42:譲れぬ想い
「クロウー----っ!」
雑木林の中をティアナは駆ける。己が魔導兵装の力により、常人を遥かに超える速度で突き進んでいく。
「どうかお願いッ、無事でいて!」
クロウ・タイタスがドラゴンを倒したらしきことは知っていた。
彼は念のため、宰相よりいただいた依頼書をティアナに預けていたのだ。戦闘に巻き込まれて破れないように、と。
その書物には呪法によって、任務の達成印が浮かび上がっていた。それにより勝敗を知ることが出来たのだ。
「クロウッ、クロウ……!」
涙ながらに彼が落ちたほうへと駆ける。
ティアナが最後に見たクロウの姿は、黒龍により滅茶苦茶に身体を振り回された挙句、左腕が千切れて空から落下していくところだった。
そこからどのように逆転したのかは知らない。だが勝利したにせよ、間違いなくクロウは死にかけているはず。
「はぁっ、はぁっ! クロウっ……!」
泣きながら走り続けるティアナ。
――やがて雑木林を抜けた先に、荒れ果てた村が見えてきた。
その中央には横たわるドラゴンと、民衆たちに崇められる初恋の男の姿が……!
「クロウッ!」
少女の顔がぱぁっと華やぐ。泣き濡れた顔に笑顔が花咲く。
彼の無事を知ったティアナは、大きく手を振りながら駆けた。
あぁよかった、怪我は酷いけどちゃんと生きてる。頑張って村人たちを守ったのねと、喜びと尊敬の思いを胸に。
そして。
『――クロウ・タイタス。悪いが貴様を、消させてもらう』
試練を乗り越えた男の周囲を、仮面の者たちが取り囲んだ。
彼が手にした魔導兵装の数々。それを見た瞬間、村人たちがわっと悲鳴を上げながら逃げていく。
「なっ、あいつは……!?」
クロウを取り囲んだ謎の集団。彼らの存在を、貴族家の娘たるティアナは秘かに知っていた。
「王族直属の暗殺部隊、『マスカレイド』どもじゃないのッ!?」
曰く、彼らこそ王族の真なる切り札。帝国暗部に巣食う闇。殺人の許可された死神どもだ。
滅多なことでは動かされず、よほどの不興を買わない限りは派遣されないものとされているが……。
「っ、そうか……! もしもクロウが黒龍に勝ったら、貴族でも何でもない彼が一気に国の英雄になるうえ、王族たちは『新人一人に龍の討伐を押し付けた』と批判されることになる……!」
クロウはただの新人ではないが、だとしても今回の依頼はあまりにも異常だ。
表に知られたら、誰がどう見てもクロウを消そうとしていたのだと思われることになる。
ゆえに、
「たとえクロウが龍に勝っても、その時は無理やり消すつもりだったってわけ……!? ふざけんじゃないわよ!」
怒りのままに突き進むティアナ。
させない、させない。させるものか。どうして頑張って試練を乗り越えた人間が、こんな目に合わなければいけないのか。
もはや自分が弱いことなど忘れた。そんなくだらない現実はどうでもよかった。
ただひたすらに命がけで、クロウに近づく『マスカレイド』の一人に飛び掛かる。
『なッ、貴様は!?』
「『桃源雷甲グレイプル』――アタシに力をよこしやがれェッ!」
桃色のガントレットを握り締めると、ティアナは仮面の者の一人をブン殴った――!
その者の頭部に拳がめり込んだ瞬間、爆発したように頭蓋骨がはじけ飛ぶ。
「ふーッ、ふーッ……!」
手から滴る大量の鮮血。
それは敵のものだけでなく、砕けたティアナの手からも噴き出しているものだった。
――彼女の魔導兵装『桃源雷甲グレイプル』の能力は、“己が体内電流の操作”。
すなわち神経に流れる脳からの命令を操れるというものであり、それによってティアナは何倍もの筋力を発揮させたのだ。
「くそ、がぁ……!」
ティアナの口から悪態が漏れる。
敵は一体仕留めたものの、それだけで片手が使えなくなってしまった。
ああ、下手をすればすぐこれだ。体内電流の操作など容易に出来るわけがなく、発揮する力の量を誤まれば、すぐに身体がボロボロになる。
――それでも。
「……クロウ」
少女は静かに振り返る
そこには、初恋を捧げた男・クロウが倒れ伏していた。
どうやら本当に限界だったようだ。仮面の男を殴り殺した時の拳圧で倒れてしまったらしい。
手元に転がった彼の黒刀が、心配そうに身を振動させていた。
「あはっ、魔剣から愛されるとか何なのよ、アナタは」
本当にとんでもない男だと思う。
いくつもの偉業を為した上に、あの『天滅のニーズホッグ』と思しき龍を倒した快挙。
もはや彼は伝説の人物だ。未だに魔物に苦しみ続ける人類にとって、希望の星と言っていい。
……だからこそ。
「どうかゆっくり寝てなさい、クロウ。――死んでもアナタを、守り抜くから……!」
視線を戻せば、十数人もの『マスカレイド』らが一斉に兵装を振り上げていた。
仮面の下で、彼らは伝説の武器の名を叫ぶ。手にした兵装から破壊の魔光が溢れ出していく。
『暗殺任務に支障が発生。これより、イレギュラーの排除に移る――!』
一斉に襲いかかる仮面の集団。それでもティアナは一切恐れず、真正面から彼らに突っ込む。
「……アタシの男にッ、手ぇ出すなぁあああー---ッ!」
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