第3話
原子時代に来た雄馬だったが、来てすぐに体調を悪くしていたところをこの時代の人達に助けられた。
この時代、この場所で雄馬が感じたいこととは一体?!
藁で覆われた家で休ませてもらい、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
体を起こし外に出ると、辺りはまだ薄暗く早朝で、女達が火をおこして土器のようなものを使い、朝食の用意をしているところだった。
近づいていくと、女達がなにやら俺を見てクスクスと笑っている様子だった。しかし、その中の一人が料理を器によそって俺にくれたのだった。それは野菜や何かのお肉がたっぷりと入った何かのスープのようだった。少し口にしてみると、それは驚くほどの美味しさだった。
温かくて、素材一つ一つの味や食感がバランスよく、しっかりと引き立てられていた。あまりの美味しさにおかわりを要求すると、その女性が俺に話しかけてきた。
「昨日はあんなに具合悪そうにしてたっていうのに、よく食べるわねぇ!どこから来たのかしらないけど、食べたらしっかりと働いてもらうわね!」
俺は驚いた。なぜこの時代の人の言葉が俺にわかるのか、一瞬、自分の耳を疑ってしまったがおそらくDSTDの力だと思い直し、普通に会話をできるかもしれないと思い、言葉を返してみた。
「助けて下さって、ありがとうございます。」
「私は何もしていないわ。お礼を言うなら男たちに言うのね。食べ終わったら、仕事場に案内するわ
。」
「え?仕事って?」
「仕事は仕事よ。食べたらしっかり働いて来てね!」
「は、、はい。」
言葉も普通に通じることが分かり、俺は少し安心した。
朝食を終えて、案内されたのはこの時代の男達の所だった。
この時代の人類、特に男達は、体毛が濃く、そして体格のいい人が多いようだった。その体の大きさに圧倒されていると一人の大男が俺に近づいてきて声をかけてきた。
「体はもう大丈夫か?」
「はい、昨日はありがとうございました。おかげでこの通り元気です。」
「そうか、それは良かった。ところで、お前はどこから来た?」
「俺は、未来から来ました。」
「おいおい、ヒョロヒョロで腰抜けな上に、頭までどうかしちまってるのかよ!たまんねぇな!」
俺が未来から来たこを話すと、周りの男たちがクスクスと笑って、俺を馬鹿にしたのだった。
しかし大男が突然大きな声を張り上げた。
「お前ら!少し口を慎まんか!」
すると、周りの男たちのざわつきが一斉に鎮まり、大男はまた話し始めた。
「それが本当かどうかは分からんが、お前さんの目が嘘を言っているようには見えない。
事情はどうあれ、いたいだけここにいたら良い。だが、仕事はきっちりしてもらうぞ。お前さん、名前は?」」
「雄馬です!宜しくお願いします!」
「おい!ガンス!雄馬の面倒みてやれ!」
「わかりやした!ゴーザックさん!」
そうして俺は、ガンスという男に仕事を教わることになり、準備をしながら少し話をした。
そしてその仕事というのは狩猟だった。この時代の男の仕事と聞けば予想はしていたものの、俺はそれを聞いてまた頭が真っ白になった。
「雄馬、お前まさか、狩りをしたことがないとか言わないよな?」
「そのまさかです。」
「本当か?じゃあ、今までどうやって生きてきたんだ?」
「未来では自分で狩りをしなくても、動物たちを育てたり捕獲したりして誰かに渡し、その渡した相手から対価を貰って、その貰った対価で暮らすという習慣があります。だから、狩りをする人もいますが、やらなくても生活ができる人がこの時代より圧倒的に増えています。」
「その対価ってなんだ?対価なんて、この時代じゃあ、肉や植物、後は毛皮や陶器くらいしか思いつかないが、、、。それに狩りをする以外の男たちは何をして働くんだ?」
「対価はお金というものです。けどこの時代ではお金を使っている人が誰もいないと思うので、お金なんていくらあったってなんの意味もないでしょうが、、仕事は狩猟以外にも、今ここでお話ししきれない程の膨大な種類があります。」
「お金か、、、本当にそんな未来がくるのか?それが嘘でも本当でも、俺はこの時代に生まれて育ったから、今の暮らしが一番だ。だが、狩りが苦手な奴もいるから、そんな風に、役割分担するのも良いのかもな。そうして、色んな仕事が増えたってわけか、、、。」
「そうです。ガンスさんは?こういうお話に興味がありますか?」
「面白そうだが、俺は今、この時代で精一杯生きることが一番の幸せだと思ってる。何より、愛する妻と子供がいるからな。」
「そうでしたか。俺にも愛する妻と子供がいます。」
「そうか。今は未来に家族はいるのか?」
「はい。」
「事情はどうあれ、お互いに今はここでしっかり生きないとな。」
「はい!」」
「よし!ではまず狩猟の基礎から話していくぞ。まず狩猟に一番大切なのは、生命と向き合うことだ。」
「生命と向き合う、、、というと?」
「そういうことだ。」
「どういうことですか?」
「ひとまず、今日は俺が狩りをし、その獲物を解体する。それを目を背けずにしっかりと見ることが、お前の仕事だ。」
「わかりました。ただ、、。」
「ただ、、なんだ?」
「いえ、なんでもありません。」
「そうか、では行くぞ。」
それから俺とガンスさんは、集落から一時間程歩いた森の中で狩りをした。森の中は鳥の鳴き声と川のせせらぎの音と、時々何かの動物の鳴き声が途切れ途切れに聞こえてくるのだった。
そんな大自然を満喫してしまっていると、ガンスさんが突然静かな強い口調で言った。
「いたぞ!」
その目線の先には猪がおり、至近距離に来るまで木陰に身を潜め、ガンスさんはものすごい速さで猪に近づき槍で一突きで猪を捕獲した。
狩りは危険も伴うし困難だと聞いたことがあるが、それを槍の一突きで捕獲するガンスさんはもの凄い人なのだと、俺の目には映った。
「よし、これから河原付近に運んで解体をするぞ。」
ガンスさんはその大きな体で猪を担ぎ上げた。俺はその光景に腰を抜かしそうになった。
10分程歩いて河原に着き、慣れた手つきで解体を始めたのを俺は見ていたが、途中、眩暈と吐き気と動悸が止まらず、目を背けてしまった。
「どうした?なぜ目を背けるんだ。」
「無理です。怖いんです。」
「何がだ?」
「この光景も、今起きているこの現実も全てが受け入れられないんです。」
「そうか、なら今日は目を背けてもいい、見なくていい。逃げ出したければ、逃げ出したって構わないぞ。」
「それは、嫌です。」
「何がだ?」
「ここから逃げ出すことがです。」
「そうか。」
俺は、身体の異変を感じながらも、ただただ逃げることだけは嫌で仕方がなかった。それがなぜかなんて聞かれても分からないけど、とにかく逃げることの方が俺にとってはもっと恐怖に感じた。
俺が恐怖している間に解体が終わり、その肉を持ち、俺は何もしないまま集落に帰るのだった。
集落に着くと狩りをした肉を女達に渡し、その肉は調理されることとなった。
気が付けば夕方となっていた。夕食ができるまでの間、ガンスさんと焚火の前で話をした。
「今日はなぜ逃げなかった?」
「分かりません。ただ、逃げたくなかったんです。」
「そうか。明日も狩りに行くが、行けそうか?」
「はい、行きます。」
「狩りは怖いか?」
「怖いです。」
「では、今の自分が好きか?」
「好きです。」
「そうか、それなら大丈夫だ。明日も行こうじゃないか。」
「はい、よろしくお願いします。」
しばらく焚火の前で沈黙が続いたが、不思議ととても心地の良い沈黙だった。
そうしているうちに、料理が運ばれてきた。
猪の肉料理に、とれたてであろう新鮮な野菜、今朝出してもらった、味のしっかりついているとても美味しいスープに、酒も用意されていた。その他にも沢山料理が出されていた。
気が付けばその場に集落の全員が集まり、ゴーザックさんの一声で宴が始まった。
「新しい村の仲間ができたことを祝して!乾杯!!」
俺は突然のことで驚いたのと、嬉しさのあまり、涙が溢れ出てきてしまった。
村のみんなにお礼を言ったあと酒を口にし、今日狩りをしてきた猪の肉を口にした瞬間、その美味しさで更に涙が溢れ出たのだった。
初めて目の前で狩りを目にした雄馬だったが、恐怖のあまり、全てが受け入れられないと言いながらも
、その場から逃げ出しはしなかった。
この時代で雄馬はどう生きるのだろうか?!




