頭から離れない
「あ~ついちゃいましたね」と残念そうに言う施設長。「停電のままそこら中をさまよいながら部屋まで帰る、みたいなのも面白かったのに」
キョロキョロ、ザワザワ、確認し合う私たち。
私の隣にはユリちゃんがいたはずだったのに、今私より少し後ろの方にいる。明るい中と暗闇の中とでは間隔も空気も全く違った。
誰を触っていたのか、もう一度手を伸ばして確認して笑い合ってる子も結構いる。みんな真っ暗闇から灯りの下に戻って来れてほっとした顔をしている。
でも。
でもウエダが私を見ない。今まで手を繋いでいたのに。
なんでチラとも見ない?
え、もしかしてあれ、ウエダじゃなかったの?ウエダだよね?何なに…どういう事…
そのまましばらくまた施設長が、明日や明後日の予定も含め説明を続けて、その後はクラスごとに集まってのミーティング。
「みんな可愛いな」と水本がにこにことクラス全員を見渡しながら言った。
「風呂上がりの感じが新鮮だな~~女子も男子も。普段と違う顔が見れるっていいよな。先生も高校生時代を思い出しました~~。好きだった子が風呂上がりとかだったりしたらさ、めちゃくちゃテンションあがってるんだけど、じろじろ見過ぎて警戒されたらいけないからそれとなく見たりね、それでもやっぱすげえドキドキしてね…停電、あそこまで真っ暗だと思わなかったろ?どうだった?誰かとちゃんと触り合って確認できた?え~と後で部屋廻るからね、先生と記念写真撮ろうね~~」
水本の軽いノリの話の間にも私はさっきのウエダの手の感触をずっと思い出して、ずっと気にしてる。
でも。
ウエダが私を見ない。手を繋いでたのに。
…繋いでたよね?私の手を取って握っててくれたのはウエダだったよね?
真っ暗な中で私の手を…
「じゃあバスの中で」と水本が言う。「みんなの写真見せたろ?あれで問題作ってたんだけどあんまり細かいんでやっぱ止めた。みんな欲しい写真あったら本人の承諾をもらった上でその本人と一緒にオレんとこ来たらあげるからね」
ざわざわざわざわ…
イヤだどうしよう…写真なんかどうでもいいよ。ちょっと手を握られたくらいで嬉しいと思って、それでもうこっちを見もしないから、本当にずっとウエダの事ばっかり考えてる。
…気持ち悪い私…
手はちゃんと繋いでてくれたけど、みんなに茶化されたくなくて、ばれないように今は知らんぷりしてくれてるのかな…それとも全部ただの思わせぶりな感じでやったって事?
イヤだな…こういうのイヤだな…イヤだよチハルちゃん。
思わせぶりとか言って、手を繋がれたくらいでドギマギし過ぎな私がおかしいんだよね。
「あれ?」と水本が言う。「ジュン?」
言われてハッとする。「…はい」
「どうしたの?なんかちょっと深刻な顔してない?暗所恐怖症とか?大丈夫か?」
「どうもしてません。大丈夫です」
「そう?」
水本もしかしてウエダが手を繋いできたの、見たのかな…イヤだな。誰にも見られていたくない。
それでも、その後の水本の説明も、私はしつこくウエダの事を考えながら聞いてしまっていた。頭から追い出したいのに!
しかも斜め前にいるウエダの方をついチラチラと見てしまう。
こういうの絶対イヤだ!
こういう事にならないためにずっと好きな人設定してたのに。あのときやっぱウエダの手を払えば良かった。
解散になってそれぞれの部屋に戻る前に、ちょんちょん、とタケノシタ君に肩をつつかれて歩きながら話す。
「カミバヤシ、もう見てくれた?オレが渡したメモ」
「…うん」
ちょっと『キラキラしてる』っぽい目で私を見るタケノシタ君は言った。
「そうだ、さっき停電の時、ちょっと当たったね」
「あ~うん、…ごめん」
「何、ごめんて」
…いやあ、と思う。
メモの事にしても私、そんな大したこと言えないからね。普段からコミュニケーション能力に欠けてるのに、今なんか特にウエダに手を繋がれたことでいっぱいいっぱいな感じになってんだから。
なんでそんな大事な判断を私に仰ぐ?
…いや確かにメモ渡された時ドキドキして嬉しかったけども。
メモの中身に多少落胆しながらも、タケノシタ君ちょっと可愛い感じもする、とも思ったけども。
わざわざタケノシタ君が私を選んでメモを渡してきた意味とか…もしかしたら…私の事をちょっと気になってるんじゃないかとか…
ウエダに手を掴まれるまではいろいろ考えたのに。




