【104本目】The Net -網に囚われた男-(2016年・韓)
ヒゲがなすびさんの生え方なんよ
【感想】
ハリウッド映画で人種問題をテーマとして扱った映画が数多く製作されているように、映画というものは製作国の政治事情と無関係ではいられない文化です。
なので韓国映画で、分断が生んだ悲恋を描いた傑作【シュリ】や、最近だと金正日時代のスパイを描いた【工作-黒金星と呼ばれた男-】など朝鮮半島の南北分断をテーマとした映画が数多く製作されるのは必然であるといえます。
【嘆きのピエタ】などで知られるキム・ギドク監督が2016年に発表したこの映画は、意図せずして南北の国境を越えてしまった人間の物語になっています。
この映画が孕むメッセージは数多くありますけど、まあ特に重要なものを上げるとしたら、人間がいかに【偶然】に納得しない生き物かっていうことですよねー。
主人公の北朝鮮人、ナム・チョルは、北朝鮮の漁村に住む漁師ですが、所持しているボートのモーターに網が絡まって故障、海の上で身動きが取れなくなったまま南側の領海へと流されてしまい、韓国側の国境警備隊に拘束されます。
拘束されたチョルは、韓国側の警察にスパイの疑いをかけられて拷問じみた尋問をうけることになる……というのが、ストーリーの本筋になっているんですが、すべては【偶然】起こった事件であるのにもかかわらず、韓国側の取調官には何度本当のことを話しても、スパイとして侵入したという疑いを晴らしてもらえない、という理不尽な状況が、密室での取り調べを通して嫌というほど強調されます。
また韓国政府側の高官は主人公を疑わない一見良心的な人物なんですけど、その人はその人で【北の人々は独裁で苦しんでいるから、きっと脱北したいだろう】【独裁政権に洗脳されているから、自由にしてあげないと】という上から目線の優しさを垣間見せてきた、という点も、この映画の批評的精神が見え隠れしていましたね。
でも中盤でチュルが出会った娼婦らしき人の描写で、【南の人間が、北ほど幸せとは限らない】というリアルを描写し、そういった上から目線を劇中で否定しているところも秀逸。
結局、チョルに対して本当の意味で親身になって接したのは、美形若手警察官のジヌのみでした。
で、紆余曲折あって結局北へ送還されることになるのですが、そこでも南との関与を疑われてスパイ扱いされるという八方塞がりの地獄に追い込まれます。主人公も劇中で語っていますが、【The Net】というタイトルが、主人公が不幸に陥るきっかけとなる原因の網だけでなく、主人公を魚のように雁字搦めにした国境という網も指していることがわかる、秀逸なシナリオ展開だったと思います。
【キャラについて】
いや、細かいことなんですけどね。不思議なことに、主人公のチョルと、美形警察官のジヌ以外は、あの拷問取調官も、高官も、娼婦も、チョルの妻子すら、人物名が存在しないんですよね。中国映画の【英雄-HERO-】で始皇帝を暗殺しようとする主人公の名前が【無名】(名無し)なのは、名前という個人としてのアイデンティティを持たせないことで、中国人という集団の表象として描くため、的なことが同映画のパンフレットに書いてあったんですが、そうなるとあの急にウリナラマンセー!!と歌い出す取調官や上から目線の優しさで亡命させようとする高官たちは、韓国内で脱北者に偏見を持つ人々のメタファなのかもしれない、とか思いました。
【好きなシーン】
いやー、ラストシーンは秀逸でしたねー。南でスパイ扱いされ、北に還ってもスパイ扱いされ、家庭では拘束前のように妻とセックスする元気もなくなったチョルの最後のあの行動。時代と政治のうねりに流されるままに流され続けた彼が自分の意思でできる最後の行動がアレであったことを考えると辛すぎます。
少し【ショーシャンクの空に】のブルックスの最期も彷彿とさせられましたね。




