↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/176

epilogue②

本編はこれにて完結します!ありがとうございます!

もう1話同時に更新しております!

「グレンジャーも駆け落ちまでして振られて帰るなんてできなくて、しばらくあっちで頑張ったらしいが、もともと苦労知らずのお坊ちゃんだからなあ。結局、ギルフォード侯爵の網に引っかかったらしい。……ちょうど、ステファニーの父親が死んだ直後で、グレンジャーは一度、帰国しようとステファニーに持ちかけたらしいが、けんもほろろだったそうだ。それで、グレンジャー一人で戻ってきた」


 ステファニー嬢には、王宮舞踏会での婚約破棄のこともあって、かなりまとまった金額をリジーから受け取っていた。ステファニー嬢一人なら、生活に困らない。……要するに、絆されて婚約者を捨てたグレンジャー卿は、新大陸で捨てられてしまったということだ。

 尾羽打ち枯らして帰ってきたグレンジャー卿を、なんと裏切られた婚約者、ミランダ嬢は、あっさりと許して受け入れたという。


「ほんとうですの? ちょっと信じられません」

「まあ、大概の反応はそうだな。ロベルトに言わせれば、『ランデル国で最も心の広い貴族令嬢・オブ・ジ・イヤー』は彼女に決まりだろうと」

「いつものことだけど、ロベルトさんの話は半分くらい、意味がわからないのよね」


 リジーは美味そうに煙草を吸いながら、笑った。


「女心は俺にもわからないが……王都で『ペール・ギュント』を見ただろう、出奔してやりたい放題した挙句、ボロボロになって戻ってきた男を、婚約者のソルヴェイグが受け入れる。……言うなれば、ミランダは現代のソルヴェイグだな」


 なるほど、とちょっとだけ想像がついて、わたしはそれでも複雑な気分だった。結婚式の当日に、他の女と逃げた男を許すなんて、わたしにはできそうもない。もっとも、ミランダ嬢は許しても、当たり前だが父親のシュタイナー伯爵はカンカンで、絶対許さないと息巻いているらしい。ただ、ミランダ嬢もあんな形で結婚が破談になっているし、新しい良縁を求めるのは難しく、ギルフォード侯爵家もまた、他に跡継ぎはいないので、ほとぼりが冷めれば元の鞘に収まるのではないか、というのが、大方の予想だそうだ。


 ……元の鞘に収まっても、世間の目は冷たいと思うけど。


「で、ステファニー嬢はお父様のお葬式にも出ず、お一人で新大陸(あちら)に?」

「ああ。知り合った富豪ってのが、向こうの銀行家らしいが、何でも活動写真(シネマトグラフ)に出資するから、女優にならないか、とステファニーを誘って、まあ、その、口説いたらしい」

「……女優……」


 わたしは呆れてしまった。そんな口車に乗るなんて。


「じゃあ、グレンジャー卿を捨てて、その、富豪と結婚なさるの? で、女優業も?」

「いや、富豪はステファニーより二十も年上で、女房も子供もいるらしいぞ?」 

「そんな!」


 わたしは目を瞠る。ユールがわたしの膝元でハッハッと舌を出して、嬉しそうに尻尾を振っている。わたしはユールの首回りを撫でてやりながら、眉を顰めた。


「……あれだけ、人をのことを愛人だのなんだの罵っていたのに……」

「グレンジャーも、妻子のある男となんて、あまりに不道徳だと詰ったそうだが、その……」


 リジーが言いにくそうに言葉を濁し、わたしの耳元に口を近づけて小声で言った。


「どうやら、グレンジャーよりも、その富豪の方が、アッチの技術が上だったらしいんだ」

「アッチって?」

「だからさ……ステファニーはグレンジャーとの夜じゃあ満足できなかったみたいだ」

「!!!」


 仰天して口もきけないでいるわたしを、リジーは抱き寄せて唇を塞ぐ。わたしもそれを受け入れ、リジーの肩に両手を回した。……最近、ユールはわたしたちの空気を読むようになって、キスを始めるとそっと離れて、一人であちこち掘り返して遊んでいる。それをいいことに、リジーのキスはどんどん、激しく、深くなり、わたしは息ができず、頭がぼうっとしてくる。酸欠になる寸前でようやく解放され、ホッと息をついていると、彼が耳元で囁いた。


「あのな、エルシー。俺の夜の技術に不満を覚えた場合、頼むから余所の男で試す前に、率直に俺に言って欲しいんだ。努力は厭わないつもりだから」 

「ふ、不満なんてありません!」


 思わず叫んでしまってから、わたしはしまったと口を塞ぐ。目の前でリジーが金色の瞳をギラギラさせ、微笑んだ。


「そっか、満足してくれているなら、よかった。これからも努力のし甲斐があるな」

「ま、満足って……そういう意味では……」

「ここはエルシーと俺だけの秘密の花園だけど、エルシーの秘密の花園は、俺だけのものだからな?」 


 リジーはニヤニヤと宣言して、顔がカーッと熱くなったわたしの唇を、もう一度塞いだ。

  

 薔薇の、香が鼻腔をくすぐる。薔薇園(ローズ・ガーデン)に夕暮れが訪れ、薔薇の香りがさらに強くなった。

 

  


もう1話あります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。