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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
怨霊編

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怨霊編その13

 犯人がわかった。あっさりと告げる風香先輩は、いつもの調子で質問をしてきた。


『1つだけ質問があるんだけどいいかな?』


「なんですか?」


『姫蓮ちゃんが倒れたことは智奈ちゃんは知ってるのかな?』


 どうしてそこで智奈の名前が出てくる? とはいえふざけているようにも見えない。俺は正直に答えることにした。


「知ってます。俺が教えたんです。さっきまでうちにも来ていたんです。でももう帰ったらしくて」


『はは。そうかそうかー。ねえ魁斗君。なんで智奈ちゃんは帰ったんだと思う?』


「なんで……? そりゃあ、富士見の様子がおかしくて怖くなったとか……まあ俺もおかしいとは思ってたんですけど……」


『違うねぇー。きっとこうだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……は?」


 なにを、言ってるんだこの人は? やっぱりふざけてるのか?


「なに馬鹿なこと言ってるんですか? 智奈が生霊を生み出した? バカバカしい! なにを根拠にそんなこと言ってるんですか!」


 生霊を生み出す、それはつまり、恨んでいる相手がいる時に発生する。仮に智奈が生霊を生み出したのだとすれば、富士見のことを恨んでいるということになってしまう。それは絶対にあり得ない。

 風香先輩はふざけているんだろう。俺はそう思った。だが同時に、こんな場面でふざけるか? とも思った。


『魁斗君。実は言うとね。私、前から智奈ちゃんには警戒していたんだよ』


 風香先輩の言葉につい息を飲む。


「警戒……って、なんで」


『いい? 智奈ちゃんはね、普通の人間だよ。ただ一部を除いてね』


 智奈は普通の人間。当たり前のことだ。しかし一部を除いてだと?


『智奈ちゃんはね、霊力がとんでもなく高いんだ』


「そ、それってどういう……」


『霊力ってのはね、幽霊だけでなく普通の人間にだってあるんだよ。まあ大抵の人は霊力なんてかなり低いんだけどね。たまにいるんだ。霊力がとんでもなく高い普通の人間が』


 それは知っている。例えば霊力が高い人間は幽霊を見ることができたり、気配を感じることが出来たりするらしい。


『智奈ちゃんはこの街でもトップクラスの霊力の高さを持ってる子なんだよね。だから警戒も警戒だね。警戒しないといけなかったわけだよ』


「そ、そんな大事なことなんで言ってくれなかったんですか!?」


『言ってなんとかなる問題じゃないからね。それに何もなければ別に害はないからさ。そう。()()()()()()()


 念を押すように風香先輩は続ける。


『魁斗君に再び質問だね。生霊の力の根源はなんだと思う?』


 普通に考えればその人間の恨みの強さで変わる、と思うだろう。俺も以前まではそう思っていた。しかし調べてみるとそんなものではなかった。


「生み出した人間の霊力の強さによって変わる……」


『そ、正解だね! ……例えばそうだね。魁斗君のお姉さん。お姉さんは霊力は低い方なんだけど、もし仮にお姉さんが生霊を生み出したとしても大した脅威にはならないってこと。だけど、智奈ちゃんの場合は別。智奈ちゃんが生霊を生み出した場合……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 なんで姉ちゃんのことを知ってるのかはこの際どうでもいい。それよりも智奈の方だ。仮に今言っていることが本当だとして、それが富士見に取り憑いていてなぜ大丈夫なのか。


『それはあれだよ。姫蓮ちゃんに取り憑いている不死身の幽霊。あれのおかげってところかな』


「つまり、不死身の幽霊が富士見を生霊から守ってると?」


 風香先輩はうんうんと答えた。電話越しでも頷いているのがわかる。


「だ、だけどまだ納得できない! 智奈の霊力がとんでもなくて、生霊を生み出したらやばいってのはわかった! でも、それだけで智奈だと決めつけるのはまだ早いんじゃないですか!?」


 智奈の霊力がいくら高かろうが智奈が生霊を生み出したという証拠はない。まだ決めつけるのは早い。


『いやぁ。全然早くないよ。確定だね』


 淡々と風香先輩は決めつけた。


『一応確認するけどさ。魁斗君って智奈ちゃんのこと好き?』


 こんな時に何を言っているんだ。ふざけないでほしい、そう思った。

 だけど俺は今の質問で、風香先輩が何を伝えたいのかわかってしまった。


「そ、それは……好きですよ」


『それは後輩としてだよね? 1人の女性としてじゃなくて。恋愛対象じゃなくて』


 風香先輩が伝えようとしている事実。それは俺にとってどうしようもない絶望的な真実だった。


『おそらくだけどね。ううん。誰が見てもわかるとは思うんだけどね』


 ダメなんだ。俺は。


『智奈ちゃんは魁斗君のことが好きなんだと思うよ』


 こんなにも、残酷なことがあってたまるか。


『そして生霊が生まれる1番多い理由。魁斗君ならわかるよね?』


 俺は答えない。わかっている。答えなんてわかってる。でも認めたくなかった。


『恋愛だよ。そうすれば色々と辻褄があうと思うんだけど』


 恋愛におけるいざこざや問題で生霊を生み出すというのが1番多いケースなのだ。


『こうならないように私なりにフォローしてたんだよ? この前の同志先生の尾行だって2人で行かせたでしょ? あ、紅羽ちゃんはノーカンね』


 そういえば同志先生の件は風香先輩が俺たちに頼んだことだ。


「つまり、智奈に不満がたまらないようにしたと?」


『ま、軽く言えばそんなところかなー』


 バカげてる。なんだってそんなこと。


『私なりに考えてたんだよ? まあ今回でその努力も無駄になっちゃったけどね』


 智奈は俺のことが好きであり、俺と富士見が偽のデートをしているところを目撃してしまう。

 その際無意識に生霊を生み出してしまい、富士見に取り憑けてしまったと考えられる。

 その後、倒れた富士見に触れたことで自分が生霊を生み出して取り憑けてしまったことに気づいたのだろう。

 確かに辻褄は合う。だがやはり納得が出来なかった。


「でも、そんなの無いですよ! だ、だいたい智奈が俺のこと好きなんてバカなことあるか! そ、それに富士見に取り憑けてそのままなんてこと智奈がするわけないだろ!」


 俺は無意識にも叫んでいた。


『そうだね。そればっかりは本人にしかわからないよ』


 風香先輩はきっとこう言いたいのだろう。()()()()()()()()()()()()

 俺は通話を終えた。なんとなく夜空を見上げた。


「なあ。もし俺があの時智奈の元に行っていたらこんなことにはならなかったのか?」


 認めたわけじゃない。だけど仮にそうだとして。俺が今朝富士見との偽のデートではなく、智奈に付き合っていればこんなことにはならなかったのでは?


「さあな。まず決まったわけじゃないんだからさ。で? アンタはどうする?」


 絶対に違う。それを確かめるためにも、俺は。真実を知るべきだ。


『富士見をあんな風にした犯人がわかった。手伝って欲しいことがあるから学校の校庭に来てくれないか?』

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