不死身編その9
時刻は深夜1時。俺は富士見の帰りを待った。そう。これで、すべて終わらせるのだ。
俺はリビングに戻り大人しく座って帰りを待ち続けた。帰ってこないんじゃないか? とヘッドホンは1度口にしたが、それはないだろう。富士見は必ず帰ってくる。
ガチャリ、とドアが開く音が聞こえた。富士見が帰ってきたのだ。
「ただいま。留守番、ありがとう」
俺はゆっくりと富士見に視線を合わせる。体を下から上までじっくりと観察する。呼吸を整え、俺は立ち上がった。
「富士見」
富士見は俺の声に察したのか、静かにこちらを見つめる。
「今から、殺してやる。言う通りにしろ」
空気が凍る。そうだ。俺は不死身の幽霊をなんとかする方法を……見つけたのだ。
「そう。方法がみつかったのね。……お願いできる?」
ホッとしたのか、あるいは悲しくなったのか、今でもどちらかわからないがこの時の表情はどこか切ないものを感じとれた。
「それで、私はどうすればいいの?」
「服を脱げ」
「え?」
「聞こえなかったのか? 服を脱げ」
富士見は少し驚いた表情をする。
「そ、それは……そうしないとダメなの?」
「ああ。そういう方法なんだ。これは幽霊を吸収するための儀式みたいに思ってくれればいいんだ。だからなにも心配することはないんだ。」
俺は念を押す。あくまでこれは方法の1つだということを。
「わ、わかった」
富士見はまず制服のシャツから脱ぎ始めた。次にスカート。あっという間に下着だけとなった。
なにも思わないといえば嘘になる。この姿を直視するのにどれほど感情を抑えければならないか……ある種の拷問かと思った。自分で提案しといてなんだが。
「ね、ねぇ……その……下着は、脱がなくてもいいよ、ね?」
恥ずかしがる姿に余計に感情が高まる。抑えろ。今はそんなこと考えている場合ではない。俺は意識を集中し、身体を見る。あとは下着だけだ。
「いいや、まだだ。どっちか。脱げる方を脱げ」
首元でなにか動いたような気がしたが気にしない。緊張感が漂う。俺も、富士見も、あるいはヘッドホンも。いや、きっと全員が緊張しているのだ。
富士見は覚悟したのか、下半身に手を伸ばす。
「……!」
俺はその瞬間、動いた。彼女の上半身。正確には胸元だ。ブラジャーの上から彼女の大きな胸の谷間あたりを狙い、片手で掴む。揉む、というよりこれは完全に掴んでいた。そうしなければならなかったからだ。そして俺は力を入れーー
そこにあったモノを破壊した。
「え……!」
俺はすぐに彼女の胸から手を離す。
「どうだ、みたか! ざまあみろ! ってもう聴こえてないか」
高らかに俺は宣言した。やった。俺は成し遂げた。
「怪奇谷君……えっと、これは……」
まだ実感がわかないのだろう。だからちゃんと教えてあげないとな。
「ああ、もう大丈夫だ。これで普通に話せるな」
俺の言葉に安心したのか、富士見は口を開いた。
「見てくれたんだ。あのノート。そこまで気づいてくれるか若干不安だったんだよね」
「富士見の方こそ、わかりづらいんだよ。最初からノートを見てって書けばいいのに」
「ごめんごめん。でも、よくこれの場所に気づいたね。怪奇谷君も遠回しに私のボディが見たかったとか?」
富士見はそういうと、破壊されたそれを谷間から取り出す。
「……っ! ちょ、ちょちょタンマ! とりあえず服を着ろ! そんなん直視出来ねーよ!」
「服を脱げだったり着ろだったり忙しい人ね」
「そうだ! アンタ! 無駄にこいつの身体眺めてなかったか??」
喋るのを耐えていたヘッドホンがここで我慢できずに言葉を発する。もう我慢する必要はないんだがな。
「ふふ。怪奇谷君。ありがとう。でもまだ私は……」
「それなら問題ない。もう連絡はした。普段は頼りにならないけどな。こういう時はなぜか役に立つんだ」
俺はだがまだ肝心なことは達成できていなかった。彼女に取り憑いている不死身の幽霊について。
さっきの言葉は嘘である。解決方法なんて全く見つかっていなかった。
「幽霊のことは、これから探していくつもりだ。だから少し待ってもらって構わないか?」
「もちろん。はぁ、安心したら眠くなっちゃった。怪奇谷君、どうする?」
これは泊まってくかということだろう。もちろん遠慮した。人任せにしておいて俺だけぐっすり眠るわけにもいかないからな。
「帰るよ。じゃあ、その……またな」
俺はなんて口にしていいのかわからず、とりあえず思い浮かんだ言葉を述べる。
「明日……いや、今日か。午後会える? 詳しい話聞きたいから」
「わかった。じゃあゆっくり休めよ」
俺はそのまま立ち上がり帰ろうとする。
「あの!」
富士見は声を上げる。俺を見つめてるが、なんだかせわしない。
「えっと……本当にありがとう。恩は必ず返すから」
恩か。そういう見返りはいらないんだけどな。でも俺はあえて、こう言った。
「それは、俺の本当の仕事をこなした時に頼むよ」
俺は富士見の家を出る。さて、もう一仕事しよう。