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【書籍化】公爵家の三男に転生したので今度こそ間違えない 〜黯然の愚者が征く己の正道譚〜  作者: 虚妄公
トライデント魔導王国編

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第2-36話

 呑まれた先は隔離されたような空間。


 まるでアーノルドが夢で見るあの何もない静謐なる空間のようだ。


 だがあそこがどこか神秘的だとするのならばここは些か殺伐としすぎているだろう。


 天は赤黒く、そして次第にまるで闘技場かのような広大な場所が構築されていく。


 その中央にアーノルドは立っていた。


「これほどの力、皇神抃拝フィーネ・エンデ・レルムであっても不思議ではないと思うが?」


 アーノルドは玉座とでもいうのか、観客席の中でも一際豪華な場所で、自身がこの空間の王でもあるとばかりに足を組んでふんぞり返っているレヴォドに問いかけた。


 だがレヴォドはアーノルドの言葉に心底怪訝そうに眉を顰める。


「……? 何を言ってやがる? お前も『能力ギフト』がわかったのならこれが違うことぐらい——いや、お前……『能力』が何か知らねぇのか」


 息を吐き、一人で何かを納得したように驚きを露わにしたレヴォドは脱力したように玉座に深く座り込んだ。


「……いつまでそこから見下ろしているつもりだ?」


 アーノルドは少しばかり不快さを滲ませた声色でそう言うと、レヴォド目掛けて斬撃オーラブレイドを放った。


 その玉座が破壊されるだけの軽微なものであるがレヴォドを動かすには十分だろう。


 だがその斬撃は観客席に届く前に、見えない壁に阻まれて霧散した。


「クク……、俺はもう観客だからな。演者が手出しは出来ねぇよ」


 紂宴は俺にとってはただの休憩だとレヴォドは禍々しきオーラらしきものを放つ本らしき何かを片手にそう言ってくる。


 禍々しくも神々しいという矛盾を孕んだそれは明らかに異物。


 この空間の起点となるものか。


 アーノルドは先程よりも威力を上げてその本目掛けて斬撃を飛ばした。


 だがまたしても障壁によってアーノルドの斬撃は霧散した。


 びくともしないといった感じだ。


 壊せる云々ではなく、斬撃そのものが消去されたような感触。


「無駄だ。たかがオーラブレイド如きで破れるほど俺の『能力』は甘くねぇよ。大人しくルールに従って踊っておきな」


 観客席と闘技場は隔絶された空間といってもいいだろう。


 現状為すすべはない。


 穴がないかとアーノルドが周囲に気を配る中、レヴォドが本を開きながら話しかけてくる。


「ルールは簡単だ。今から俺だ出す対戦相手と戦って五連勝すりゃいい。そうすりゃ次のステージに進めるってわけだ」


 既に妖精らしきものの姿は見えない。


 そしてレヴォドの言うことが正しいのならば、レヴォドの『能力』は大騎士級の中でも最上位に位置するだろう。


『能力』のほとんどは自分に作用するものが基本だ。


 多少他人に影響を及ぼすようなものもあるが、ここまで体系だっている『能力』はアーノルドも見たことがない。


 全員を把握しているわけではないが、アーノルドが知る限りダンケルノ公爵家の騎士にもいないだろう。


「皇神抃拝ではないというのが信じがたいな」


「まぁ広義でいやぁ間違いでもないかもしれねぇが……こいつは違えよ。俺がその領域に至れることはねぇんだからよ……」


 不機嫌とも違う、どこかやさぐれたような声色でそう言ったレヴォドにアーノルドが更に深く聞こうとするよりも前にアーノルドがいる闘技場に一つの影が舞い降りてきた。


「さぁお喋りは終わりだ。まずは一戦目だぜ。せいぜい気張れよ」


 その影のシルエット——アーノルドが嘗て殺した聖職者が纏う鎧のシルエットに似ていた。


 その手には同じく影でできた長槍を持っている。


 影が槍を構えたのを見たアーノルドもまた剣を構えた。


 影が腰を落とす。


 刹那、気がつけば槍の先端が眼前に——。


「……ッ⁉︎」


 紙一重で顔を逸らしてそれを避けたアーノルドはそのまますれ違う影の聖職者に身を翻しながら剣を振る。


 槍を突き出した形で前に重心が傾いているため格好の餌食。


 だが——その一撃は即座に“縮められた”槍によって弾かれる。


「くっ……、やはり伸縮自在の槍か」


 槍を縮めたことで生まれた反動を利用して槍を引き戻した影はアーノルドの一斬を器用にも防いで距離を開けた。


 だがこれで確定。


 あの影はアーノルドがかつて教会と争った時に殺した大司教の私兵の一人だ。


 その聖騎士は伸縮自在の槍を用い、当時のアーノルドを大いに苦しめたゆえに記憶に残っている。


「クズ大司教の手下の聖騎士か」


 アーノルドがそう呟くと、影の体が揺らめき出した。


 ——grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr


 唸り声なのか何かもつかぬ恨みに塗れたような声を発しながら影の体から立ち昇るのはおそらくはオーラ。


 影であるのに生前と同じく赤白いオーラを放っている。


 再度、影は俊速でアーノルドへと迫りくる。


「ッチ‼︎」


 アーノルドは剣で槍を防ぎながら首を逸らす。


 明らかに当時戦った時よりもいま目の前にいる影の方が強い。


 速さ、力、技量——何を取っても実際にアーノルドが戦った聖騎士よりも一段、二段上だ。


 とはいえ、アーノルドも当時のままというわけではない。


 当時よりも二段階以上強くなっている。


 それにレヴォドよりも弱いことは確実だ。


 アーノルドの中に生前のイメージがあるがゆえに動きにズレが生じていたが、色眼鏡を捨てて、アーノルドは再度剣を構えた。


 今度はアーノルドの番だとばかりに攻め立てる。


 実際問題、普通に戦えば前に戦ったバルトラーよりも全然弱い。


 神槍と比べるというもの酷だろうが、影の技量も強くなったとはいえバルトラーには劣るだろう。


 槍の長所であるリーチの差もアーノルドを前にすれば無いに等しくなっている。


 一度戦ったことがあるがゆえに伸縮自在の槍の間合いのはかり方は熟知している。


 今更その程度に惑わされることはない。


 とはいえ、あの影を斬ろうとも、その箇所がゆらゆらと揺れるだけで血が噴き出る気配はない。


 まだ薄皮程度とはいえ、ダメージが蓄積されているのかもよくわからない。


 アーノルドはより深く斬り込むためにもう一段階相手の懐へと踏み込んだ。


 だがその一撃に危機を感じ取ったか、影はアーノルドから大きく退いた。


 それと共に槍を伸ばして、アーノルドへと牽制してくる。


 舌打ちと共に打ち払うが、影に追い打ちをかけるのは出来なかった。


 すると影は、槍を低く構えたかと思えば、突如空へと飛び上がった。


 アーノルドはそれだけで何をしてくるのか理解した。


 影は手に持つ槍を最大まで長くする。


 その長さは普通であれば扱うことなどできないほどの長さ。


 だがただ打ち下ろすだけならばできる。


 そしてその打ち下ろされた槍が生み出す破壊力は、地を穿ち抜き崩壊させるほどの威力を誇っている。


 嘗てのアーノルドはその攻撃を避けて、大技の後にできる隙をついて殺したのだ。


 この技の致命的な弱点はそれを放つ聖騎士が槍を扱いきれていなかったため、攻撃を放つまでの溜めが長いことであった。


 それゆえ避ける余裕もあったが、いまのこの影は力も速度も本人よりも優れているためその弱点も補われている。


 避けようとも、それに合わせて攻撃の軌道を変えるなど余裕だろう。


 それくらいはわかる。


 アーノルドは避けることは諦め、全力で迎撃する態勢を整えた。


 いくら強くなったとはいえ、影が放つ威圧感は無防備で受けれるほど生易しいものではなかった。


 全ての力が集約された槍が——ただ一点、アーノルドの剣に向かって振り下ろされた。


「ぐ……ッ‼︎」


 斬るというよりは叩きつけるといった一撃。


 受けた瞬間全身の骨が軋むようなミシリという音が脳内に鳴り響く。


 並の剣ならば剣ごと一刀両断であったであろうが、流石は黒龍が素材になっている剣だけあってか刃毀れ一つしていない。


 だがこの攻撃はこれで終わりではない。


 槍がここに至るまで斬り裂いた空気が元に戻ろうとしたことによって出来る渦がそのまま時間差で叩きつけられるのだ。


 その下にあるもの全てを崩壊させる空気の圧撃がくる。


「ぅぐ……ッ‼︎」


 平衡感覚を失うかのような感覚が襲うがそれでも槍を防ぐ剣だけは微動だにさせない。


 だが叩きつけられる渦は一瞬。


 耐え切ったアーノルドは思わず笑みを溢す。


「はっ……、耐えたぞ? 大袈裟に言っていた割にはたいしたことないな。——次はこっちの番だ」


 影ゆえに反応は窺えないが、アーノルドはそう嘯き、槍を押し返すと、剣に纏う黒いオーラを逆巻かせ、それをゆっくりと影に向かって振り上げた。


「——憺黒閃ニーネ


 アーノルドが剣を振り下ろすと、光線のような黒い一筋の閃光が駆け、防ごうとした槍ごと影を一刀両断した。


 そのまま影は霧散して消えていく。


 それを見たアーノルドは小さく息を吐いた。


 満身創痍——というほどではないが、あと四戦もこのレベルの連戦があるとなれば一戦目でダメージを喰らいすぎた。


 そこでアーノルドはまた粉のようなものが降ってきていることに気づく。


 すぐに飛び退いて上を見上げれば、無数の妖精達が花吹雪でも散らすかのように何かを散布している。


 だがこの闘技場のどこであれ逃げ場などない。


 しかしそれが先程までの粉とは違うこともすぐにわかった。


 その粉が付着した箇所のアーノルドの傷が即座に治っていったからだ。


 いや、治るというよりは復元と言った方が正しいであろう。


 アーノルドだけでなく、闘技場もまた戦闘によって壊れた箇所がその粉によって元に戻っていく。


 アーノルドにとってこれは助かるが、おそらくはレヴォドの『能力』の代償といったところか。


 強い力を行使するにはそれ相応の代価が必要となる。


 普段はオーラやマナといったものがそれにあたるが、これほど大掛かりな『能力』ならば一戦毎の回復がついているというのもおかしくはない。


 だがこれを当てにして勝つために捨て身で——などという戦法は取れない。


 これは演武だとレヴォドは言っていた。


 そして出てきた敵は明らかにアーノルドの記憶から再現されていた。


 これが当時の再現なのか、それとも別の何かなのか。


 当時の再現ならば、アーノルドが成長した分に合わせて相手が強くなっているというもの筋が通っている。


 実力が同程度になるように調整されているのだろう。


 だがもしその相手がアーノルドがその当時怪我をした状態で戦闘が始まった敵ならば、果たして妖精達はアーノルドを万全な状態で戦わせるのか、それとも当時の傷を再現させるのか。


 そして何よりギリギリで勝てた相手との戦いの再現はいまのアーノルドとて骨が折れるだろう。


 いくら傷が治ろうが、気力と体力は完全には戻っていない。


 これが五戦ともなればどこかで集中力が切れて、ミスをしてもおかしくはない。


 一つのミスが戦いでは致命傷ともなる。


 油断はできない。


 しかしいまの一戦を経てわかったことは、いまのアーノルドにこの『能力』を壊して破るほどの力はないということ。


 戦いの最中に移動しながら、選手の出入り口らしきところや壁など調べてみたが、破れそうなところはなかった。


 相手のルールに則って真正面から破らなければならないだろう。


 レヴォドはこの『能力』には三段階あると言っていた。


 レヴォドの言葉を信じるのならば、いまがおそらく二段階目。


 これを越えたら戦うのはレヴォド本人だろう。


 それも先程までよりかなり強くなった状態が想定される。


 この二段階目で負った傷全てを背負った状態で戦うなどということもありえるだろうし、戦いの結果や過程がレヴォドの強化に影響を与えるかもしれない。


 火属性しか使えない魔法師がここを戦い抜いたのならば、火耐性を身に付けたレヴォドが最後の敵となることもありえるだろう。


 それゆえあまり手の内を晒すわけにもいかない。


 そんなことを考えていると次の影がフィールド場に降臨した——。


 ——∇∇——


「いきなりBランクの影とはな」


 レヴォドの持つ本にはこれまでアーノルドが出会ってきた者の名が記されている。


 アーノルドが殺した者からそうでない者まで、矛を交えた者全ての名が余さず刻まれている。


 そしてその者達は独自のランクに分けられ、その本に記載されているのだ。


 アーノルドが殺した聖騎士が生きていた時よりも強いというのは正しい。


 対象本人に殺された者は最大で一ランク程度、生きている者はだいたい一ランク下程度までの実力で影として演武場に呼び出すことができるのだ。


 呼び出すランクはレヴォドが選ぶのではなく、『能力』が選ぶ。


 その選択に傾向はなく、妖精共の気まぐれだとレヴォドは呼んでいるが、大抵は相手が簡単には勝てないようなランクが選ばれ、徐々に上がっていく。


 妖精は意地悪好きにして、愉悦に飢えている。


 自分達が楽しむためにアーノルドをいいように翻弄するだろう。


 レヴォドがすることはそのランク以下に記載されている中から“コスト”に見合うだけの条件の中で対戦相手を見繕うだけ。


 先程までの聖騎士を例にすると、聖騎士単体ならばもう一体の影を呼び出すこともできたが、聖騎士に槍をつけたことで聖騎士単体になったといった具合だ。


 この『能力』も最初はここまですごいものでもなかった。


 せいぜいが相手に幻覚を見せる程度。


 それが次第に妖精という“形”を手に入れ、そこからこのステージを発現するに至った。


 これはレヴォドが望んだ器。


 罪人の処刑場とでもいう場所。


 犯罪者が本当に被害者を殺したのか、この本を見ればわかるのだ。


 当時はこれで犯罪者共をめんどうな手続きなど踏まずに一掃できると喜んだものだ。


 だがいつからか——。


 堕ちるところまで堕ちたものだなとレヴォドは自嘲の笑みを浮かべた。


 堕ち始めたのは自分の限界を知った辺りか……。


 レヴォドはそんなことを考えながら、その本をペラペラと捲る。


 アーノルドが逮捕される原因となった複数の一家の名前はレヴォドの頭の中に全て入っている。


「お……、あんじゃねぇか……」


 少しの驚きと、安堵でも混じったような声色でそう呟いたレヴォドは更に捲っていく。


 そして最もランクの低いその本の最初のページにまで戻ってくる。


「男共の“名”はあるが、女共の名はねぇか……。男共は離れたとこで死体で発見されたって報告にあったが……、誰かが奴に襲撃させたか……?」


 レヴォドはそこで大きくため息を吐いた。


「やめだやめだ。今更どの面下げて裁判官の真似事なんざしてやがる。俺がやることはあの子供ガキをさっさと捕えることだけだ。この『能力』なら殺さずに捕えれるしな」


 果たしてアーノルドがどこまでつかはわからないが、それでも紂宴を超えることは無理だろうとレヴォドは踏んでいた。


 レヴォドの力は『能力』としては破格と言える。


 アーノルドの言った通り一般的な『能力』の範疇は超えているだろう。


 だが所詮は“成り損ない”。


 その分代償も大きい。


『能力』に見合うだけの努力と時間を捧げてきたつもりだ。


 悪を裁くためにと。


 ゆえにレヴォドは執行官なのだ。


 とはいえ、今ではレヴォドの方が悪よりになっているがと自嘲する。


 それゆえレヴォドはこの『能力』が嫌いだった。


 これは自身が正義を為すために手に入れた能力ちからであり、諦めた象徴。


 限界を象徴する能力だから。


 それゆえ極力使いたくなどなかったのだが、レヴォドにもタイムリミットがある。


 元々はアーノルドが昼に帰ってくるからと言うから余裕があったのだ。


 それがこうも早く帰ってきて、あそこまで手こずらされるとあってはこれ以上は時間をかけていられない。


 くだらない者達の利権になどレヴォドは興味もないが、無視もできないかと小さくため息を吐いた。


「しかし……あの歳でよくあれほどまで……。やはりダンケルノの名は今でも伊達ではないということか」


 二戦目はレヴォドが見たこともない魔獣の群れ。


 獣型の魔物で長い尻尾と二つの首を持つ四足獣だ。


 体長はアーノルドの二倍くらいで、それが十体ほどいる。


 アーノルドという存在から抽出された本の中にあるB+ランクという頁にはレヴォドが見たこともない聞いたこともない魔獣が犇いていた。


 それもただ逃げたのではなく討伐したという証とともに。


 レヴォドのこれまでの経験からB+ランクというのは大騎士級前後——星九から星十程度の者と同じ程度の頁だと思っている。


 だがそうは言っても所詮は獣。


 知能ある人間と比べればそこまで強いとも言い切れない。


 もちろん破壊力や俊敏性という面では人間を遥かに上回るであろうが、その両方をアーノルドは兼ね備えている。


 レヴォドが魔物を敢えて選んだのは人だけでなく、魔物との戦いも慣れているか見るためだ。


 この世界は魔物と戦い慣れている者の方が圧倒的に少ない。


 人とは戦い慣れているが、魔物と戦った途端、格下に負けるような者もいるのだ。


 だがレヴォドの予想通りというべきか、さして時間を掛けることなく二戦目を終えたアーノルドは次にレヴォドが選んだ影と戦い始めた。


 この能力の最大の欠点はいくら死者が強くなるとはいえ所詮は補完でしかないということだろう。


 想像を超えるような力が与えられるわけではない。


 あくまでもレヴォドの『能力』の範疇を超えることはないのだ。


 だが四戦目からは違う。


 三戦目が始まったことで四戦目に選べる最大ランクが捲れるようになった。


 Sランク。


 たかが四戦目でSランクというのも驚きだが、そのレベルのモノとこの歳で戦っているというのも驚きであった。


 この本に載るのはこれまでに対象が接触したモノ全てであるが、選べるのは本当に“生死を賭けた”戦いを繰り広げたもののみ。


 たとえ自分自身がSランクに相当する者であっても、AランクやBランクのモノとしか戦っていない者はいる。


「本当にガキだとは思えねぇな」


 これを見るだけでもアーノルドが自身と渡り合ったことに納得できるというもの。


 とはいえ、Sランクに属するモノで死んだモノはない。


 全員がまだ生きているかもしくはアーノルドでは殺せなかったモノ達だ。


 流石にアーノルドが殺すにはまだ難しい実力領域ということかとレヴォドは苦笑を浮かべる。


 Sランクはいまのレヴォドが全力を出してやっと倒せるかといった領域。


 下手をすればレヴォドの方が死ぬ可能性すらあるモノ達だ。


 死んだモノがいるのならばそれこそレヴォドの肝が冷えただろう。


 とはいえ、いくらSランクであろうとまだ生きたモノ達を降臨させたとしても実力は半減だ。


 それならばランクを落としてA+ランク、Aランクくらいから死んだモノを降臨させる方がまだいい。


 だがレヴォドはSランクの中にある一つの名に目が吸い寄せられた。


『クレマン(――期)』


 レヴォドは誰なのかも知りはしない。


 だが——そこから発せられる何かがレヴォドにそれを選べと語りかけてくる。


 もはや脅しにも近い暴力的な気だ。


 たかが物質から流れ感じるものなどとは思えないほど、レヴォドを抑えつけてくる。


 こんなことは初めてであった。


 だがカリスマ性とでもいうのか、どこか惹かれるものがある。


 レヴォドは妖精の気まぐれかと僅かに苦笑しながらも、まだ四戦目だと、これも一興とばかりにその気に抗うこともなく“それ”を選んだ。


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