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雨は降る


 タケノシタ君になんて言ってあげよう…なんて…んん…

 …私の言った事でタケノシタ君の彼女に対する気持ちが変わったりしたら嫌だな。今、実際はどんな気持ちでいるのかわからないけど。

 『また仲良くしたい気持ちが残ってるのが半分。自分勝手なメールにムカついてるのも半分』って書いてるところを見ると、彼女に心が残ってるっていう事だよね?

 それだったら私が何て言ったところでタケノシタ君の気持ちはさほど変わらないのかもしれないけど…

 タケノシタ君と彼女がまた付き合ったり、もう別れたままだったり、私の言葉によって人の関係が変わってしまうのを助長している感じに思えるのが怖いような、気持ち悪いような気がする。

 それにその彼女にちょっと嫉妬を覚えるし。



 ちんたら考えながら歩いていると雨脚が強くなってきた。「きゃ~」とか「もう!」とか「ったく、こんな日に山歩きさせやがって」とか「びちょびちょ~~」とか、生徒たちの怒号が飛び交う中、「あ~~~」と大きなため息が近くの木の蔭から聞こえ、思い切り後ずさって後ろのウエダにぶつかった。

「ごめん!」

体制を崩しかけた私をウエダが支えてくれる。ウエダの合羽と私の合羽が重なってガサゴソと音がした。

 木の蔭から、ふっ、と出て来たのは施設長だった。



 また施設長!ていうかどういう移動の仕方してるんだろうこの人。

「もうこれは中止ですねぇ」と施設長がいちばん近くにいた教師、水本に言う。「思いのほか雨脚が強くなるのが早かったっていうか、だらだら、ちんたら歩き過ぎだよねぇ。もっと危機感もたないとね、イノシシ出るかもしれないし、クマも出るかもしれないし、毒ヘビ出るかもしれないしって常に警戒しながらサクサク行動しなきゃ…」

ザワザワザワザワ…周りの子たちが騒ぐ。クマ?毒ヘビ?とか言いながら。

「あ~…じゃあ先頭止めてきます。引き返しましょう」

そう言って水本の列の先頭の方へ走って行く。後ろから来ているクラスの方へは別な先生が走った。

「水本、ケイタイで連絡とりゃあいいのに」と誰かが言う。

「とれないんだよね」と施設長。「山全体が圏外だから。こらこら、先生を呼び捨てにしない。はい、じゃあ帰りはこっちの道に行きますけど、先頭と一番最後の方へ話が通じるまで3分だけ雨宿りしましょう。まだねカミナリとか鳴る感じの雨じゃないから」

 言われた通り木の蔭にしばらく雨宿りして待つ私たち。

 ユリちゃんと私がいる所へタケノシタ君が入ってきて、私はすかさず合羽の上から腕を掴まれた。ウエダに「こっち」とすぐ隣の木の蔭に引っ張られる。

「へ?」と間抜けな反応の私をユリちゃんがウエダの方へ、つっ、と押した。



 ユリちゃんがカリヤさんに手まねきする。「カリヤさん!こっち!おいで」

「え…でも…」ウエダをチラチラ見るカリヤさん。

「いいから!」とユリちゃんがなおも呼ぶ。「ユウミちゃんてば!」

ユウミちゃんか…そう言えばカリヤさんの事ユウミって呼ぶって言ってたね。1回も呼んでないな…カリヤさんはジュンちゃんて呼んでくれてるのに。

 雨脚が強い分空も暗くなって森は濃さを増す。こんな所に今一人でいたらもう本当に怖いんだろうな…

 みんながいて良かった、と思ったが、隣にいるウエダの体温を薄い合羽越しに感じて、急に恥ずかしくなる。私を引っ張って隣に来させたくせに、ウエダは何もしゃべらないし、ものすごく気まずい。

 木々の合間をぬって空を見上げると灰色の空から落ちて来た雨粒が折り重なる枝の葉をパタパタと揺らしているのがわかる。

 ザアザアと雨はあっという間に本格的になってきた。

 

 

 施設長が誘導してくれる方へ並んで出発する。

 来た道じゃないけど大丈夫なんだろうか。しかも道がやたら狭い。というかもう、道すらないような木の間を抜けて私たちは急ぐ。

「誰も迷子にならないようにね~~~~!」雨の中を施設長が叫ぶ。

 雨と歩きにくい道に翻弄され息を切らしながら進むと、まだそう時間もたっていないのに急に前の方から歓声が沸いた。

 施設に着いたのだ。あの引き返した地点から10分もたっていないのに。

 バタバタと施設の玄関まで走り、合羽を脱いでバタバタとはたいてしずくを落とし、入り口で配られたゴミ袋に合羽を入れていると、各自自分たちの部屋に戻って支持を待つように言われた。



 部屋に戻った私たちはタオルで体を拭き濡れた合羽を、各々3,4枚持参したスーパーの袋に入れる。

 が、私はすぐにカリヤさんに捕まった。「ジュンちゃん…ウエダ君、やっぱりジュンちゃんが好きなのかな…」

頼りなげな声で上目遣いに聞いてくるので、なんだか私が悪い事をしているような気になってしまう。

「歩く時も」とカリヤさんが続ける。「いっつもジュンちゃんの事だけ気にかけてるっぽいもん」

 そこへアキラ達が部屋に入ってきた。

「そうだよね」と言ったのはユリちゃん。

ユリちゃんがわざとらしく声が大きい。

ユリちゃんは声のトーンを落とさないまま言った。「ウエダ君はジュンちゃんが好きなんだよ。カリヤさんだってそれ、わかってたじゃん」

「ユリちゃん!」慌てて止める私だ。「そんな事言わないでよ」

なんとなくアキラにそんな話をしているのを聞かれたくない。アキラはウエダの事を良く思っていないから。

「なんで?」と屈託のないユリちゃん。「もうたいていの子はみぃ~んな気付いてるのに」

 ウソでしょ?



「嫌だなぁ…」そうはっきりカリヤさんが言うので、うわ~~と思う。

カリヤさんは更に言った。「私の方がジュンちゃんよりずっとウエダ君好きなのに」

 そうだとは思うけど、そんな事口に出して恥ずかしくないのかな。ていうか私はウエダを好きなわけじゃないからね。

 それにそこまで恋愛に一生懸命にならなくていいのに。私も毎日好きな人設定とか恥ずかしい事してたけど。それに今タケノシタ君の事が本当に気になってきてるけれど。でもそういう自分の『好き』をわざわざ他人に広めなくていいのに。



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