もう止めた
はい、決まり。もう好きな人設定の事は考えない。
そしてウエダの事も考えない。ウエダにはカリヤさんがいるし。
…昨日あの二人どうやって帰ったのかな…ウエダが私に優しく挨拶してくれたのは、昨日カリヤさんと帰って結構楽しかったからだったりして…
あ、ダメだ、またウエダの事考えた。
もう本当に何も考えない!!
と、思ってきちんと顔を上げ前を向いたら、過去のセンター試験の問題に出た小林秀雄の著作について説明していた水本と目が合って、水本がニッコリとほほ笑んだ。
マズい。心が半分ここになかったのがバレたかも。
いえ!水本先生、他の事も考えてましたけどまぁまぁ聞いていました。今からもっとちゃんと聞きますから!と思いながら水本を見つめ返す。
ふん?という顔を水本がするが、頑張って私は普通の顔でちゃんと前を向いてますという態度を取ると、水本がもう一度にっこりと笑った。それを見ていた何人かが私の方を振り返り、私はそれをも無視して前をじっと見るんだけど、後ろの机、つまりウエダの机がガン、と私の椅子にぶつかり「うわっ」と思うが、それでも何でもない風に知らん顔で前を見続けた。
水本が少し笑いながら言った。「お?どうした、ウエダ」
「何でもありません」とウエダが答える。「ペンが落ちたんで」
「なんかよくない感じだねぇ?」とアキラが言った。
昼食中だ。アキラはおにぎりをほおばりながらそう言った。私は家から持って来たパンを食べている。食堂でもパンは売っているが、数が限られているし、1年生は上級生に気後れしてなかなか買う事はできないので、家から持って来たのだ。
「ジュンさぁ、…ウエダの事意識してるよね?」
「え」
「『え』じゃない。さっきもウエダが弁当持って移動する時、ちょっと目で追ってたのを私は見逃さなかったからね」
あ~~ちょっと目で追ってたかも。でも…
「追ってないよ」と私は断言した。「追ってない」
「なんか水本も変だしね」とアキラ。
そう言った後、「あ、ねえ」と言ってアキラは私の顎に手を伸ばしてきた。
「クリームついてるよ」
そう言って取ってくれる。
「ごめん、ありがと…あっ」
私が「あっ」と言ったのは、アキラがクリームを取ってくれた指をそのまま舐めたからだった。
「ハハ」と私は恥ずかしさを隠すために笑った。「なんかアキラ、彼氏みたい」
「なれるんならなってもいいけど」
「へ?」
変な間が空いた。
食後の散歩に教室を出ると、階段を降りながらアキラが言う。
「ウエダの事気になるくらいなら、私の事好きになったらいいのに」
「え!?」ふいをつかれて言われ、驚いた私の声が階段に響き、前を降りていた子たちが私の方を振り向いた。
「…私」自信のない小さい声で答える。「アキラの事普通に好きだけど」
「私が普通で、って意味で言ってないのわかるんでしょ?」
いつもアキラと腰かけてのんびりする、体育館への渡り廊下の端の石段へ向かいながら思う。
めんどくせぇ!!
どうしてこんな事になってんだ?
ウエダも変だしアキラも変だ。
でももとはと言えば私が悪い。実際ウエダの事を凄く気にしてるんだから。だから石段へ腰をおろして私はちゃんとアキラに話す。
「私ね、ウエダ君の事が気になるっちゃあ気になるけど、それは今日だけだから。ていうか4時間目までだったから。昨日の事があっての今日の気になりだから。もう全然気になんないから」
「それは嘘だね。言ったじゃん、ジュンは弁当持って移動するウエダを目で追ってたって」
「追ったっていいじゃん!」
そう言うとアキラが一瞬ビックリした顔をした後笑った。「じゃあ気になってるって事でしょ」
「あれは目で追ったけど、私は別にウエダ君の事好きなわけじゃないから。そんな好きとか付き合うとか、そういうの私はいらないの。だからアキラも変な風になんないで」
「変な風?」
「ちゃんと今まで通りにしてよ。ウエダ君にだけそんな偏見持たなくてもいいじゃん。中学では私の知らない事もいろいろあったかもしれないけど」
「なんかねぇ」アキラがちょっと上を向いて、目をつむって言う。「嫌なんだよねぇ。ジュンがウエダの事、いやたぶんウエダじゃなくても誰かの事すごく気にしてんのを見るの、嫌なんだと思う」
「気にはしてるけど、すごくじゃないよ」
「どっちにしろ嫌なんだよね。私…ジュンが最近イケダさんと仲良いのも結構嫉妬してるんだよね。困ったもんなんだよ私」
「…」
「ジュンの事すごく好きなんだと思う」
「…ありがとう」
「鬱陶しく思わないの?」
鬱陶しいっていうか面倒くさいとは思っちゃったけど。




