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毒花

 ヴィンは長兄ヘンリーと共に国王に謁見。


 バーデット領はウィステリア領の一部となり、レイの統治下に入った。


 辺境伯から伯爵となり、馬の育成は長兄ヘンリーが担い、騎士団は次兄ジェームスが指揮を執る。ヴィンはレイとの中継ぎをする。


「三兄弟で仲良くやっていけそうだね」


「仲良くは分からんが、なんとかなるだろう」


 アーサー派も一枚岩でなく、アガサの説得もあり、一部の家臣を排除して、残りは生まれ変わるバーデットに貢献すると誓ってくれた。


「また温泉村いきたいなー」


 腕をぐーと上に伸ばしながらレイが雑貨屋に入ろうとすると、若い女性が店から飛び出してきた。


「おっと」


 レイがかがむ。


 バチン!


  大きく叩く音がした。


 ヴィンが頬を押さえながら、女性の腕をひねり上げる。


「おい、いきなりなんだ。こいつ知ってるか?」


 ヴィンがレイに女性の顔がよく見えるように横に向けた。


「初めましてだね。それよりヴィンも避けなよ」


「うるさい。お前を踏み潰すところだった。これどうする」


「どうもしない。そのまま外に放りだしておいて」


「随分と失礼ね。さすが血も涙もない冷血王子だこと」


「先に非礼をしたのはお前だろ。やっぱり警備隊へ連れていく」


「僕を知っていて待ち伏せ? 君は誰?」


「ハロルド王子の婚約者でセイラですわ」


「元王子ね」


「あなたが陥れたのでしょう! ハロルド様はいまや王妃様にもお会いできない不遇の身となっています。責任取りなさいよ」


「彼が責任をとって廃嫡されたんでしょう。迷惑をかけたのはそちらだ。婚約者なのに話し聞いてないのか」


「ハロルド様は美を追求する純真なお方です。あなたのような破廉恥な方と一緒にしないで」


「ヴィン、もう隣の国は滅んでいいよね」


「少し暴れに行くか」


 レイにしたらもう面倒なあいつに関わりたくない。何が美だ。ただの変態だろう。


「とにかく店の前で騒ぎ立てるな。帰ってくれ」


「国境まで見張りつけて追い返すか」


「我が国を馬鹿にして、攻め込むつもり?」


「冗談だよ。君んとこの領民がこちらに流れ込んで来ても面倒だからね」


 レイはヴィンと二人店内に入った。後ろで喚かれるが無視した。


「セオ!!」


 レイが店に入ると、近くで見張っているであろうセオを呼んだ。


「どうしてこれを中に入れたの」


「これはもう何もできない木偶の坊。外でうろうろされても気味悪いし」


 店の隅に焦点のあってない男が座っていた。ぶつぶつと独り言を言っている。


 右手は動かない。もうレイに危害は加えられないだろうとセオは判断したようだ。


「ちょっとハロルド様にお茶くらい出しなさいよ」


「客じゃない。今すぐ出て行って欲しい」


 レイがうんざりした顔でヴィンの後ろに隠れる。


「もう本当にむかつく男ね。話しくらい聞きなさいよ」


「君が態度を改めたら、聞くか考える」


 レイの返答も聞かずセイラはハロルドの横に座り、勝手に話し出した。


 温泉村から強制退去させられた後、父王にすがったものの、やらかした一部始終を聞いた王は激怒。


 廃嫡にされたハロルドは、懇意にしていた男爵のもとへ身を寄せた。


 婚約者であるセイラが訪ねても会わせてくれない。


 家人に探らせると、ハロルドは激痩せしていた。


 足取りがふらつき、陽気にふるまったかと思えば、暴れたりを繰り返す。


 おかしいと強行突破して連れ帰った。


 だが国内にいたら、また男爵に連れ戻されると思い、レイに助けを求めに来たというのだ。


「僕には関係ない」


「ハロルド様が何をしたというのですか? ただあなたを慕って会いに行っただけでしょう?」


「我が国に戦争を仕掛けようと画策。密入国して開発途中の温泉に毒をまき、王族である僕に対し誘拐、監禁、殺人未遂。それに……まだあるけど知りたい?」


 耳元で声をひそめた。


「○○未遂」


 セイラは顔を青くし、体ががくがくと震えだした。


「身の危険を感じた僕がちょっと斬りつけるくらい、正当防衛だと思わない?」


 セイラはそれでも助けて欲しいと懇願する。


 元々はハロルド付きのメイドで、国王に婚約相手を急かされたハロルドがならお前でいいと婚約したという。


 男らしく華やかなハロルドに憧れていたセイラは、婚約者に選んでくれたのだから、何か役に立ちたいと考えていた。


「お助け下さいませ」

「断る」

「どうか!! 慈悲をください」

「なら領主館の特別室に案内しよう。セオ頼む」


 ハロルドとセイラは領主館に連れて行かれた。


「また厄介ごとが増えたな」


「ハロルドがどうなろうと構わないが、あのおかしな様子は気になる」


「薬でも盛られた可能性がある?」


「ある。調べてみよう」


 領主館に着くとセイラは客室へ、ハロルドは地下牢に入れられた。


「あんまりです! 私が地下へ参ります」


「暴れられでもしたら困る。そもそも彼は我が国では犯罪者だ。客ではない」


 セイラがまだ訴えようとする。


「生きたまま国へ返してやった。僕が匿う理由がない。これ以上の温情はないと思え」


 他国の王族を手に掛けようとした者が現れた時点で、殺されても文句は言えないはずだ。


 ハロルドと一時繋がりがあったハリーが、何か知っているだろうかと呼ばれた。


「男爵と会ったのは一度だけ。関わりたくない。怪しい薬物を作っていたよ」


「その時のハロルドの様子は?」


「レイ様に会いたい、しか言ってなかったから、毒されていたのかもしれないな」


「かなりの危険人物だな。国王は知っているのか」


「たぶん知っている。黙認なんだろう」


「黙認? 理由がわからない。自分の息子がどうなってもいいのか。それにその薬物はどれくらい広まっている?」


「まだ国内だけだ。騎士に戦闘前に渡し、飲むと一時的に高揚して、痛みも感じないらしい」


「恐ろしいな」


 温泉村で出会ったときはすでに薬に毒されていたのかもしれない。


 レイが宙を睨む。どうするか。


「急ぎ兄上たちに相談する。すぐ出るよ」


 ヴィンはセオ、トーマスを呼びに行った。



「それは恐ろしい毒薬であり、医療にも使える魔法の薬です」


 ハリーからの情報を兄たちに伝えると、医師のブリジットが呼ばれた。


「それはどういうこと?」


「どんな激痛でも炎症でも抑える効果が高く、最後の手段となるけど、我が国では使われていないわ」


「それはどうして」


「管理が難しく、解明されていない副作用もあるため承認できないから」


「それなら隣国も同じだろう」


「戦闘時に限って使っているのでしょう? 勝ちたければ、手段は選ばないってことじゃないかしら」


「ハロルドの症状については?」


「媚薬効果だと思う。使いすぎて廃人になったのね」


「アル兄様はどう思う? 」


 レイはアルバートの言葉を待った。


「危険だが、我が国にまで入らないよう、早急に根絶やしにしたいな」


「レオン兄様は?」


「もう少し情報が欲しい。レイ行ってくれるか」


「承知しました。我が国を汚染させませんよ」


 レイはウィステリア領に戻り、再度セイラから聞き取り、取引を持ちかけた。


 セイラの実家に協力を取り付ける代わりに、ハロルドとセイラには、旧バーデット領の高位貴族を幽閉する館に住まわせてやると。


 ハロルドと死ぬまで過ごせるなら、とセイラは承諾した。


 セイラの実家の手引きで隣国に潜り込んだセオが、クロークの先鋭数人と戻ってきた。


「男爵の歳は50で独り身。贈答用の高級な花を育てているからハロルドとのつながりはそこだろう。社交にはほとんど姿を見せず、不定期で居場所を変えている。いくつかあたって、今の居場所は突き止めたが、また変わるだろうな」


「厄介だな。悟られないよう他国で動きまわるのは難しい」


「表玄関には出入りなし。裏口に不審な農夫が訪れていたから後を追うと、元バーデット領に近い国境付近にやたら秘密めいた畑が広がり、中は探れなかった。警備が厳重で、ウィステリア騎士団の半数は連れて行きたいところだな」


「それは何かあるって、言ってるようなものだろう」


 ヴィンが領の近くになんてものをと憤っていた。


「ヴィン、主の側を決して離れるな」


 セオが珍しく真顔だ。


「そんなに危険か?」


「男爵は男色で、特に好みは主だ」


「縄で縛っておくか」


 ヴィンはレイを拘束して、どこかへ閉じ込める気でいる。


「ヴィン、無駄だよ。主はものすごく関節が柔らかい。特に狙われやすいから、縄くらいすぐほどく練習をしている」


「王子教育ってそんなこともすんのか」


「うちはないよ」


 ハリーが首を横にふる。


「ヴィン、連れて行ってね」


 レイが茶化して笑う。


 その時、事務官アランが血相をかえて手紙を持ってきた。ヴィンが先に検めレイに渡す。


 宛名のない見知らぬ花が添えられた封筒を開けると、隣国の小さな町の名前が記してあった。


「招待状だ。探す手間が省けた。さて誰を連れて行こう」

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