入者を見つけられなかった時は、前方十メートルほどに注意するといい』
呼びかけも、位置の特定も、元首の言葉があればこそ。
結局最後の最後までその姿を目にすることはできなかった。
だが疑問も残る。
侵入者が来るという情報を持っているのはおかしくない。
だが、その位置、そして自身よりも遥かに武力が“劣る”元首がなぜ正確に侵入者の位置を探れたのか。
あれは適当などではなく、明らかに目を見て話しているような雰囲気であった。
魔道具か、それとも元首特有の能力か——
「何にせよ胡座をかくのももう終わりだ。今以上に強くならなければ」
「うん」
ガランとユンはそれぞれが星一四、星一三を有する武人。
この国一ではないにせよ、この国有数の強者であるという驕りの気持ちが消え失せた。




