マカロン
「やっぱタケノシタ呼んで良かったよ」水本がやれやれという感じで言った。「ウエダが来てもやっぱタケノシタが残ってくれて良かった。お前いなかったら髪切ってもらえずに終わってたわ」
水本が私と同じ感想をもらした。
「あ~…」ちょっと恥ずかしそうなタケノシタ君。「オレいらないかなって思ったんですけどカミバヤシに残ってって言われたんですよ」
あ、今瞬間でちょっと胸がキュンとしてしまった…
「ジュンが?」と水本が聞く。「ジュンがタケノシタに帰らないでって言ったの?」
いや、そんな言い方はしてないよ。…したのかな。
「なぁなぁ」と水本はウエダにわざわざ言う。顔が笑っている。「ジュンがタケノシタに帰らないでって言ったんだってさ」
ウエダも聞こえてたって。しかも実際タケノシタ君に言った時にウエダもいたし。
「先生」私は面倒だなと思いながらも自分とタケノシタ君のために説明する。「何の手伝いするかわからなかったから、タケノシタ君がいてくれた方がいいなと思ったからです」
「だよね~~」という水本の返事に気が抜ける。
「あ~まぁ…もう帰っていいですよね」とタケノシタ君。「あらかた片付けたし」
よくよく考えるとやっぱり申し訳なかったな。私が帰らないでって言わなかったら、タケノシタ君は顔だけ出して帰れたのに。
「お~ほんと悪かったな。ハイこれ」
そう言って水本はピンクときみどりのマカロンが1個ずつ入った小さな袋をタケノシタ君と私にくれた。たぶんアキラが受け取らないかもと思ったのかもしれないけど、私に2袋渡し、「一つはイマイのな」と言う。ウエダには無しだ。
タケノシタ君が「ウエダのは?」と聞く。
「こいつはいいの」と水本が言った。「これ、オレが焼いたんだけど、こいつ前も嫌がって食わなかったら」
「「先生が焼いたの!?」」私とタケノシタ君が聞き返す。
「かわいいだろ~~」水本が得意げに答えた。「オレ結構女子力高いから」
あ~~、なんか水本カッコいいよね。先生って立場を考えても普通にカッコいい男の人だ。
「どうしたんですか先生~~」タケノシタ君が冷やかすように言う。「彼女とかにもあげたりするんですか?」
「彼女な…」水本が遠い目をする。「なかなかな…なかなかうまくいかない事もあるよ。オレはストレス発散のためにスィーツ作るからね」
…カッコいい…水本本気でカッコいいかも!
「そういうお前はどうなの?タケノシタ」水本が聞く。「…タケノシタっていうのも微妙に呼びにくいよな?なぁジュン?」
「…」そうなの?どうなの?そこまで呼びにくくないと思うけど。
「よその学校に彼女いるんだろ?」水本が言う。「誰かが話してんのを聞いたけど。なぁ?そう言う風にすぐに会えない感じでもうまくいくってうらやましいよな!なぁウエダ?」
「「…」」
言われたウエダも、タケノシタ君も無言だ。
だって別れちゃったんだもんねタケノシタ君とこ。しかも別れたばっかり。
少し間があってタケノシタ君が言った。「オレんとこもなかなかですよ。なかなかうまくいかない事もあります」
「ふうん」と水本。「まぁまだ高校生だからなキミら。それじゃあ、ありがと!みんなで仲良く帰れよ。ジュンほんとありがと、助かった」
私たちは3人で教室に戻る。教室に鞄を置いているからだ。
なぜ4人じゃなくて3人かと言うと、ウエダが残って水本に話があると言ったからだった。
「ジュンを送ってあげたらいいじゃん」という水本をウエダが睨んだ。
私とアキラが並んで歩き、タケノシタ君が後に続く。
「もうダメだからね」とアキラが言う。「また水本が頼んできても、もう切ってやっちゃダメだから」
「なんで?」と私。「あんまり頻繁になるとめんどくさいけど、たまになら別に私はいいけど」
「ダメ」とアキラは繰り返す「今日だってウエダが来たんだから帰ったら良かったんだよ私たち」
「あぁごめんアキラまで帰るの遅くなって。でも私髪切るの結構好きかも。美容師になりたいとかじゃないけど、いい加減に切って上げるのはたまにだったら面白いよ。髪の毛ザクザク切るのって結構面白い」
「ウエダって水本と何か関係あるの?」タケノシタ君が聞いた。「なんか話聞いてたら担任と生徒の間柄じゃないみたいなニュアンスで喋ってたじゃん。ていうかやっぱカミバヤシ、ウエダと付き合ってんの?それでそれを水本も知ってるっぽい感じだったじゃん」
「付き合ってないよ」と答える私。
水本とウエダの関係は、言わないって約束したから。




