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59話

 突然目の前に現れたロキに対して副官はクッと声をあげて即座に距離をとった。


 気配すら感じ取れなかったことに焦ったのか、初めてその表情を崩していた。


 ボードは目まぐるしく変化するいまの状況についていけなかったが新たに現れた者が敵だということはわかった。


「貴様、何者だ!まずは名をな———」


「君には用はないんだ。邪魔だから寝ていてくれ」


 ロキがそう言うとボードはそのまま人形の糸が切れたかのように前に倒れ伏した。


 その瞬間、副官の背筋にゾクリと冷たいものが走った。


 何をしたのかわからない、わからないのだが本能が逃げろと警鐘をけたたましく鳴らしている。


 まるで死神の鎌が首元にかけられているかのように感じ、恐怖からか目を離すことができなかった。


 目の前のロキから目の離し、背を向けて逃げ出せば首と胴体が生き別れるだろうとその光景がありありと想像できた。


(何をした?そもそも気配が全く読めなかった。馬鹿な。この私が気配を読めなかっただと?それに私が女だと見抜いた)


 ロキが言った通り副官は女であり男に変装していただけなのだ。


 いや、変装していたなどと生易しいものではない。


 骨格ごと、声帯も含めて全て変えているのだ。


 何があっても正体がバレないように。


 たとえ顔を見られてもいいように。


(まずいな。出来るだけ目立たぬようにしていたというのにあのクズがぐずぐずとやっているから・・・・・・。それに遭遇したのが『狂気の道化師』のロキとは最悪だ。他者の命を弄ぶクズ野郎。いずれは殺さねばならぬ相手だが、いまの私とは格が違いすぎる。こんな奴がここにいるなんて情報はなかったぞ?ッチ。あのクソ大司祭に嵌められたか——)


 ロキのことは知っていた。


 ブラックリストに載っているにも関わらず未だに生きている粛清対象。


 自分が出会えば屠ってやると意気込んでいたが・・・・・・、実物を目の前にすれば、なるほどいま尚生き永らえているのも頷ける化け物ぶりだ。


「どうしたの?そんなに考え込んじゃって。そんなに怯えなくても良いんだよ?ああ、ここだけの話アーノルド様にはこの場にいる者全て殲滅せよって言われているけど・・・・・・公爵様には君と同じ所属の者は逃がしても良いって言われているんだ。だから、逃げても良いんだよ?」


 ロキは口を三日月に歪めて楽しそうにニヤリと笑った。


(バレている?なぜ?いや、奴は具体的な組織の名称を口にしていない。ならば逃した上で追跡をする——)


「ああ、別に逃して跡を追うなんてことはしないよ?」


 副官は考えていたことを当てられてピクリと肩を揺らし表情を僅かに歪めた。


 ロキはそんな副官の反応をニヤニヤと楽しみながら剣をくるくると手で回して遊んでいた。


 それは副官にとって見覚えのある剣であった。


 よく見れば副官が腰に刺していた剣と同じである。


 副官は自らが腰に差す剣を、目はロキから動かさず手だけを動かすことで確認した。


(・・・・・・ない)


 たしかにロキは先ほどまで何も持っていなかったはず。


 いつの間に奪われたのかすらわからなかった。


 格が違いすぎる。


 要はロキがその気であれば、気付く間も無く自身は殺されるということだ。


 ゴクリと唾を飲み、表情には出さなかったが内心かなり冷や汗をかいていた。


 知らず知らずの内に鼓動が早くなってきていた。


「安心しなよ。僕は女を嬲る趣味もないし、怯える者を追い詰める趣味もない。そのまま帰れば爆発するといった仕掛けもない。文字通り君は五体満足のまま帰ることができる。まぁ帰ってからそっちのゴタゴタに巻き込まれるのは知らないけどね。悪いけど僕にもやることがある。去らずに残るというのなら・・・・・・このまま巻き込ませてもらうよ?」


 そう言い、笑みを浮かべたロキを見た副官は恐怖の根源から逃げ出すように即座にその場から姿を消した。


「へ〜、さすが普段追いかけっこに慣れているだけあってなかなか速いね」


 その場にいる誰もが認識できていなかった副官が去っていった方角を見ながらロキは感嘆の声を漏らした。


 そして近くで倒れていたローイのところに歩いていくと、ロキはローイの胸の辺りに手をかざした。


「あ、あの・・・・・・ロキ様?」


 ローイは胸の痛みに喘ぎながらもロキが何をしているのかと気になって仕方なかった。


「あはは、僕に様なんていらないよ。それよりもギリギリだったね!頑張っていたようで何よりだよ。まぁアクシデントはあったけれどあの子がいなければ多分君たちが勝てていただろうし、そう落ち込む必要はないよ。まぁ結果だけでいえばダメだけどね。アハハハハ」


 慰められているのか詰られているのかよくわからない言葉をもらいローイが苦笑いを浮かべているとふと胸の痛みが消えたことに気づいた。


「とりあえず動けるくらいにはなっただろう?ハンロット君はエーテルとマナも切れてるみたいだから僕にはどうしようもできないけど、まぁ君もこれから頑張ってくれ。さぁ僕も自分の仕事に取り掛かろうかな。久々に派手に行こうじゃないか」


 ロキはバッと天に手を広げ楽しそうに笑った。


 しかし、それに水を差すような声が上がった。


「——き、貴様ッ。名乗ることもなく不意打ちするとは」


 ボードは目を覚まし直前の行動を思い出していた。


 何をされたかはわからないが状況証拠的にこの男がしたことに間違いないと決めつけていた。


 だが、本来ならば部下がまだ死んでいない状況で自身が攻撃を喰らうなどありえないという事実には気づいていなかった。


 そして自身とロキの間にあるエルフの武具如きでは覆りようもない実力差にも。


「ああ、もう気がついたんだ。思ったよりも早かったね。さすがはハンロット君を追い詰めただけはあるのかな?武具の力とはいえそこは称賛してあげるよ。まぁハンロット君がもう少し考えてあの技を使ってればもう少しいい結果になったとは思うけどね」


 ロキの言う通りハンロットはあの技を使う前に先にボードの生贄となる者達を倒すべきだった。


 実際にはあの副官も居り、ボードの攻撃を躱しながらそれを行うのは至難の業であるのだが、部下とともに挑むなどやりようはあった。


 焦り過ぎていたのだ。


 最大のミスはあの副官の実力を見誤ったこと。


 しかしロキはそれも仕方ないことだとも考えていた。


 クレマンがロキをサポートに回らせたということはハンロット達ではどう足掻いても勝てない敵が紛れているということ。


 でなければ、いくらロキを疎ましく思っていても、1番守るべきアーノルドからわざわざ戦力を外す必要はない。


 ロキがやることはアーノルドが口にした全員生還を成し遂げさせること。


 そのために戦場を駆け回ったのだから。


 それにロキが間に合ったのだから、軍としては勝ちなのである。


 個人で負けようが軍として勝っていれば問題ない。


 ただハンロットの出世が遠退くだけである。


 ロキはあまりの無礼さに驚きワナワナと口を動かすボードに対して口角を上げて話しかけた。


「君もこれから起こることを楽しむといい、最後まで生きていられたらだけどね。ローイ君、君も初めてだろうから頑張ってくれ」


 邪悪に笑い天を仰ぐロキを見てボードは体が震え、ローイは寒気がしてきた。


「さぁ、始めようか‼︎君達に地獄の一片を見せてあげるよ‼︎」


 ——さぁ、現界せよ『魂の収穫祭(ゼーレ・フィエスタ)


 ロキが自らの能力を発動したことで空気が一変した。


「さぁ楽しい楽しいショーの始まりだ」


 ――∇∇――


「どうした?面白くないのか?お前の家族が、体の一部があれほど頑張っているんだぞ?少しは反応してやったらどうだ?」


 シーザーによってオウルの部下達は操り人形のように操られていた。


 糸の変わりに闇魔法で作った短剣が体のあちこちに差し込まれそこから繋がるオーラをシーザーが操ることで残虐なる劇が開幕していた。


 オウルはシーザーの魔法によって捕らえられ身動き1つ出来ない状態でただただその劇をシーザーの隣で見せられていた。


 そしてそのオウルを救うために、オウルの部下達が立ち向かうという劇なのであるが、そのオウルを助けることを阻止しようとするのもまたオウルの部下なのである。


 それら全てをシーザーが操っている。


 だが、シーザーは当然安全面など考慮しない。


 無理な動きをさせられ手や足がねじ曲がった者。


 劇の最中に手足を斬り落とされた者。


 捻りきれた者。


 オウルの部下が放った魔法で焼き殺された者。


 いま生き残っている者ももはや皆自力では動けないような重症者でうめき声しか聞こえない。


 血の涙を流し項垂れている者もいる。


 オウルはそんな状態になっていく部下を延々と見せつけられていた。


 最初はオウルの能力によって部下が傷つくたびに治していたオウルであるが、何度も何度も何度も何度も傷つき悲鳴をあげる部下達を見ているうちにもはや治さぬ方が部下のためではないかと心が揺れ動き、遂には心が折れてしまったのか涙を流しながら焦点があっていない目をするようになってしまった。


「はぁ・・・・・・、くだらんな。この程度で壊れてしまうとは。ああ・・・・・・、そういえば任務の最中だったな。そろそろ終幕とするか」


 最後に盛大にクライマックスを迎えさせようと人形を動かそうとしたときシーザーと人形との糸が強制的に切断された。


「ッ⁉︎」


 シーザーが握っていたオウルの部下達の支配権が無理矢理奪われたのである。


 何が起こったと訝しんでいたシーザーは突然壮絶な寒気を感じ、バッと空を見上げた。


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