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髪の伸びる水本

 月曜日。今週水曜日から2泊3日で合宿だ。心なしかクラスも浮足立っているような、ないような。

 高校に入学してまだ2カ月たたないうちの合宿だから、楽しみにしている人もいれば、できれば行きたくないんだけどって思ってる人もいると思う。

 私は楽しみっちゃあ楽しみだけど、班の活動の時がどうなるんだろうとちょっと心配。それはまぁ、カリヤさんのウエダに対する動向がなんだけど。



 「あ~…と、ウエダ?」と朝のショートホームルームも終わりがけに水本が何気ない感じで呼んだ。「今日の放課後ちょっと頼みたい事があるんだけど」

後ろの席のウエダからは何の返事もない。

 水本がもう一度呼ぶ。「あれ?ウエダ?悪いんだけど放課後体育科の控室に寄ってってくれないかな」

 体育科の控室?水本のいる国語科じゃなくて?体育科の控室は体育館の2階にある…

「あ~すみません」けだるげにウエダがやっと答えた。「無理です」

 …なんか水本…髪伸びるの速くないか?先週少し切ってたみたいだったけど…そう言えば自分でも髪伸びるの速いとは言ってたけどいくらなんでも…



 「え~~?」ウエダの返事に水本が、少し大げさに思える程落胆の声を上げた。「お前部活は?入んないの?バスケ部からの勧誘されてたろ?」

「…保留中」

「じゃあいいじゃん。今日の放課後…」

「無理です。すみません」

 すみません、とは言ってるけれど全然すみませんという感じの口調じゃない。

「あ~じゃあまぁしょうがないから…どうしようかなぁ…じゃあ前の席のジュン」

へ?

「ウエダが無理らしいんで、悪いんだけど放課後ちょっと手を貸して欲しい事あるんだよね」

ちっ、とウエダが舌打ちしたのが聞こえた。



 何の手伝いだろう。ウエダがダメだからってその後私に言うのは、また水本がウエダの事で私に絡もうとしているからだろうか。それとも言葉通り前の席に順番に?

 そうはいっても水本は、クラスの他の子たちにも雑用を頼むし、最初私の事を『ジュン』と名前呼びするって言い始めた時にはどうしようかと思ったけれど、その時にも宣言したように、私だけではなく他に苗字の呼びにくいナカノソノユイちゃんやタカラバルケン君を下の名前で呼んでいる。



 「ジュンもダメなの?じゃあその前の席のスギモト?」

やっぱ順番か…

「え、オレ~~?」私の前の席のスギモトがガタっと立ち上がって言った。「オレ、7月にある新人戦の選抜メンバー決めも近いし部活でたいんすよ~~~」

「んん~~そっか~そっちも頑張んなきゃなぁ…じゃあ、やっぱジュン。悪いんだけどよろしく」

私に戻った!

 「大丈夫、そんなに長くかからないから」と水本が言う。「…あ、別にオレと二人きりってわけじゃないからね。女子の体育担当の田代先生とかもいるはずだから」

 いったい何の手伝いなんだ?それでどうしてそんなに髪伸びるの速いんだ?どうしてみんな気にならない!

「あ~じゃあジュンだけだとアレだから、そうだな~…タケノシタ」

「え、あ、はい」急に振られたタケノシタ君が驚いた声をだす。悪いんだけどジュンと一緒に放課後来てよ」

「何の手伝いなんですか?」

「お~タケノシタ~」水本が感嘆したように言った。「やっぱタケノシタはすぐ『え、おれ~~』とか言わないとこがすごいよね。あ、でもスギモトを責めてるんじゃないよ。スギモトだってこの前、教室のそこのドアの建てつけが悪かったのを一人でなおしてるのを見たって隣のクラスの桜井先生が教えてくれたよ。ありがとう」

「あ、いえ、どうも…」前の席のスギモトの背中が少し丸まって、恥ずかしそうに答えた。

 ダメだ…余計断りづらくなった!



 「わかった」と言ったのは後ろの席のウエダだ。「オレが行くから」

「え、いいよいいよウエダ。無理だって言ってたじゃん」

めんどくせぇ…、と毒づく小さい声が後ろから聞こえた。

 「オレが行くって」もう一度ウエダが言う。

じゃあウエダでいいじゃん!と思うのに水本がさらににこやかに言った。「いいっていいって気にすんな。お前にはまた今度頼むわ。ありがとう」

そして「どうかなタケノシタ」水本がもう一度タケノシタ君に聞く。「今日の放課後無理?やっぱタケノシタも気がすすまない?」

いや、私も気はすすまないですけど。それでやっぱ水本、髪伸びるのほんとに速いって。

「いや、手伝いはしますけど」さっきと全く変わらないタケシタ君は言う。「前もってちゃんと何をやるのか把握しときたいだけですよ。なぁカミバヤシ?」

 振り返ってタケノシタ君が急に私に同意を求めてくれたので、水本の髪の長さが気になって二人の話をぼんやり聞いていた私は慌てた。

「あ、はい」としか言えない私。


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