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72話 幕間

 その場はシンと静まり返っていた。


 誰の息遣いも聞こえぬほど陰険な気に満ちていた。


「……はぁ〜、どうしたものか」


 重鎮達が集まる会議室にそう1人ごちた王の声が思いの外響き渡った。


「陛下」


 王の隣に座っていた宰相が胸に手を当て、敬仰の心を露わにしながら発言した。


 この国はただ1人あの凄惨たる殺戮の場から生還出来た新人を抱えている国であるカルガリード王国である。


 新人が持ち帰った情報はある種爆弾に等しい。


 そこに含まれるのはアーノルドの情報だけではない。


 それ以外の戦いの情報もこの国しか持ち帰れていないのだ。


 これを持ち帰った国が大国であるならば何の問題も無かっただろう。


 だが、この国はお世辞にも大国とは言えない小国だ。


 情報というものは価値あるものほど危険も付き纏う。


 この国しか持っていない最重要レベルの爆弾。


 それを守りきれるほどの力などこの国にはない。


 ならば、なぜわざわざ情報を集めたのか。


 諜報員を出さなければ、それすら出せぬ弱小国のレッテルと共に周辺国が舐められるからだ。


 それに国として最低限の情報は持っておかなければならないのは言うまでもない。


 かといって、出過ぎた真似をして大国に目を付けられたくない。


 だからこそ、それなりで良かったのだ。


 だからこそ適当に新人を送る程度で問題がなかった。


 他国を出し抜かぬまでも最低限の情報があればそれで外交は問題ないのだ。


 なのに、蓋を開ければ情報を持ち帰ったのはこの国だけ。


 大国の優秀な諜報員ですら死んでいるのに生き残ったのがこの国の新人だけという事実。


 数多の精鋭達を差し置いて生き残ったのが新人などと言っても誰も信じやしないだろう。


 情報が手に入ったからと手放しで喜べるような状況ではなかった。


 むしろ雰囲気は葬式に近い。


 そもそもこの国にとって、ダンケルノ公爵家の情報など然程重要なものでもない。


 国として、他国の力を把握するのは大事であるがカルガリード王国とダンケルノ公爵家を有するハルメニア王国はそれほど近い国でもないし、警戒するほど何か確執があるわけでもない。


 それに情報も情報だ。


 重要なところはミミズ文字で解読するのも大変であったし、更に全員が死んだ原因となる闇に関する情報は大した情報がない。


 正直新人が死んでくれた方がまだマシであっただろう。


 死んでくれていれば、いまここで頭を悩ます必要などなかった。


 しかし、新人を責めても仕方ないのは分かっている。


 そんなことをしても事態が良くなることはない。


 だからこそ、いまこの場で話し合っているのだから。


 得ている情報を他国に睨まれるのを覚悟の上で隠すのか、それともダンケルノに睨まれるのを覚悟の上で開示するのか。


 だが、開示したとしても、正直確信に迫るような情報などない。


 それこそ馬鹿正直に全て開示したとしても、他国はこの国が意図的に隠蔽していることがあると邪推するだろう。


 情報を得たのがこの国の新人しかいないという事実を隠し通すなど不可能であることはわかっている。


 少なくともこの大陸最大の領土を誇るアルトティア帝国相手にこの国の情報を隠し通すことなど不可能なのである。



 この国の貴族がこの場に多く集まっているが、誰も責任を負いたくないのかはっきりとした意見を言う者はいない。


 皆顔を見合わせるか俯き誰かが発言するのを待っていた。


 その中で宰相は発言をした。


「開示することを、選びましょう」


 宰相は自分でもその判断が正解かどうか断じることが出来ないからか緊張した面持ちでそう答えた。


 だが、その言葉には強い意志が乗っている。


 その言葉がキッカケで静寂に包まれていたその部屋にざわざわとした音が戻ってきた。


「だが、そうなればダンケルノ公爵家の恨みを買うかもしれませんぞ?」


 1人の貴族がそう宰相に詰問した。


 ダンケルノ公爵家に敵と認定されれば殺されるのは王である。


 もしくは見せしめとして王族の誰か、貴族の重鎮が殺されるだろう。


 それは宰相とて例外ではない。


 実際のところダンケルノ公爵家がそのように動くかどうかは重要ではない。


 死の可能性があるというだけで貴族達は怯え、消極的になるのだ。


 いままで一言も言葉を発していなかったある男は誰にもわからぬようにニヤリと笑みを浮かべ、立派な口髭を撫でながら声をあげた。


「そもそも読み取った情報が本当に正確なのかどうかも……。それに如何にダンケルノ公爵家の子供とはいえ、常識的に考えてそのような年端もゆかぬ子供があのような惨劇を起こしたなどありえないでしょう。だれが信じると言うのです、そんな与太話を。そんな情報を売れば、他国の者に馬鹿にしていると取られるやもしれませぬぞ?」


 ここぞとばかりに反論を口にする。


 どちらに転ぼうがこの男が責を負うことはない。


 宰相の案が採用され、成功したならばこの男の発言などただの可能性の話をしたというだけで忘れ去られる、忘れ去られなくとも蒸し返されるほど馬鹿げたことを言ったわけではないので大した痛手になるほどではない。


 失敗したならば、そら見たことかと反対の意見を述べていた自分はその責任を宰相に押し付けれる。


 宰相の案が採用されなかったならば、自身の反対意見の重要性が高かったことの証明となる。


 どうなろうと男にとっては痛くも痒くもない。


「まったくですな。このような内容を一体誰が信じるというのですか。これを解読したのはたしか……貴公の部下であったな。本当にこの程度の内容しか読み取れなかったというのですかな?そういえば、この情報を持ち帰ったのも貴公の部下であったか」


 その言う貴族達の表情は澄ましているが、言っていることは『不正確な情報しか得れず、この国を危機に陥れた責任をどう取るつもりか』ということだ。


 宰相は国の危機ですら、国ではなく自身の権威向上しか頭にない貴族達に反吐が出る思いであった。


 だが、今となっては重要な場に新人を送ったということが結果論として失策であることには違いない。


 それに対して言い返すことはできない。


 これならば、諜報員など送らぬか、腕の立つ者を送っておくべきだった。


 だが、別に故意に腕の立つものを送らなかったわけではなく、本当に人手不足だっただけなのである。


 だが宰相は言い訳をすることも、貴族達の詰問に取り合うこともなかった。


「もはや、あの情報が正しいかどうかなど議論する意味などないのです」


 いま話し合うべきはそんなことではない。


 自身の権威にしか興味がない貴族は気がついているのかいないのかはわからないが、もはや国の存続の危機ともいって良い状態なのだ。


 対応を誤れば、誇張抜きで国が滅ぶ可能性すらある。


「ほう。だが、貴公の——」


 論点を逸らされた程度では追求を逃れられないぞと笑みを浮かべていた貴族は、宰相がテーブルをドンと叩いた音と、見たこともない宰相の鋭い視線をその身に受けて、怯んだような表情を浮かべ言葉を止めた。


「黙りなさい。侯爵、卿もこの国の貴族の端くれならばまずは国の存続を第一に考えなさい」


 鋭く焦ったような宰相の声。


 今までこのような宰相など見たことがなかった貴族達はバツが悪そうに口を閉ざした。


 国のことを考えろと言われ、尚も責め続けるのは国など大事ではないと言っているに等しいが故に。


 誰も発言をしなくなったのを確認した宰相は更に言葉を紡いだ。


「ゴホン、確かにダンケルノの情報を開示するというのはリスクがございます。ですが、それは相手にとって不利益になるならば、と愚行致しました。今回の情報は悪く言えば相手の手を晒すものですが、よく言えば相手の偉大さを広めることにも繋がります。特に後継者候補となる者の欠点ではなく、その強大さを広めるのです。相手にとってもそれが損であるということにはならないのではないでしょうか」


 宰相の顔は言葉を紡いでいくとともに苦渋の決断だと隠しきれないほど歪んでいき、眉が険しく寄っていった。


 希望的観測だ。


 宰相とて分かっている。


 そもそもダンケルノ公爵の怒りに触れなくとも、当の本人であるアーノルドの怒りに触れる可能性もある。


 アーノルドは使用人に少しばかり侮辱されただけで、貴族の娘であるにもかかわらず躊躇なく殺し、その家門そのものを滅ぼした異常者だ。


 場所が離れているのですぐには来ないであろうが、後に恨みを晴らされないとも限らない。


 それにあの力がアーノルドのものであろうとなかろうと、アーノルドに与する誰かが為したことには違いない。


 最悪の場合、逃げることも気づくこともできず、今いる王都が突然消されることもありえるのだ。


 気軽にできる選択ではない。


 だが、開示か、隠蔽か、どちらかは必ず選ばなければならない。


 開示しなければ、他国の者はあの手この手でその情報を入手しようとこの国を揺さぶってくるだろう。


 それに耐える余裕はいまのこの国にはない。


 特にいまはアルトティア帝国が、ついに最近攻めていた国を陥落させたという情報が入ってきた。


 あの場に新人を送ったのは事実であるが、この国にとっては離れたところのダンケルノ公爵家よりも近くまで迫ってきているアルトティア帝国の毒牙のほうがより深刻な問題なのだ。


 そちらに諜報員を割くのは当然である。


 マリンエア王国を挟みアルトティア帝国の領土が近くなったいま、帝国がこの国の国力を裏から低下させるなど容易であろう。


 そしてそれは開示しないという選択を選べば必ず起こる確約された未来だ。


 それに反して、開示を選びダンケルノ公爵家に恨まれるというのはただの予想に過ぎない。


 恨まれるかもしれないし、恨まれないかもしれない。


 宰相として重要なことはこの国を存続させること。


 そして王を守ること。


 ならば、確約された滅亡、もしくは衰退の未来を辿るよりも少しでも可能性のある未来に賭ける。


 安全な策が無いのならばリスクを取らなければならない。


 1番ダメなことはこのまま何も決めぬまま時間が過ぎていくこと。


 どちらか決めてそれに対する対策を練る方がよっぽど重要だ。


「だが、それは——」


「そうです——」


「そうなれば——」


 その後も貴族達は宰相の言葉に口々に反駁した。


 直接的に言いはしないが、自身の命が危うくなる提案など受け入れられないと。


 その責任を取るべきは誰なのかと。


 自分は何も提案しはしないが反論だけはしっかりとするのである。


 だが、それを責められる者も責めるつもりがある者もいない。


 その気持ちは誰しもが持つものなのだから。


 提案した宰相ですら、苦渋の決断といった表情を隠しきれていない。


 どちらか片方を簡単に選べるのならそもそもこんなにも長引いていないのだから。


 だが、貴族としての権利を行使するならば、それに見合った義務も遂行せねばならない。


「——静まれ」


 宰相の発言以降、ずっと沈黙を貫いていた王の声がその場に響いた。


 その一声で口々に声を発していた貴族達が一斉に口を閉ざした。


「宰相の案を受け入れ、情報を開示する」


 王は粛々としたその場に、よく響き渡るいかめしい声で一言声を発した。


 どよめきがこの場を支配した。


 普段であれば、提案された内容についてこれから詰めていくのが通例である。


 にもかかわらず、他の者の意見を聞かずに案を採用するなど異例中の異例。


 だが、ここから詰めていったとしてもすぐに決まることはまずない。


 時間すら惜しいいま、この問題に関する責任は王が取ると暗に言っているのだ。


「で、ですが———」


 尚も焦ったように反論しようとした貴族に対して王が一睨みした。


「ならば、握り潰すか?それともそのどちらでもない案が出せるというのか?」


 王にそう言われた貴族は口篭った。


 建設的な案など何一つない。


 結局は現実を直視できず逃避しているだけなのである。


 それを分かっている者は最初から口を閉じている。


 騒いでいる貴族達は気がついていないようだが、どちらを選ぼうが結局のところ死のリスクはある。


 開示すれば、より高位の貴族が。


 開示しなければ、貴族全員が。


 情報を手に入れれないならば、それを知っている者を拷問すれば良いのだから。


 ただの国ならばそこまで強硬的な手段など用いないだろうが、帝国のような大国にとって吹けば飛ぶような弱小国の貴族などどう扱おうが問題はない。


 まず狙われるのはあの新人だ。


 だが、新人は1人しかいない。


 その次に狙われるのは貴族であるが、それほど重要なこととなると低位の貴族は知らないことも多い。


 となると結局は高位の貴族も狙われることになる。


 どちらをとっても結局自分たちが助かるなどという保証はどちらもない。


 だからこそ王も宰相もあの新人が生き残るよりも死んでいてくれれば良かったと呪わずにはいられない。


 死んでくれていれば、これからの毎日を恐怖の感情と共に過ごすことなどなかったというのに。


 だが、どれだけ呪おうが過去は変えられないのだ。


 ――∇∇――


「っぐ! 皇帝ラヴァロード・アルトティア‼︎ き、貴様、余の国をよくも、よくもぉぉぉぉぉっ——」


 断末魔をあげながら斬られた王の首はもはや何も言うことができないただの骸と化した。


 それを見ていたその国の姫君は事切れた人形のように失神した。


 だが、それはある意味幸運だっただろう。


 龍のような圧倒的な威圧感に、熊のような巨躯、そして情など一切なさそうな冷徹な血のような紅い瞳を持つこの男に女子供だからと王族を生かしておく理由などないのだから。


 苦痛なく逝けるだけまだマシなのかもしれない。


「余の名を軽々しく口にするとは不敬なやつよ。……ちょうどよい、彼奴等の始末はローメロイ、お前が致せ」


「はっ」


 いわおのような声で後ろに控えていた、アーノルドと同じくらいの年齢の子供に対して、壁際で震えて縮こまっている王子や王女、王妃の始末をその男は命じた。


 剣を抜き放ち泰然と近づいていくローメロイの前に慌てたように人が割り込んできた。


「どうか……、どうかお助けください。ご慈悲を、ご慈悲を」


 ローメロイの進路を遮るように土下座しながらそう懇願するのは姫の乳母らしき老婆であった。


 自らを危険に晒してでも仕えている者を守ろうとするその姿勢は称賛ものだが、あの男と同じ冷徹なる瞳をしたローメロイはそんな言葉など一切耳を貸すことなく一瞬の躊躇もなく自身の歩みを遮る老婆を斬り殺した。


 ローメロイからすればそれは優しさでもある。


 自らが仕える者よりも前に殺してあげたのだから。


「おい」


 ローメロイが一言発すると、心得たとばかりに近くにいた騎士が自らの剣をその子供に渡した。


 それを受け取るや否や、その剣を王子がいる方へと投げ捨てた。


「王族としての気概があるならば、最後まで足掻いてみよ」


 そう声に出したローメロイの表情に笑みなどなくただただ無感情といった有り様であった。


 荒事が苦手そうな王子は震える手で投げ渡された剣を手に取った。


 もはやどうすることもできないが、一矢報いることくらいしなければこの国を創ってきた祖先に顔向けができないと。


 だが、雄叫びを上げながら勇ましく剣を振るった王子も一合も交えることなく結局は難なく屠りさられてしまった。


 あとは失神した王女と王妃、そしてまだ幼い王子だけ。


 幼いといっても、いま剣を握るローメロイよりかは年上なのだが。


 この場にいたこの国の騎士達は既に王を守ろうとして斬り殺されている。


 既に残っているのは乳母や戦う力などない側仕えだけ。


 その者達が必死に王子、王女を守ろうと覆い被さっているが、この場から逃げない限りは何の意味もない。


 ローメロイはつまらなさそうな冷徹な色を瞳に宿したまま、何の感慨もなさそうにそのまま残りの王族達とそれを守る者達を全て斬り殺した。


 それを見たこの場で捕らえられているこの国の貴族達が悔しそうに顔を顰めていた。


 これでこの国の王族は潰えたのである。


 ローメロイにとってこの戦争は初陣であった。


 既にここに来るまでに幾百幾千と殺している身。


 たかが、数人殺した程度ではもはや動じることもなかった。


 頬についた返り血を拭いながら剣を収めたその子供は先ほど命じた男の元へと戻ろうと歩き出した。


「死ねぇェェェェエええ‼︎」


 背後からの突然の奇襲。


 姑息にも壁にかけられたカーテンの裏に潜んでいたこの国の騎士の生き残りが、そのままその場に隠れていても生きる道はないと、壁際まで来ていたローメロイの腕の一本でも斬り落とし人質にして生き延びてやると襲いかかってきた。


 だが、ローメロイは慌ていることもなく、ため息を吐きながら再び泰然と剣の柄に手をかけて引き抜きざまに背後に迫っていた騎士を斬り殺した。


「く……、クソ……が……」


「ふん、主君が殺されようときにも出て来ぬ騎士など無能にすら劣る畜生でしかない。この俺の目を穢した罪を支払うといい」


 そう言うと詠唱をすることもなしに、その騎士の男の亡骸が鎧ごと燃え尽きて灰すら残らなかった。


「ローメロイ殿下、お怪我は御座いませんでしょうか?」


 そう言って血を拭くためのタオルを渡してきた壮年の騎士に尊大な態度でローメロイは問うた。


「陛下は何処にいる?」


 王族達を処理している間に、玉座の間には既に陛下と呼ばれた先ほどの男の姿はなかった。


「宝物庫に向かわれました」


「そうか」


 ローメロイはその騎士にタオルを投げ渡した後にそのまま玉座の間の扉の方へと歩き出した。


 だが、玉座の間の扉に向かう最中に露骨なまでの舌打ちが聞こえてきた。


「ッチ‼︎」


 玉座の間の扉の内側付近に待機していた帝国の紋章が刻まれた鎧を纏った騎士達の中から聞こえてきたのだが、ローメロイは眼中にもないのか何も反応することなくそのまま扉から出ていった。


 無視された男は悔しさと怒りで拳を震わせていたが、殴りかかってくることはなかった。


 同じ皇子であるその男には自由に動き回る権限などないのだから。




「ほう、それは面白い。……いや、かまわぬ。それだけでも……に値する。それと、……を集めておけ」


 宝物庫にたどり着いたローメロイは誰かと話している陛下の声が聞こえてきたので、扉の前で待機していたが、すぐに声がかけられた。


「入ってこい」


「はっ! 陛下、ご命令、しかと完遂致しました」


 声をかけられて入った部屋には陛下以外のだれもいなかった。


 宝物庫の扉は今入った一つしかない。


 先ほどまで誰かと話していたのならばローメロイに気付かれず外に行けるはずはないのだが。


 その事実に怪訝に思いはしたが、表情には出さなかった。


「初陣を無事に完遂した褒美をやろう。この中から好きなものを一つ選べ。帝都に戻った後に、皇城の宝物庫からも一つ選ばせてやる。選べばすぐに帝都に帰還するぞ。すぐに戻れるように準備しろ」


 皇帝陛下はそう言うとそのまま宝物庫から出て行った。




 この者達の国は大陸最大の領土を誇るアルトティア帝国。


 攻め滅ぼした国の王族の首を携えて帝都へと帰還した皇帝は、いままでに攻め滅ぼして手に入れた属国の者も含め全ての貴族達に召集令を出した。


 それから十数日後、帝国貴族とその属国の貴族達が一堂に会していた。


 豪華絢爛を体現したかのような荘厳なる部屋。


 少し高い位置にある上座におわす皇族達と数百人はいようかという貴族達。


 貴族達はなぜ集められたのかは知らされておらず、此度の遠征の戦勝の宴でもするのかと思っていたが、出てきたのは料理などではなくいくつかの紙であった。


 そこに書かれているのは、カルガリード王国から買った此度のアーノルドとワイルボード侯爵家の戦いの顛末。


 それを見た者の反応はさまざまであった。


「ハハハ、まさか斯様な虚言を寄越すとはどうやら我らが帝国を舐めているのでしょうかな?」


「いやはや、ですがこれはもしかするとダンケルノの手が入っているのやもしれませぬぞ? 自身の一族の不甲斐なさを隠すために敢えてこのような大言を吐かせたのかもしれませぬな」


「全てを飲み込んだ黒いドームのようなものというのも実は虚言で、失態を隠すためにただ諜報員達を殺したのやもしれませぬな。彼の国の唯一の生き残りとやらも、ただ脅されてそう言わされただけ、ということも。そうでなくば、我々の国の諜報員が死に、あのような弱小国の諜報員だけが生き残るなどありえぬでしょう」


「それにしても、もう少しマシな虚言もあったでしょうに。隠蔽の仕方も実にお粗末ですな。力は一人前でもそのお頭は猿ということなのですかな? いや、力も一人前というのは言い過ぎですかな?我々帝国に比べれば大したことなどございますまい」


 口々に揶揄やゆする貴族達の哄笑が響き渡った。


 だが、そこに座す皇族達の顔に笑みは微塵たりとも浮かんでいない。


「しかしそうなれば、やはりダンケルノなど大したことはないということですな」


「然り、我らが帝王に敵うものなど居りますまい。所詮今までの噂も虚飾に塗れているに違いありませぬな!」


 そう声に出し話している中にアーノルドの噂が真のことであると考えているものなどいない。


 一考の余地すらないと、出来の悪い脚本家ですらもう少しマシな内容を書くだろうと嘲笑していた。


 そもそもダンケルノ公爵家と直接接点を持っている者などいない。


 同じ大陸とはいえ、アルトティア帝国とハルメニア王国は元々は大陸の端と端ぐらい離れていたのだ。


 今でこそ帝国が大幅に領土を広げ、近づいてきてはいるが、それでもまだ遠く離れていることには違いない。


 だからか帝国の貴族達は、所詮は噂が一人歩きしているだけで、実際は大したことなどないと思っている。


 本当にその噂が真実であるならば、なぜハルメニア王国は未だにその国土が数百年前と変わっていないのかと。


 ここ数十年で何カ国も自国に吸収した帝国の主人とは所詮レベルが違うと。


 田舎者達がただ大袈裟に言っているに過ぎないと考えていた。


 だが、皇帝に近い所に座る者ほどその眉間を険しく寄せている。


 騒いでいるのは帝国の属国の貴族や帝国貴族のごく一部。


 普段ならば召集されぬ者たちであるが、何の気紛れか皇帝はその者達をも召集した。


 普段謁見することすらも許されぬ皇帝に会えるとあってか、ゴマすりに必死な貴族達は人の本質に気がついていない。


 ゴマすりを喜ぶ者もいれば、喜ばない者もいる。


 偏執的なまでに実力のみを評価する皇族達にその手のゴマすりなど逆効果もいいところである。


 騒いでいた貴族達が皇帝の顔色を窺うようにチラッと見たことでその騒々しさも一瞬で無くなる。


 皇帝が貴族達の思ったような表情を浮かべていなかったからだ。


 皇帝の表情は冷徹そのもの。


 その紅く輝く皇帝の鋭い眼光は騒いでいた貴族達を射抜いていなかったにもかかわらず、まるで肉食獣に睨まれた草食動物のように動けなくなってしまった。


 貴族達は皇帝の顔を恐ろしくて直視することすらできなかった。


 属国の者からすれば、自国を滅ぼされ、自らが仕えていた王族は殺されている。


 ついこの間滅ぼされたばかりの国の貴族などそもそも顔をあげることもできず、悔しさか恐怖からかはわからないが俯きわなわなと震えている。


「陛下、ご質問してもよろしいでしょうか?」


 そう声を上げたのはまだ二十代ほどの貴公子といった風貌の色男であった。


 この者も属国出身の者であるが、その有用さを買われていまでは皇帝に重宝されている。


 皇帝は僅かに頷くことで許可を与えた。


「発言の機会をくださり感謝申し上げます。では僭越ながら、私の経験則に基づくならばここに書かれている内容は考えるに値しないものに思えます。ですが、陛下がわざわざこのような些事に時間を取ることなどありえぬと愚考致しました。この情報は真実であると仮定してもよろしいのでしょうか?」


 その場が若干ざわついた。


 かなり挑発的な物言いだ。


 皇帝の機嫌次第ではこの場で首を刎ねられてもおかしくないだろうと幾ばくかの貴族達が喉をゴクリと鳴らした。


 だが、貴族達は耳を澄まさずにはいられなかった。


 いまの男の発言の真偽こそ、皆が知りたいことである。


 貴族達の視線が皇帝へと集まるが、いつも豪胆な皇帝にしては珍しく口を閉ざしていた。


 ほんの十秒ほどの沈黙であったが、普段の皇帝を知る者達にとって、その時間はかなり長く感じた。


「この情報の信頼性は皆無だ。だが、この情報に嘘はない」


 そう言いながらニヤリと笑った皇帝の笑みの恐ろしさに属国の貴族達は自身の国を侵略しにきた際に見た好戦的な笑みを思い浮かべ凍りついた。


 だが、問いを投げかけた本人は固まることはなく、同じような笑みを浮かべながら一礼した。


「お答えいただきありがたく存じます」


 皇帝はこの世を統べる者。


 この世全ての情報を知っているのかというくらいその情報取集能力はずば抜けている。


 悪事を企てようものならばすぐにその貴族は打ち首となっていた。


 その情報の幅広さは他国の情報とて例外ではない。


 どこにでも間諜がいるのではないかと思うほど情報が筒抜けなのだ。


 その情報力によって数多の国が攻め滅ぼされたといっても過言ではない。


 もちろん武力もずば抜けてはいるのだが。


 にも関わらず、いくらダンケルノ公爵家が関わっているとはいえ、その情報への信頼性が皆無というのは信じられない。


 皇帝ならば二重三重に保険をかけていてもおかしくない、というよりは絶対にかけているはず。


 それに皇帝は己こそが絶対の暴虐の君主。


 人の意見を聞くなどといったお方ではない、と賢しい貴族達は皇帝の真意を読み解こうとしていた。


 正直に言えば、目の前にある配られた資料に書かれてある情報など一笑に付すような内容だ。


 それこそ皇帝の前でなければ、沈黙していた貴族達も先ほどまで騒いでいた貴族と同じように馬鹿にしていただろう。


 それほどそこに書かれている内容は荒唐無稽なことであった。


 だが、皇帝がわざわざそんな無意味な情報のために人を集めるとは思えない。


 それゆえにその信じるに値しないような内容ですら、裏を読もうと足掻いているのである。


 だが、いくら考えようがあり得ないという感想しか思い浮かばない。


 貴族達も自らが武を修めているからこそわかる。


 どれだけ武に優れた人物であろうと、その若さでここに記されているような惨劇を生み出せるほどの力を得るなど不可能であると。


 自信を持ってそう断じることができる。


 それに帝国にはそれこそ真の天才がいる。


 天才などという言葉では片付けられないほど異質なる者がいる。


 その者でさえ、これほどのことを為すのはまだ不可能だ。


 考えるまでもないことのはずなのだ。


 だがならば、皇帝は何を望み自分たちを集めたのか。


 貴族達にとっても簡単に口を開ける問題ではない。


 不用意な一言が皇帝の機嫌を損ねるかもと思えば、何を言うべきなのか想像すら出来ない。


 この内容を肯定すれば、莫迦の誹りを受けるかも知れぬ。


 そうなればこの国ではもはや終わったようなもの。


 だが、否定するならば皇帝がわざわざこのような場で議題に上げる意味が読み取れない。


 それゆえ慎重な貴族達は動けずにいた。


 そんな中でも毅然とした態度で事の成り行きを見守る貴族たちもいる。


 その者達は皇帝陛下がなぜこのようなものを皆の前で見せたのかその付き合いの長さから大体把握していた。


 次にその沈黙を破るべく次に手を挙げたのは自らは武術などやっていなさそうなメガネを掛けた研究者気質っぽい男であった。


 発言を促すべく皇帝は鷹揚に頷いた。


 メガネの男は皇帝に対して一礼してから抑えきれないとばかりに声高に発言した。


「ここに書かれていることが真実であると仮定するならば、これほどのものを成し得るのは個人の力に限定するならば『皇神抃拝フィーネ・エンデ・レルム』か私の知らぬ古代魔法レベルの神位魔法しか考えられません!しかし、それはあくまで個人の話であり、現実的な話ではございません。もしや——」


「やめよ。十分だ」


 興奮したように若干早口で嬉々として話していた男を遮るように声を発したのは皇帝であった。


「失礼致しました」


 皇帝は何を言うかわかったからこそ止めたのであるが、他の者達は何の話であるのかわかっていなかった。


「貴様の疑問に答えておくならば、それはありえぬ。心配する必要など皆無だ」


「はっ、お答え頂きありがとう御座います」


 メガネの男は恭しく一礼したあと再び席についた。


「貴様は何かないのか?」


 皇帝がそう口にして視線を送ったのは自身の末息子である第五皇子ローメロイである。


 他の上にいる皇子を差し置いて、まだ幼い第五皇子に話しかけたことに対し、そこに集う他の皇子、皇女達は不快げに眉を顰めるが皇帝に物申すことなど出来ようもない。


 そしてローメロイ本人にも何もできはしない。


 何故ならば、手を出せば返り討ちにあうのは自分になるからだ。


『暴虐皇子』の異名で呼ばれるローメロイはわずか五歳にして皇位を巡る魑魅魍魎共が跋扈する皇城で自身の地位を確固たるものとしている。


 ローメロイは双子の妹の皇女だけを側に置き、その他一切に他が押し入れない一線を引いている。


 実の母親であろうがそれは例外ではない。


 己を自身の権威を上げるために利用しようとするだけでも許せぬ蛮行であると、実の母親にすら剣を突きつけた。


 だが、自身を産んだという功績に免じて一度だけその剣を下ろしたのである。


 ローメロイはその場にいる他の皇族達の敵意と嫉妬が織り混じる視線の圧など意にも介さず悠然と口を開いた。


「ふっ、このようなこと論ずるまでもないこと」


 ローメロイは目の前に置かれた紙をヒラヒラとさせながらつまらなさそうにそう述べた。


「ほう、なればここに書かれていることは偽であると申すか?」


 ニヤリと挑戦的に口角を上げた皇帝に対してローメロイは毅然とした態度で言い切った。


「否」


 ローメロイが静かにそう答えると、シンと静まり返っていたこの場に吹き出すような声が響いた。


「ぷっ」


 ローメロイの言葉を馬鹿にするように吹き出した第二皇子と、そこまで露骨ではないが抑えきれないとクスクスと笑う皇子、皇女達。


 このような荒唐無稽な話を事実だと断じるとはやはり第五皇子もまだ子供かと。


 それとも皇帝の威容に押されてつい否定してしまったかと。


 どちらにしても無様であり、自分自身の武力がいかにずば抜けていようとまだ世界を知らぬ未熟者だと嘲笑した。


 だが、ローメロイから言わせれば、この者達こそ哀れであった。


 皇の文字を冠しているにも関わらず、真実を嗅ぎ分ける嗅覚すら持たない紛い者共。


 普段は一切反応しないローメロイであるが、そのときは珍しく憐れむようにため息を吐いた。


 それが癇に障ったのか皇子、皇女達は不快そうに眉を細めたが、抗議の声をあげる前に皇帝が先に声をあげた。


「ほう、なればここに書かれていることが事実であると断じるのか?」


 他の皇族など眼中にもなく、試すような物言いでニヤリと笑みを浮かべた皇帝に対し、ローメロイは不遜にも横目で視線をやるだけであった。


 そして、深くため息を吐いた後に口を開く。


「陛下、このような問いかけに何の意味がございましょう。分からぬ者には永遠に分からぬこと。そのような者のために時間を取るだけ無駄ではないでしょうか」


 ローメロイは皇帝陛下が帝国に属する貴族を集めた理由をこれから戦うであろう者達の埒外の力を前以て知らせておくためだと確信していた。


 もちろんそれだけでなく、いままで征服してきた国の貴族達の反骨心を消し去る為という目的もあるのだがそんなことは些事で終わる。


 これまで征服してきた国など所詮は弱小国であり、前哨戦。


 この先にある国々は今ほど簡単ではない。


 つい先日攻め滅ぼした国に隣接するマリンエア王国を統べる女王は、かつてその国を支配していた王に対してクーデターを起こし、実質最後はたった1人で前王を護る近衛騎士と前王本人を討ち取った女帝の異名を持つ傑物。


 そして帝国が手に入れたくて仕方がないドワーフ達が住まう王国に至るには個々の力は最強とも謳われる戦闘民族が数多いる険しい山を抜けなければならない。


 傭兵も兼ねているその者達を帝国も数人抱えているが、その戦闘能力は皇帝をして目を見張るものがある。


 それが数百人と固まる集落に、それも相手の慣れた山で戦うなどそう簡単なことではない。


 そしてそこから更にいくつかの国を征服していったとして、その最後にいるのがダンケルノ公爵家を有するハルメニア王国だ。


 これまでの国とはレベルが違う。


 だが、ローメロイから言わせれば、燕雀安んぞ鴻鵠の志しを知らんや、である。


 どれほど言い募ろうと無能に我ら上位者の考えなど真の意味で理解できようはずもない。


 皇帝こそそれを1番よく分かっているはず。


 この無意味な時間に一体何の意味があるのか不思議でならなかった。


「ふむ、お主はそう思うか。それも間違いではない。間違いではないが、正しいわけでもない」


 ローメロイは怪訝そうな顔を浮かべた。


 皇帝の言葉の意味するところが読み取れなかった。


「まぁよい。所詮はただの戯言よ。自らの道は自らで決めると良い」


 皇帝はそう言うとローメロイから視線を外した。


 それを見た他の皇子達がローメロイのことをクスクスと笑ったが、いまのローメロイにそれを無視するほど虫の居所がいいわけではなかった。


 ローメロイとて皇帝のことは尊敬も敬服もしている。


 だが、それでもローメロイ自身にも絶対的な自負心がある。


 いまの皇帝の言葉の意味を読み取れないことはその自負心を揺さぶった。


 そのときにかけられた三下からの嘲笑。


 ストレスを発散する場としてはこの上なかった。


 その会場にあるシャンデリアがガシャガシャと揺れ、まるで跪かせるかのような重圧がその会場にいる者達に襲いかかった。


 息苦しそうに自身の首に手をかける皇子、皇女、皇妃、そして貴族達。


 だが、微動だにせぬ者達もいる。


「やめよ。愚か者が」


 厳しい声とともにローメロイの心臓が鷲掴みにされたような感覚を受けた。


 皇族たる者舐められてはならぬ。


 だからこそ、武力を見せつける行為に何も言うつもりはないが、だがそれでも、力の制御もせずこの会場にいる者全てを対象にするなど愚か者の誹りと免れない。


 いかに異質な才を持とうとも、現時点で皇帝を下せるほどの力など持っていない。


 そしてローメロイ自身も皇帝のことは認めている。


 だからこそ強者の言葉には素直に従う。


 それがこの世の掟たるが故に。


 その皇帝の言葉によって、ローメロイから発せられていた他者を跪かせるような王者の圧が霧散した。


 噂に聞いていた第五皇子の力を初めて目の当たりにし、侵略戦争に参加していなかった他の皇族の派閥に属している貴族の中には明らかに顔を青褪めさせている者もいる。


 ローメロイは産まれてまだ五年と少し。


 普通なれば、初陣は十歳になった時だ。


 だが、この異端児は皇帝の目に留まり、五歳にして初陣することを許された。


 そもそも一番上の第一皇子とは年齢が離れている。


 それゆえ、皇位に就くなどとは微塵も思われていなかったし、産まれてからも当分の間は大して注目を浴びていなかった。


 ローメロイ自身も貴族を寄せ付けなかったため、ローメロイを支持するような貴族達も多くない。


 それに、出る杭は打たれるという。


 如何に優れていようとまだ幼い皇子などいつ暗殺されてもおかしくない。


 だからこそ、貴族達はおいそれと派閥を変えることができないでいた。




 先ほどの会場を出たローメロイが自室に戻ろうとしていたところ後ろから声をかけられた。


「お兄様!」


「アティナか。何の用だ」


 アティナ・アルトティア。


 ローメロイ・アルトティアの双子の妹にして唯一ローメロイが心を許す者。


 素っ気ない物言いではあるがその瞳には先ほどまでとは違い、慈愛の色が浮かんでいる。


「あそこに書かれていた情報は本当に本当のことなんですか?」


「さぁな。だが、俺を圧するくらいの異質さをあれから感じたのは事実だ。アーノルド・ダンケルノか。いずれ会ってみたいものだ」


「でも、勝つのはお兄様です!」


 突然意気込むように答えた妹に対して、一瞬驚いたローメロイであったが妹の頭を撫でながら薄らと笑みを浮かべ返答した。


「当然だ。俺より強い者などこの世にはおらん」


 自分への絶対なる自負心。


 今はまだ、皇帝やその側近達には及ばない。


 だが、数年後にはその力関係が逆転していると本気で信じているし、ローメロイにとってそれが当然のこと。


 ただ、ローメロイも自身の父親である皇帝には流石に数年で勝てると思うほど驕ってもいないが。


 それでも、ただの天才という名の雑兵共に遅れを取るなど考えられない。


 だが、あの資料に含まれる幾重もの雑音を含んで尚消え失せぬその紙から伝わる威勢がローメロイの心を揺さぶっている。


 今まで誰であれ感じたことがない胸の高まりをローメロイはアーノルドへと感じ取った。


 そしてそれは皇帝もまたその資料から感じ取っていた。


 真なる者達は言葉では到底説明出来ぬ第六感とでも言うべきもので繋がっている。


 どれほど荒唐無稽でも、そこに含まれる真実を嗅ぎ分ける臭覚を持っている。


 それを持つ者が自身の血筋の中にいたというだけで皇帝の憂いは晴れたといえよう。


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