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タケノシタはいるんだよ

 「私が一緒に行きます」そこでアキラが手を軽く上げて水本に言った。

「イマイ?」水本が言う。

「はい。私行けます」

「う~~ん」と水本が言う。「そっか、ありがとう。え~と、じゃあ他に手伝いたい人~~」

ニコニコしながらクラスを見まわす水本と、対照的にうっすらと左右を見たり少し下を向いたりするクラスメートたち。

 そりゃ何の手伝いかまだはっきり言われてないからうかつに手を挙げたりなんか出来ないよね。

「じゃあまぁ仕方ないから、」水本が言った。「今日はジュンとイマイとタケノシタな?」

「あ、やっぱオレは入るんだ」

おどけたような口調でタケノシタ君が言うと、クラスの何人かがクスクスと笑った。

「うん」と水本が笑う。「タケノシタはやっぱ入るんだよ」



 水本は結局何をするかははっきりと言わないまま、「すぐ終わるやつだから」とだけ言い置いて教室を出て行った。

 背中がつん、と押される。今日はちょっと強めだ。

 少し振り向くとウエダが言った。

「やっぱオレが行くから」

そしてウエダは立ち上がりタケノシタ君へ声を張り上げた。

「タケノシタ!今の水本のやつの、やっぱオレが行くから」

「え~…いいよウエダ。用事あるんでしょ?」

「あ~…」ウエダがちょっと返答に詰まる。「まぁ」

「じゃあいいって。今日はオレ行ってくるから。カミバヤシとイマイもいるし、なんかよくわかんないけどすぐ終わるんじゃないかな。今度なんかあったらウエダ頼むわ」

 模範回答だね。なんて良い子なんだろうタケノシタ君。

 ウエダが腰を下ろす気配。

 今さらだ。遅いんだよウエダ。先に言われた時に断るから私やタケノシタ君に仕事回されたんだから。



 その様子をうかがっていた隣の席のイケダユリちゃんが言った。「何の頼み事だろうね?水本先生。でもタケノシタ君と一緒だね!」

そう言って、くすっ、と笑う。もう!ユリちゃんたら。私の好きな人設定、秘密にしといてくれる約束なのに。

「あ~うん」と私はあいまいな返事だ。

なぜならあいまいな仕事を受けてしまったから。



 そして今度はグーで背中を押された感。ちょっと痛い。少し振り向いてウエダを睨む。

 が、ウエダは少しうつむいたまま言った。

「お前行くなって」

もともとはあんたが断るからじゃん。

「お前の代わりにオレがイマイ達と行ってくるから」

「…そんな事できないよ」

そもそも私一人言われた所にタケノシタ君まで言われて、それでアキラも行ってくれる事になったんだから。

「あいつ」とウエダが言う。「ぜってぇくだらない用事言ってくんだって」

「でも私だけ行かないわけにいかないよ。アキラやタケノシタ君に悪いもん」

ちっ、とウエダが舌打ちした。



 昼休みにアキラが毒づく。

「水本ってやたらジュンにかまおうとしてない?バカじゃんアイツ」

「そんな事ないよ。他の人もいろいろ頼まれるし。別に私に特別優しいわけとかじゃないし」

 それでもやっぱり水本が私に絡むのはウエダのせいもあるのだと思う。あれからウエダと二人で話したりする事はほとんどなかった。席が前うしろだからプリントを渡したり、集めてもらったりするくらいだ。いったん私も気にしかけたけど、あれから私の事をジュンなんて呼ぶ事もなかったし。水本はウエダが私の事をすごく好きなんだとずっと思い込んだまま、まだ私にかまおうとしてるんだろうか。困った担任だ。

 ウエダも今日行くなって言ってたけど…ウエダもそんな水本の事がめんどくさいんだろうな…



 「キモいわあいつ」アキラがさらに水本の事を毒づく。

「アキラは用事があったらいいんだよ、帰っても。でもありがとう。あの時行くって言ってくれて。嬉しかったよ。でもタケノシタ君いるから。何かめんどくさい事でもちゃんとやってくれそう」

「タケノシタと二人が良かった?」

「そんな事ないよ!何言ってんの」

「私の目をちゃんと見て言ってみ?」

「タケノシタ君、おとといも彼女と映画に来てたのアキラも見たじゃん。私は別に…だたいい子だなって思って、何回かその日限りの好きな人に設定してただけなんだから。でもほら、もうやってないからね!あれからほんとにそんな設定してないから!…やっぱちょっとバカみたいだから」

「ふうん。それでも、彼女と別れて私と付き合ったらいいのに、とかこれっぽっちも思わないの?」

「うん。そういう『好き』じゃないんだよ。逆に別れちゃったらなんか、私全然関係ないのにちょっと切ないかも。私の従姉妹のチハルちゃんの話教えたでしょ?タケノシタ君みたいないい感じの男子はいつまでも彼女とうまくいってて欲しい」

「私の事をその好きな人に設定してなかったのはどんな理由だったっけ?言ってみ?」

「…」私はアキラの顔をじっと覗き込む。「何言い出してんのまた。…友達を仮にもそんな設定で扱ったらなんか変な感じじゃん、て言ったよね。楽しくないからだよ」

「あれ?」アキラが嬉しそうな顔をして言う。「私の事が本当に好きだからって言わなかったっけ?」

「私そんな風に言ったっけ!?」

「言った言った」

そうだったっけ?そんな言い方してなかったと思うけど。

 

 アキラが私の目を覗き込んで言う。「タケノシタはいらなくない?二人で行こっか」

「…」なんとなく眉間にしわを寄せてしまう。「…そんなわけにはいかないよね?」

「そっかな」

アキラがなにか、意味ありげに笑う。

 何だろう…やっぱものすごく変な感じ!


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