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社交辞令とかいいから、身代わり契約とか如何です?  作者: 音羽 雪
私とあなたと運命の悪戯
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6 誰が被害者になるのか

視点変更が多い話です

 まさか練習場の中に女が、しかもこんなに早くに来るとは思わなくて驚いた。艶やかな銀髪が朝焼けに一層映えて、思わず目を見張る程の美しさ。そこで、昨日の隣国から来た人質令嬢だと気付いた。

 相手もこちらの顔を凝視している。ここまであからさまに見てくるとは、令嬢としてどうなのかと思うが、愛想笑い一つする気の無い俺も大概だと思って咎めたりはしなかった。

 何故ここにいるのかと聞くと、少し焦ったような表情になった。自分が常識からズレている自覚はあるようだ。まず、令嬢はこんな早い時間に起きない。


 彼女は剣を振っているだけの素振りを見ていて楽しいのだろうか。大切な基盤だが、相手がいるわけでもないから派手な動きもない。

 視線が痛いほどに刺さってくる。慣れているはずのことにも、いつもと種類の違う視線に少し狼狽える自分がいる。

 ひょっとして、剣に興味があるのか?それなら練習場の中に入ってきたのも頷ける。剣を持つことの無いだろう令嬢が一番近くで剣を見られる場所だろう。もう十分に令嬢にしてはおかしな行動をしていたし、そのくらいはありそうだ。


 ☆


 夢を見た。

 駅のホームに立ったあのデートの日の夢。私があの世界に居た最期の一幕。

 この前と全く同じで、また私を見下ろしていた人の顔は見えなくて、私は眠りについた。

 そこでいつも私は起きる。




「うう………」


 慣れない場所だと、早く起きてしまう。修学旅行でも部活の合宿でもそうだった。一人だけでぼんやりする時間はとても遅く進む。

 せっかくだし、練習場の方に行ってみようか。剣を見るのは楽しいかも。

 一通り支度して、夏とはいえ朝は冷えるはずだからショールを羽織った。……こういう一人でどうにかしちゃうところから普通の令嬢らしくないんだろうな。


 人気のない静かな階段を音を立てないように駆け下りて大きな扉から外に出る。見張りに変な目で見られたけど気にしない気にしない。


 練習場にはもう人がいるみたいだ。建物を除いてもいなかったから昨日見た運動場的な場所にいるのかも。朝早くから熱心なこと。私も前はそうだったのに。思い出してしまうと少し溜息が出る。はあ………どんな人が練習してるんだろ。ん?昨日もあの後ろ姿を見たような。


 まだ登り始めたばかりの朝焼けの光を纏う綺麗な人だ。


 私が知ってる中で黒髪で綺麗でここにいそうな人は。


「……王太子殿下」


 彼がゆっくりと振り向いた。相変わらずの美貌ですねぇ。こっちがムカつくくらいに。どうやってその美しさを保ってるんですか。こっちは侍女に磨かれまくった結果だけど、殿下はそんなことないはずだ。フィリウス様にも同じこと言えるよねぇ……。


「ファレル嬢、何故こちらへ?」

「慣れない枕だからか早く目が覚めまして…」


 なんか怒られてる?まさか、ここは男性オンリーな場所なのか。男尊女卑の風潮がある時代っぽいしなあ。


「お邪魔でしたら部屋に戻りますけれど……」

「いや、いてもらって構わない」


 本心かどうかが全く読めない。今日も無表情。裏でなんか思われたりしてたら一番面倒だ。

 少しでいいから笑うなり泣くなりして?いや、泣かれてもどうしようもないけどさ、愛想笑いすらないじゃんか。


 まあ、いいか。私は剣を見にきたのであって、殿下に用があるわけではないので。じっくり見させてもらおうではないか。隅に立っておけば邪魔じゃないだろうし。

 隅に移動した私の頰を朝の冷たい風が撫ぜ、その冷たさに目を細めた。本当に殿下の剣さばきは美しい限りだなあ。ごちになります。


 でも、楽しい時間が過ぎるのが早いのは万国共通のようで。いつの間にか朝食の時間ほどまでに日が昇っていた。

 そろそろ戻っておいた方がいいよね。


「殿下、」

「午後も、ここに来るか?」


 ……初めて話しましたね。相変わらずの能面ですけど。


「よろこんで」


 ☆


 その頃ブランシュでは__________


「ごきげんよう、王太子殿下」


 王子おにいさまに向けられた______一緒にいる王女わたしの存在を無視した______挨拶をする姿は性格はともかく、まさしく貴族令嬢というべき美しい所作。まあ、私には劣るけれどね。


 違和感が強いのはあの見た目詐欺の奇天烈な令嬢のせいだ。絶対そうよ。

 普通の挨拶を見て何も感じないどころか、面白くないなどと考える何で、どこまであの子____ファレルに汚染されていたのかしら。心なしか兄も微妙な顔をしているし、私たちの中に入り込みすぎだわ。

 こんなにも心の中に自分を残していくなら、記憶を消したって意味がないじゃない。

 記憶をお互いに失くしてもなお、貴方はお兄様にとって大切な存在になってしまった。たった一週間足らずで。


「お席、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「……あぁ」

 

 こちらを見てくるから、頷き返す。この令嬢がいようといまいと特に何も変わらない。

 ファレルとの人質交換でチュールからやってきた令嬢。茶色の髪に青緑の目の………何だったかしら………。まあいいわ。別に整ってないわけではないけれど、どこにでもいるような顔の令嬢だった。笑顔が取り柄みたいね。お兄様を手に入れたいみたいだけど、無理だと思うわ。ファレルの方が絵になるし、何よりお兄様はどうせまたファレルを好きになるもの。


 ファレル、元気かしら。


 ………元気でしょうね。まあ、従者達も連れて行かずに一人だもの。少しは大人しいでしょうけど。……常日頃から思っていたけれど、あの二人はお目付役でもあるはずなのにあまり主人を止めてないわ。だから私が止める羽目になるのよ。



 ……………今度は誰が振り回されてるのかしらね。



今回もありがとうございました(^-^)

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