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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
怨霊編

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怨霊編その12

 富士見に取り憑いていた幽霊は怨霊ではなかった。誰かが生み出した生霊だという。

 だとすれば一体誰が? 何のために富士見に取り憑けた?


「アンタ、これからどうする?」


「ひとまずうちに帰る……もう一度富士見の様子を確認してみないと」


 富士見が最初に取り憑かれた時とカップルの男が倒れた時。あの時の状況はかなり似ていた。さっきの怨霊が嘘をついている可能性もある。


「頭ん中ぐちゃぐちゃしてんだ! なんとか整理しないと……」


 俺は走った。この辺りからだったら家まで数分で着く。ずっと走っていたこともあってか、少し予定より遅くに家へと到着した。


「あ! 兄ちゃん!!」


 ドアを開けると恵子が小走りでやってきた。その小さな手で濡れたタオルを持っている。おそらく富士見の看病をしていたのだろう。


「恵子。富士見の様子は?」


 俺はリビングへと向かいながら恵子に状況を伺う。


「正直わかんないよ……ただの熱って感じでもないし……ねえ! やっぱりこれって幽霊がらみなの?」


 俺は頷くとリビングのソファーに寝かされている富士見に目を向ける。

 様子は倒れた時と変わらず、という状態だった。一見何も変わっていないように見えるが……俺はゆっくりと富士見の腕を掴む。


「……!? や、やっぱり……」


 俺は富士見の腕を離して元に戻した。


「や、やっぱりってなんなの?」


「さっきより取り憑いてる幽霊の霊力が上がってる……俺には霊力を図る力なんてないけど、流石にわかるんだよ……これぐらいならな」


 見た目に変化はない。しかし確実に内側では変化は起きていた。この取り憑いてる幽霊……生霊は力を増している。


「ど、どうすんの!? 兄ちゃんの力でなんとかできないの!?」


「出来ないんだよ……富士見に取り憑いてる不死身の幽霊が邪魔で……クソ!! どうすりゃいいんだ!」


 富士見に起きている変化はわかった。となればあとは対策だ。俺は生霊なんてものにあったのは初めてだし対策もクソもない。

 そこで思い浮かぶ1人の人物。こういうことに詳しそうな人がいるじゃねぇか。


「魁斗。戻ってたのね……その様子だとまだ解決はしてないみたいだね」


 キッチンから姉ちゃんが姿を現わす。おそらく夕飯を作っていたのだろう。ほのかにいい匂いがする。


「悪い姉ちゃん。まだやることがあるから夕飯は帰ってきてからでいいか?」


 それに答えたのは姉ちゃんではなく恵子だった。


「兄ちゃんまた出かけるの? もう9時半だよ? それなのにどこに行こうって……」


「悪い恵子。でも富士見をこのまま放っておけないだろ? もしかすると対処法を知ってる人がいるかもしれないんだ。だから、頼む」


「た、頼むって……別に引き止めてなんかないし。そ、それに富士見さんを放っておけないのはあたしも一緒だし」


 なぜかそっぽを向く恵子。俺は再び外に出ようとした。しかしその前に確認しておきたいことがあった。


「そういえば、智奈は来たか?」


 智奈に連絡しておいたからうちにも来たはずだ。何せ富士見が倒れたとなれば智奈はすぐにでも駆けつけるはずだ。


「えっと、智奈さん? ……ああさっき来たあの子ね」


 そうか。姉ちゃんは智奈とは面識がないんだった。


「うん、来たよー。でもなんか様子が変だったかな」


「変?」


「そうそう。生田さんね、富士見さんを見たらなぜか真っ青な顔してすぐにでてっちゃったんだよね」


 富士見の様子を見て立ち去ってしまうなんて、確かにそれは少し変かもしれない。智奈にも何かあったのだろうか? 連絡してみるべきだろうか……?


「ん?」


 そう思った矢先、携帯が振動しているのに気づく。俺は外へと出たあとに相手を確認してみる。


「風香先輩!?」


 なんともタイミングがいい。急いでこちらの現状を報告しなければ。


『やっほー。魁斗君大丈夫? なかなか連絡がないから心配でかけちゃった』


 相変わらずのテンションだ。仮にも富士見が倒れているというのに呑気で少し腹がたつ。だが今はそんなことはどうでもいい。


「風香先輩、聞いてください。富士見に取り憑いているのは怨霊じゃありません。生霊です」


 その言葉を受け、あの明るい先輩にしては珍しく一瞬沈黙が続いた。


「風香先輩?」


『今、生霊って言ったかな?』


 風香先輩の声色が変わった。いつものハイテンションな喋り方ではない。若干低めの声。今までに聞いたことのない声だ。


「は、はい」


『詳しく聞かせてもらえるかな?』


 俺はこれまで起きたことを説明した。富士見に取り憑いている幽霊は生霊であること。関わってきた人間が後から怨霊に取り憑かれたこと。最後にたどり着いた怨霊にただ弄ばれていたこと。全てを話した。


『……』


 風香先輩は答えない。


「風香、先輩?」


 全てを聞いた上で、能天気な先輩は答えた。


『あーあー。これは完全にやっちゃいましたねー。まだ早いってのに』


 いつもの口調に戻っていた。なんだか吹っ切れたように見える。


「せ、先輩? 何かわかったんですか?」


 風香先輩は一泊置くと、再び口を開いた。そして衝撃的な言葉を放った。


『私の推測が正しければもう犯人はわかったよ』



「なあ、ほんとに大丈夫なのか?」


 時刻は午後10時。俺は場芳賀高のグラウンドに居た。ヘッドホンの言う大丈夫がなんなのかはわからないが俺はとりあえず大丈夫とだけ伝えておく。

 風香先輩から聞かされた話が事実なら犯人を必ず捕まえなければならない。しかし俺1人ではそれができないかもしれない。だから助っ人も呼んでおいた。準備は万端だった。


「魁斗先輩……」


 すると、ゆっくりと暗がりから近づいてくる人物がいた。


「悪いな、智奈。こんな夜遅くに」


「いえいえ……それよりも、その……姫蓮先輩が……」


 智奈は俯いてしまった。まあ無理もないだろう。あんな富士見の姿を見てしまったのだから。


「大丈夫だ。それならもう手は打ってあるんだ」


「ほ、ほんとですか! 私は何をすればいいんでしょうか!? や、やっぱりさっきメールで言ってた犯人を捕まえるために何かお手伝いを……」


「智奈」


 俺は智奈の言葉を遮った。彼女は虚な瞳でこちらを見つめる。


「せん、ぱい……?」


「もう、わかってるんだろ?」


 嫌だ。俺は言いたくない。それでも言葉は繋がれる。


「俺がなんでお前をここに呼んだのか」


 俺は、まだ信じちゃいないんだ。


「犯人を捕まえるための助っ人として呼んだんじゃない」


 俺はこんな結末は、絶対に嫌だというのに。


「なあ、もう教えてくれてもいいだろ?」


 それでも、言わなければならない。富士見を、救うために!


()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()


 頼む。違うと言ってくれ。そうすれば風香先輩の勘違いでまだ笑える。そうだ。違うんだ。これは風香先輩の思い違いで……犯人は別にいるんだ。

 そう、そうなるはずだった。


「気付いちゃいましたか、魁斗先輩」


 小さな声で呟いた智奈の表情は、俺には、笑ってるように見えたんだ。

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