40:殺意の咆哮
流れ変わるので初投稿です
集落は惨憺たる有り様となっていた。
ただ黒龍が舞い降りただけで、凄まじい衝撃波が発生。
それによって数多の民家が崩れ、吹き飛んだ破片と塵埃が立ち込めていた。
そんな状況の中、片腕を失って倒れている俺は、絶望の闇に囚われていた俺は……ふと思った。
なんだか腹が立ってきたな、と。
――器! 逃走、ヲ!――
(黙れ)
――!?!?!?!?――
馬鹿なことを言うなよムラマサ。
とっくに逃げられる状況じゃないし、何より今は……逃げたい気持ちがまったく湧き上がらないんだよ。
『ガァァァアアアアアーッ!』
(うざ……)
ドラゴンの咆哮が耳障りに感じる。
さっきまでは死ぬほど怖く思っていたが、どうせ俺はもう死ぬからな。一度絶望しきったおかげか恐怖をまるで感じない。
それよりも、俺の心にあるのは怒りだ。
(……なぜ俺が、こんな辛い目に合わなきゃいけないんだ?)
片腕をなくし、全身は裂け、腹の中の感覚はもう滅茶苦茶だ。
ムラマサのせいで無駄に暴れて目立った結果、王族の命令により、ドラゴンと戦って死ぬことになってしまった。
(ああ、どうしてこうなってしまったのか。どうして俺は辛い目に合っている?)
どいつが一番悪いのかと考えたら、やはり元凶のムラマサか? ――違うだろう。
奴との出会いは偶然だ。そしてアイツに悪意はなく、ただ自分の食欲を満たしたがっているだけだ。
じゃあ、直接殺しに来ているドラゴンが悪いのか? ――それも違うだろう。
奴が激怒している原因は、俺が縄張りに入ってしまったことだ。致命傷を負わされた恨みはあるが、奴とは本来無関係でいられたはずなんだ。
ならば、
(最も悪しきは宰相と王族か。善し、分かった)
――殺そう。死ぬ前に奴らをブチ殺してやろう。
それを邪魔する者も含めて、一匹残らず惨殺してやる。
(ムラマサや黒龍とは違い、連中の指令には明らかなる『害意』があった……。よくも、この俺を、傷付けようと思ってくれたな……?)
怒りと共に立ち上がっていく。
左腕が欠けたせいでふらつくが、その隙に黒龍が攻めてくることはなかった。
『グ、ガァ……!』
奴は酷く警戒していた。
俺が五体満足だった頃よりも、注意深く瞳を光らせていた。
(あぁ、それで正解だよ黒龍。――お前を殺せるだけの手は、既に揃っているからな)
塵埃の中より姿を現し、俺自身の意思で黒龍に歩み寄る。
ドラゴンから逃げていく民衆たちとは逆に、殺意を以って接敵する。
(俺を虐げたお前も殺す。お前を殺してでも王族共を殺す……! たとえこの場限りでも、殺すために生き抜いてやる……!)
死にかけているせいか思考が変だ。こんなに怒っているのは初めてだ。
だから今だけは、自己保身のためじゃなく嫌がらせするために演技しよう。
――下劣な王族共に当てつけるよう、『悪を赦さぬ断罪者』として鮮烈に戦ってやろう。
奴らの耳にも届くよう、俺の雄姿を人々に見せつけてやろう――!
「民衆たちは傷付けさせん。俺が、相手だ……!」
過去最大に凛々しい顔で、龍の前へと立ちはだかる。
さぁ、
(力を貸せ、ムラマサッ!)
――ッ、御意!――
殺意を合わせて地を蹴った! 地面が砕けるほどの力で一気にドラゴンへと踏み込む――!
『ガァッ!?』
虫の息であるはずの俺の加速に、黒龍が戸惑いの意思を見せた。
そんな身体でどうして動けるのかと。
(俺は魔剣に呪われた身だ。離れていようが繋がりは切れず、生きてる限りはムラマサが俺を操ってくれる!)
魔剣によって突き動かされながら、俺は右手の銃を構えた。
「滅ぶがいいッ!」
大口径銃『黒業死銃アーラシュ』を突き付け、零距離射撃を実行する。
その砲身から破壊光が放たれんとした刹那、黒龍は素早く舞い上がった。奴が初めて回避行動を見せた瞬間だ。
狙いを外した破壊光は村の外の森にまで伸び、何百本もの木々を焼き焦がした。本当に恐るべき威力だな。
(ドラゴン。お前が俺を本気で殺そうとしたのも、コイツを撃とうとした時だったな? つまりは至近距離でブッぱなせば、お前にも効くってわけだ)
それと、だ。超破壊力の代わりに使用者に死を迫るアーラシュだが、その前兆は一切なかった。
当然だよなぁ?
(満足してるんだろうアーラシュ? 何せ今の俺は、いつ死んでもおかしくない状態だもんなぁ!?)
“美青年主君四肢欠損内臓破裂出血多量全身骨折ッ! 嗚呼ァ尊尊尊ッ! 散華散華ェェエエー---ッ!”
絶頂の叫びが銃から響く。
瀕死の身体で死闘に挑む俺に対して、大興奮しているらしい。
よしいいぞクソ野郎。好きなだけ俺に欲情しろよ。その代わり、全力で俺に従いやがれッ!
『ガァアアアアアアアアアアーーーーーーッ!』
怒りの咆哮が天より響く。
浮かび上がった黒龍の両翼から、二つの呪法陣が現れた。
まるで巨大な目玉のようだ。それらは地上の俺に照準を合わせると、濃密な魔力を収束し始めた。
「ああ――翼を起点に、風の呪法を使う気だろう? 知っているさ」
次の瞬間、龍の翼へと鋼の雨が降り注ぐ。
ソレらは薄い翼膜を貫き、四十七もの穴を開けた――!
『グガァァアアッ!?』
驚愕と激痛に吼える黒龍。両翼が傷付いたことで呪法陣が霧散し、放たれんとしていた暴風が無作為に吹き荒れた。自身の風に弄ばれ、奴の巨体が墜ちていく。笑えるな。
「ドラゴンが呪法を使うことは聞いていた。後はソイツがどんなモノか特定するだけだが、少し考えればすぐわかる。
――お前みたいな駄肉の塊が、素早く飛べるわけがないとなぁ……!」
つまり黒龍の呪法は『風力発生』。羽搏く力を暴風により強化することで、あの巨体での高速飛行を可能にしていたわけだ。
(仕掛けが分かれば対処は簡単だ。種の出所を、潰せばいい……!)
俺の周囲に四十七の黒き短刀・『黒血染刃ダインスレイブ』たちが舞い降りる。
黒龍の翼をズタズタにしたのはコイツらだ。今や吸血刃の群れは、空を泳ぐことが可能になっていた。
(助かったぞ、ダインスレイブ。俺の左肩の血を止めてくれたのは、お前だろう?)
“ヒェッ……!”
なぜかキョドってる吸血刃が可愛い。コイツは命の恩人だ。
――そう。俺の左肩の切断面からは、なぜかほとんど血が出てなかった。どういうわけか瘡蓋になっていたのだ。
それに気付いて思い出したさ。
(ダインスレイブの元の持ち主は、血液を巨大な刃にして飛ばしてきた。
つまりコイツは吸った血を主の活力に変えるだけじゃなく、ある程度操れるってわけだ)
刃にして飛ばすことが可能なら、短刀に纏わせて『浮け』と命じることもまた可能。
そう判断した俺は、塵埃の中から歩み出るタイミングで、上着の内側より全ての短刀を解き放っていた。
そして俺へと注目が集まっている間に、上空へとダインスレイブたちを移動。ここぞという時の奇襲に使わせてもらった。
『グゥゥガァァアアアーーーッ!』
怒りを爆発させる黒龍。このまま落下してなるものかと羽搏こうとするが、無駄だ。
「――遠隔起動、『黒拷縛鎖アイトーン』」
“ハハァ!”
瞬間、龍の首に巻き付いたままとなっていた鎖が蠢く。
その長さが一気に伸び、奴の両翼へと絡み付いていった――!
『ガァアアアアッ!?』
ありがとうなアイトーン。
完全に抑え込むのは無理みたいだが、少しでも羽搏くのを遅く出来たら御の字だよ。
だってほら、そのおかげでドラゴンは。
「もはや無様に墜ちるだけだ」
かくして次瞬、特大の爆音を立てて黒龍が地に落下した。
奴の血肉がはじけ飛び、雨のように降り注ぐ。
『ギゲェエエエエエエェェエエエッ!?』
村中に響く苦悶の絶叫。
何十トンあるかもわからない身で墜ちたのだ、間違いなく内臓までもがグチャグチャだろう。
これで俺たちお揃いになれたな?
『ガ、ァアア!』
悶え苦しむ黒龍だが、それでも奴は闘志を保っていた。最後の意地とばかりに、凶悪なる裂爪を俺に振り上げる。
ああ、
「ちゃんと腕も千切らないとな」
恐れることなく魔銃を放った。
射出された破壊光は奴の腕を引きちぎり、大量の鮮血を溢れさせた。
『グギュィイイイイイイイイイッ!?』
激痛に身悶える哀れなドラゴン。
奴が大きく身体を痙攣させた瞬間、背に刺さっていたムラマサが抜け飛んだ。
それはまるで運命のように、俺の下へと突き刺さる。
「おかえり、妖刀」
刀を手にして黒龍に近寄る。もはやダメージで動くこともできないようだ。
一歩、一歩と歩むたびに、猛々しかったドラゴンの表情が歪んでいく。
奴の瞳に漆黒の刀が反射する。
――『黒妖殲刃ムラマサ』。俺の人生を変えた最悪の刃。
色々と気に食わないゴミみたいなパートナーだが……一つだけ、気にいってるところがあるんだよ。
(お前って、見た目だけはカッコいいよなぁ)
そして――さくり、と。
俺はムラマサを構えると、ドラゴンの眼球に突き入れた。
柄を通り越して肘までねじ込み、そのままぐるりと捻った瞬間、
『ガッ、ァアァァアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーッ!?』
眼球の奥で、ナニカがぐちゅりと崩壊した。
それと同時に上がる悲鳴。黒龍は断末魔を上げながら悶え続け……、
『ァ、アァ――』
ついに、絶命したのだった――。
「フ……」
俺は刃を引き抜くと、天高らかに突き上げた。
視線を遠く周囲にやれば、村の外れにはこちらを呆然と見る民衆たちが。
気配だけでわかっていたさ。闇雲に逃げていた彼らだが、その足は途中で止まっていた。
なにせドラゴンがまったく追ってこず、振り返れば魔導騎士により圧倒されていたんだからな。
さぁ、彼らに言い放ってやろう。
王族共に邪魔と思われた俺が、何の血筋も持たない俺が、国の伝説となるように。人々の心に刻まれるように。
どこまでも雄々しく、『断罪者』として振る舞ってやろう。
「――悪よ、滅びろ。このクロウ・タイタスがいる限り、帝国の平和は揺るがせないッ!」
呪い装備ズ(((う、器さん!?!?)))
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