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バグだらけのVRクソゲーでRTA走ってたら、なぜか現実の異世界だった件 ~「壁抜けカニ歩き」で魔王城をショートカットしたら、神の如き空間跳躍の使い手だと勘違いされています~  作者: 伊桜 瑠夏詩
第2章:魔王領シーケンスブレイクと、システム外の温もり

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第53話:インスタンスの混線と、純白の悪夢からの強制起床

過去の凄惨なトラウマを完全に打ち砕かれた暗殺者の心を満たしたのは、世界を焼き尽くすほどの、重く、甘く、そして狂おしい愛欲だった。

夢魔の胞子が作り出した深層心理の空間は、血と錆に塗れた地下牢獄から、甘い花の香りが充満する超高級スイートルームへと完全に書き換わっている。

暖炉の火が優しく揺らめく中、ふかふかの純白の絨毯の上に押し倒された俺の視界は、極限まで透き通ったシルクのネグリジェを纏ったシルフィアによって完全に塞がれていた。

「クロ様……。ああ、クロ様……っ」

俺の胸の上に馬乗りになったシルフィアが、熱を帯びた吐息を漏らしながら、その身をすり寄せてくる。

暗殺者として鍛え抜かれた無駄のないしなやかな身体のラインと、その奥にある柔らかな女性としての膨らみが、薄い布一枚を隔てて俺のHP1の虚弱な肉体にダイレクトに伝わってくる。

フルダイブ型VRの触覚フィードバックは、いとも容易く俺の脳の処理能力をオーバーフローさせていた。彼女の肌の滑らかさ、石鹸と花の混ざったような甘い匂い、そして、俺を閉じ込めるように絡みついてくる銀色の髪の感触。

「ま、待てシルフィア。お前、完全に夢のシステムに感情を増幅されて、リミッターが外れている。一度落ち着いて……っ」

「落ち着くことなど、できません」

俺の必死の論理的説得を、シルフィアは艶やかに潤んだ唇を微かに開いて遮った。

「私が今まで、どれほど貴方様に触れたかったか……。血に汚れた手ではいけないと、どれほど自分を律してきたか。……でも、クロ様はそんな私を、すべて受け入れてくださった。ならばもう、私を止める鎖はどこにもありません」

彼女の金色の瞳が、獲物を狙う肉食獣のように、いや、愛する者にすべてを捧げようとする狂信者のように怪しく光る。

シルフィアは俺の両手首を自身の細い手で押さえつけ、そのままゆっくりと顔を近づけてきた。

「私のすべてを、貴方様に差し出します。どうか、私を……クロ様の奥深くまで、刻み込んでください……っ」

ちゅっ、と。

彼女の熱い唇が、まずは俺の頬に、次に首筋に、そして耳たぶへと、焦らすように、しかし確かな独占欲を持って這っていく。

(……ダメだ、死ぬ。ステータス上のダメージはゼロなのに、理性の残機が光の速さで溶けていく! このままでは、本当にシステムが用意したR18の暗転イベントに突入してしまう!)

俺は冷徹なゲーマーとしての思考を総動員し、なんとか彼女を引き剥がすためのコマンドを探そうとした。だが、トラウマから解放され、純粋な愛と欲望だけを原動力にして動く今のシルフィアの膂力は、物理演算エンジンすらも凌駕するほどの凄まじい拘束力を生み出していた。

「クロ、様……好きです。大好きです……っ。今から、いっぱいいいこと、しましょうね……」

シルフィアの甘く蕩けるような声と共に、彼女の指先が俺の衣服のボタンへと掛けられる。

俺はついに観念し、目を固く瞑った。

だが。

俺の唇が、彼女の柔らかなそれに完全に塞がれようとした、まさにその刹那だった。

ジジジジジジッ!!

空間全体に、耳障りな電子ノイズが響き渡った。

俺とシルフィアの周囲を取り囲んでいたスイートルームの高級な壁紙が、真っ赤なエラーコードの文字列に覆われ、激しく明滅し始める。

(……なんだ!? 夢のインスタンス領域のメモリが、限界を超えたのか?)

俺が驚いて目を開けると、俺の上に馬乗りになっていたはずのシルフィアの姿が、ノイズと共に一瞬だけ激しくブレた。

「え……?」

シルフィアもまた、自身の身体を覆う奇妙なノイズに気づき、動きを止める。

次の瞬間、システムの許容量を超えた深層心理のデータが衝突し、あり得ない『混線バグ』を引き起こした。

夢魔の胞子が作り出す夢は、本来プレイヤーごとに独立した隔離空間インスタンスであるはずだ。だが、俺たちの異常なまでの共鳴値と、それぞれのヒロインが抱く『クロへの強烈な矢印』が、夢の世界の壁を内側から破壊し、複数の夢の領域を強制的に統合マージしてしまったのだ。

「あーっ! 見つけた見つけたーっ! クロ様ぁっ!」

「……は?」

鼓膜を揺らす、高く愛くるしい、そして俺がよく知るその声。

ノイズが晴れた直後、俺の胸の上に馬乗りになっていたのは、銀色の髪の暗殺者ではなかった。

豊かなピンクブロンドの髪を揺らし、これ以上ないほどに挑発的な、黒いレースのランジェリー姿へとバグ変化を遂げた新ヒロイン、リナリーが、俺の顔を上から覗き込んでいたのだ。

「えへへー、探したんだよクロ様! 私の夢の中に全然出てきてくれないから、こっちから壁ぶち抜いて迎えに来ちゃった! あっ、クロ様のベッドだ! わーい、一緒におやすみしよーっ!」

リナリーは俺の戸惑いなど一切無視して、その圧倒的で暴力的な双丘を俺の顔面にこれでもかと押し付け、俺の首に腕を回してベタベタと全身をすり寄せてきた。

「お、おいリナリー!? なんでお前がここに……っ、というかその格好はなんだ!」

「えー? だって夢だもん、クロ様が一番ドキドキする格好の方がいいでしょ? さっきまで誰かとイチャイチャしてたみたいだけど、ここからは私の時間だからねっ! ほらクロ様、いっぱいちゅーしよっ!」

リナリーが艶やかな唇を尖らせて迫ってくる。

俺は再び極上の柔らかさと甘い香りに包まれ、先ほどのシルフィアとはまた違う、破壊的な色香に完全に思考を停止させられそうになっていた。

だが、この状況を、絶対に許さない女が一人いた。

「…………は?」

俺とリナリーが絡み合う巨大なベッドの傍ら。

インスタンスの混線によって、自身が主役であったはずの『甘い夢の中心』から強制的に弾き出され、冷たい絨毯の上に放り出されていたシルフィアである。

彼女は、純白のネグリジェ姿のまま、呆然とその光景を見つめていた。

自分が過去のトラウマを乗り越え、ついに愛するクロと結ばれようとしていた、その最高の瞬間。

それを、突然壁を突き破って乱入してきた憎き泥棒猫に、自身の夢の世界のど真ん中で、あろうことか目の前で寝取られ(NTR)ようとしているのだ。

「あ……あ……」

シルフィアの肩が、小刻みに震え始める。

彼女の金色の瞳から、先ほどの甘い愛欲の光は完全に消え失せ、代わりに、地獄の底から這い出してきた悪鬼羅刹もかくやというほどの、ドス黒い殺意と怒りの炎がゴウゴウと燃え上がっていた。

「えへへー、クロ様、シルフィアお姉ちゃんが見てる前で、いっぱいいけないことしよっか! その方が興奮するでしょ?」

リナリーがわざとらしくシルフィアの方に視線を流し、挑発するように俺の耳元で甘く囁く。

ブチィッ。

シルフィアの脳内で、何かが決定的にちぎれる音がした。

彼女の周囲の空間が、彼女から放たれる凄まじい怒りのオーラによって、ミシミシと悲鳴を上げて歪み始める。

「……私の、私の、私の……クロ様をぉぉっ……!!」

シルフィアは両手で自身の銀色の髪を掻き毟り、限界まで見開いた瞳で、リナリーと俺を睨みつけた。

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

ズガァァァァァァァァァンッ!!!!!

乙女の尊厳と純情を理不尽なバグによって蹂躙された暗殺者の、魂の底からの大絶叫。

その怒りのエネルギーは、夢魔の胞子が構築したシステムの許容量を遥かに超え、インスタンス領域そのものを内側から木っ端微塵に爆砕した。

ガラスが割れるような派手な破砕音と共に、スイートルームの景色が、そして覆い被さっていたリナリーの姿が、光の粒子となって吹き飛んでいく。

(……す、すげえ。自らの嫉妬と怒りだけで、強制睡眠のバッドステータスをシステムごと破壊しやがった……っ!)

俺の意識もまた、爆発する夢の世界の破片と共に、急浮上していく。

   ◆ ◆ ◆

「はっ……!?」

俺が現実の魔王城外郭、灰響の回廊の冷たい石畳の上で目を開けたのと同時だった。

「この泥棒猫ぉぉぉぉぉっ!! 殺す! 今日という今日は絶対に塵も残さず消し去ってやりますっ!!」

すぐ横で弾かれたように跳ね起きたシルフィアが、双剣を抜き放ち、まだ寝惚け眼で座り込んでいるリナリーの胸ぐらを掴んで激しく揺さぶっていた。

彼女の顔は怒りと羞恥で真っ赤に染まり、その目には涙すら浮かんでいる。

「ふぇ……? あれ、クロ様とのえっちな夢は……? っていうかシルフィアお姉ちゃん、なんでそんなに怒ってるのぉ!?」

「貴女がっ! 私の夢にっ! 乱入してきてクロ様をっ……! ああああああ思い出しただけでも腹が立ちます! 斬滅します! 斬滅ゥ!」

「わーっ! たすけてクロ様ーっ!」

灰の降る静寂のダンジョンに、二人の美少女の絶叫と逃走劇が響き渡る。

「ふはははは! 皆、無事に悪夢から生還いたしましたな! 素晴らしい精神力! やはり我らがパーティは最強にございます!」

いち早く目を覚まし、一人で夢の中で魔物の大群と戦っていたらしいレオンが、大盾を構えて豪快に笑い声を上げている。

俺は頭のフライパンをコンッと叩き、疲労困憊でその場に大の字に寝転がった。

「……ああ、本当に。最強で、最悪で、最高に騒がしいパーティだよ、全く」

RTAの記録はもうどうでもいい。

トラウマを乗り越え、さらに距離感とバグを加速させた極上のヒロインたちに囲まれながら、俺の狂った覇道は、いよいよ魔王城の心臓部へと向けて再スタートを切るのだった。

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