第001話 神のチュール、遠すぎ問題
「――というわけで、今回のクエストは王都まで行くにゃ!」
ギルドマスターのタマ(ブチ猫・♀)が机の上に依頼書を広げた。
集まった冒険者たちは、誰一人としてその依頼書を見ていなかった。
「……初めての王都にゃ、もっと真面目にやるにゃ」
タマの額に青筋が浮かぶ。
前衛担当のクロ(黒猫・♀)は窓際で虫を見つめて腰を振っていた。狙いを定めているらしい。回復役のミケ(三毛猫・♀)はお気に入りの木箱に入って顔だけ出している。魔法使いのシロ(白猫・♀)は――
「シロ! また寝てる!」
「……ふにゃ」
タマの怒声に、シロは片目だけ開けて、また閉じた。
「聞いてるのにゃ? これから世界の命運を左右するかもしれない旅の話をしてるんだが!」
「にゃー、日向くさいのが悪いにゃ」
そう、この物語は――
『猫しかいない冒険者ギルド』の話である。
とは言え、種族としては「猫獣人」だが、獣人という言葉が虚しくなるレベルで全員が猫だった。理性より本能。任務より昼寝。金貨より魚。
そんな彼らのもとに、特別依頼が舞い込んだ。
「――伝説の秘宝、《神のチュール》を探してほしい、にゃ?」
依頼書を読み上げたタマの声に、初めて全員が顔を上げた。
クロの尻尾がピンと立つ。ミケが箱から飛び出す。シロが完全に覚醒する。
「チュール……にゃと……?」
「見つけた者には望むものを何でも与える、と伝わる秘宝にゃ。ただし場所は誰も知らない。三百年前に女神様が『猫たちが本気を出したら困るから』って隠したらしいにゃ」
「女神様、俺たちのこと分かってるにゃ……」
クロが感慨深げに呟いた。褒めていない。
「で、行くにゃ?行かない……にゃ?」
タマの問いに、三匹は顔を見合わせた。答えは決まっていた。
「「「行くにゃ!!!」」」
こうして、史上もっとも士気の高い(動機が不純な)冒険が始まった。
しかし彼らはまだ知らない。
その旅の果てで、世界を創った女神の――誰にも言えない秘密に触れることになるとは。
もっとも、五分後には魚屋の匂いに気を取られて全員迷子になるのだが……




