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第六話 リベンジ


 幾ばくかはまどろんだだろうか。

 復讐の方法を考え、名案が浮かばないまま空が白みかけたのに気づき、慌てて眠ろうとしたが結局眠れなかった。


 翌朝、会社へ行く時間だ。

 ベッドから起き上がると徹夜明けの倦怠感と立ちくらみがする。


 俺は目覚ましがわりに冷蔵庫で冷えたウーロン茶を2リットルのペットボトルごと一気にあおり、半分ほど飲み干す。


 朝食を準備する時間はない。

 買い置きの菓子パンをかじりながら駅へと向かった。




 会社に着いたのはいつもより10分ほど遅かった。

 寝不足による不調で階段を走れなかったのがまずかったのだ。


 デスクにつくと予想通り係長の鬼塚から嫌みな声がかかる。

「近藤君、いつも言っているだろう。

 始業時には仕事がスタート出来るように出勤するのが社会人としての常識だ」


 業務開始までまだ20分、朝の朝礼まででも15分あるというのに、既に遅刻者扱いだ。 しかし、ここで反論するのは愚策であることを、俺は体験から知っている。

「はい、すいません。以後気をつけます」


 俺が素直に謝ると、鬼塚はぶつぶついいながらもそれ以上の追求はしてこなかった。


 今に見ていろ。

 貴様がそうしていられるのもあと少しだ。


 俺は心の中で呪いの言葉を紡ぎながら仕事の準備にかかる。




 仕事中も10gの超能力でどう復讐するか全く思いつかず、うっかり昼の弁当を注文し忘れた。

 今日は睡眠不足で疲れがあるので、出来れば社員食堂は避けたかった。

 省エネによりエレベーターの使用が制限されており、10階ほど上らなければいけない社員食堂は、今日の俺にとって遠すぎる。

 昼休みになって弁当のない社員が食堂へと移動を始める中、徹夜の影響で肉体的にも精神的にも疲労がピークに達した俺は、食事より睡眠を選択することにした。


 仕事用のデスクに突っ伏して体の力を抜く。

 とたんに睡魔が襲ってくる。

 ものの1分もしないうちに夢の世界へと旅立てる確信があった。


 俺がまぶたを閉じようとしたそのとき、視界の隅でそいつが動いた。

 Gだ。

 黒光りしたその背中は見まごうはずもない。


 その瞬間、稲妻に打たれたように俺にアイデアがひらめく。

 Gは10gもない。

 それは確信を持って言える。

 これは使える。


 俺は鬼塚のデスクを見る。


 奴は今将に去年結婚したばかりの奥さんから手渡されたであろう愛妻弁当の蓋を開けるところだった。


 今だ、今しかない。


 俺はGに向かってサイコキネシスを発動し、できうる限りのスピードで飛ばす。


 元々Gは羽で飛ぶことが出来る。空中から飛んできても不思議はない。


 俺はサイコキネシスで飛ばしたGを、鬼塚のデスクへと誘導する。

 狙いは蓋が開いたばかりの奴の弁当だ。


 鬼塚は今将に、ご飯を箸で口へ運ぶため、箸を白米の中央付近へ突き立てようとしている。


 ブチッ


 小さな嫌な音がした。


 成功だ。

 俺が誘導したGは、見事に奴の箸と白米の間に着地した。


 当然、ご飯に突き立てられようとしていた箸は、ご飯の上にのったGの背中を貫く。

「ひっ!」


 鬼塚の引きつった悲鳴が響き、デスクで食事していた社員全員が奴の方を見た。


 鬼塚の愛妻弁当は、もはや人が食していいものではなくなっている。

 奴の席に近い何人かがそれを確認し、口を押さえて席を立った。


 あれは食欲を失わせるに十分な光景なのだろう。


 幸い、事件の真犯人たる俺の席からは、遠くて詳細にその惨状を見ることは出来ない。




 鬼塚はしばし呆然としていたが、やがて弁当箱を持って給湯室へと消えた。

 給湯室には生ゴミ用の残飯捨て場があるのだ。


 給湯室から帰ってきた鬼塚は上り階段の方へと去って行く。

 今から社員食堂は最も混む時間だ。

 引きつった奴の顔は俺の精神の安定に本当に役立った。


 俺は、残りの昼休みを睡眠時間に充て、すっきりとした午後を迎えることが出来た。

 体調が戻ったことで空腹を思い出したが、本日の戦果はそれを補って余りある多幸感を俺にもたらしたのだ。







ここで一旦完結です。

課長への復讐編はまだプロットが白紙ですので、思いついたら書くかも知れません。

とりあえず、連載中の多作品に疲れたら、こちらを書こうと思います。

よろしくお願いします。

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