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【57本目】チェンジリング(2008年・米)

 あの映画の事件ってイーストウッドがこれで映画化してなかったら、タランティーノ監督がクリスティンが火炎放射器でノースコットも警部も本部長も焼き殺して、ウォルターも無事に生きて帰ってハッピーエンド!みたいなシナリオで映画化してそう。




【感想】


 アカデミー監督賞を2度受賞している巨匠・クリント・イーストウッドの最新作【リチャード・ジュエル】は、一人の男性を軸にしてアメリカ社会の腐りきった側面を描いた作品でした。イーストウッドは【アメリカン・スナイパー】などを監督したことから保守的な映画監督とみられることも多いですが、彼の監督作品は、1970年代の【荒野のストレンジャー】の頃から、アメリカ社会の腐敗が強調されています。


 マレフィセントことアンジェリーナ・ジョリーが主演を務め、2008年のアカデミー賞でも3部門にノミネートされたこの映画は、数あるイーストウッド映画の中でも特に、アメリカ社会のグロテスクな闇を強調した作りになっています。




 行方不明になっていた自分の子供が見つかった!と思っていたら見つかった子供は明らかに他人……という地獄みたいな実話をテーマとしたこの物語は、その地獄の展開を以てして、当時アメリカ社会に存在したナチス顔負けの警察強権社会が描写されています。その腐敗した警察と関連させて、薬の密売、監獄同然の精神病院、目に余る女性差別など、アメリカ社会全体の闇(それもギャングみたいなわかりやすい闇じゃなく、もっと胸糞悪くなるような暗部)をもさらけ出した作品になっているのです。




 歯医者や小学校の先生がこの子は明らかに偽物です!と断言する場面であれ?イーストウッド映画にしては簡単に解決する?と思わせた直後に、主人公が精神病院に入れられるというどん底の状況へ。偶然が重なってなんとか最悪の状況は脱しますが、そこに舞い込んでくる救いのない知らせ……という感じで、カタルシスとか、良い視聴後感とはマジで無縁のテンションが続きます。




 結局最愛の子供は戻ってこず、ただただ主人公が警察に売られたケンカを買って犯人も死んで、という消化試合みたいな展開になるので、なんかもう冒頭の幸せな時間を除いてはただただ落ち込むだけの時間が続く映画です。不当に精神病院に入れられた女性が解放されたり、警察への抗議デモに上司が参加していたり、他人とは言え誘拐された子供の一人が帰ってきたりと、ある程度救いとなるシーンは挿入されますが、劇中のどんよりした空気を晴らすには至らず。某ロボットアニメ風に言うと【むせる】作風ですね。


 作中大部分のパートで落ち込むという意味では、ただでさえ通好みな作風の多いイーストウッド映画の中でもさらに玄人向けの映画と言えるかもです。


 暗い展開、と言う意味では同監督の【ミリオンダラー・ベイビー】もそうですが、あの映画は中盤で主人公がボクサーとして成功して、一応順調な一時を過ごすパートがありますし。




【キャラについて】


 精神病院でクリスティンが【コード12】について先輩患者・キャロルから教わるくだりは、劇中当時アメリカ社会に存在するえげつない女性差別を視聴者に見せつける役割を果たしています。で思うのが、この映画ってクリスティンの【戦う女性】としての物語が強調されてるってことなんですよね。




 冒頭を振り返ってみると、クリスティンは当時まだかなりの男社会だった1920年代にあって、電話会社で主任を任されたり、シングルマザーとして努力したりと、女性ながら立派に自立して生きようとしています。


 また悪役となるジョーンズ警部は彼女を無責任な母親として罵倒しますし、病院で仲間となるキャロルは男性相手に反抗する姿を見せつけてクリスティンを勇気づけます。その結果、【男社会で反抗的な女性を拘束する警察vs女性として、かつ一人の母親として社会の不正を告発するクリスティン】という構図が、映画のキモになるわけです。




 ただ、だからこそ息子がどこかで生きている、という希望を持ちながら生涯生き続けたクリスティンの姿はちょっと病的に映りますね。もちろん息子の死に絶望しながら生き続けるよりかは全然よかったんでしょうけど、笑いながら歩き去っていく彼女の姿はちょっと痛々しく思えたし、腐敗した警察に立ち向かった彼女でも、息子の死は受け入れられないし乗り越えられないんだなっていう悲しさが募りました。




 クリスティンだけにスポットが当たるとちょっとしたフェミニズム映画になりそうなところを、ジョン・マルコヴィッチ演じる牧師やサンフォード少年、ヤバラ刑事など味のある男性キャラクターを登場させて単なる女性が戦う映画に終わらせていないところもポイントです。




【好きなシーン】


 もう嘘でしょこれ?というレベルでアメリカの警察だの田舎だののえげつない闇が暴露されまくる映画なので、見終えた後だと冒頭の【a true story】という言葉が一層重みを増します。これまで数ある伝記映画で観てきた三単語ですけど、この映画ほど重く思えたことはないかもしれない。




 チャップリンとかベーブ・ルースとか、また我々にとっても馴染みのある俗な名前が飛び出してて、このホラー映画みたいな話が【実話だし、しかもそんなに昔の話でもなかった】という事実を突きつけてくるようで胸がキリキリします。


 でも現代でも黒人を即射殺するような警官がいるような国なので、観る人によっては「知ってた」みたいな感じでそんなに驚かないかもしれませんね。




 あと映像コンテンツではありがちっちゃありがちですが、【こいつを殺せ、さもなくばお前も殺す】という地獄みたいなシチュエーションを子供のうちに経験してしまったサンフォード少年の嗚咽も辛かったです。

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