表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バグだらけのVRクソゲーでRTA走ってたら、なぜか現実の異世界だった件 ~「壁抜けカニ歩き」で魔王城をショートカットしたら、神の如き空間跳躍の使い手だと勘違いされています~  作者: 伊桜 瑠夏詩
第2章:魔王領シーケンスブレイクと、システム外の温もり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/53

第39話:擬似乱数の掌握と、遊技場の絶対信頼

強欲の魔王軍幹部ザルヴァが、システムエラーの自滅によってただの砂利の山と化してから数十分後。

俺たちは、主を失って静まり返った黄金の宮殿の最深部へと続く、豪奢な真紅の絨毯の上を歩いていた。

外の享楽都市はオーバーフローによる莫大な負債で完全にパニックに陥っているはずだが、分厚い防音魔法が施された宮殿の奥底には、ただ俺たち三人の足音だけが規則的に響き渡っている。

俺のすぐ斜め後ろを歩くシルフィアは、周囲の闇に溶け込むような静かな足取りで、抜かりなく索敵を行っていた。

だが、その視線は時折、前を歩く俺の背中へと吸い寄せられるように向けられている。

(主様の背中が、以前よりもずっと大きく、そして温かく感じる。どんな絶望的な状況でも、この方が前を歩いてくださるだけで、私は無敵になれるような気がするのだわ)

シルフィアは胸の奥で静かにそう呟き、俺の影を踏まないように、けれども絶対に離れない距離を保って歩き続けていた。

冷徹な暗殺者として生きてきた彼女にとって、誰かの背中をこれほどまでに愛おしく、頼もしく感じることは初めての経験だった。その密やかな敬愛の念が、彼女の金色の瞳に柔らかな光を宿らせている。

「ふははは! しかしまさか、魔王軍の幹部が自らの魔法で自滅するとは! これもすべて主様の深遠なる計略の賜物! このレオン、一生ついていく所存にございますぞ!」

背中に大量の回復アイテムや鉱石を括り付けたレオンが、大盾アイギスを鳴らして豪快に笑い声を上げる。

その威風堂々たる足取りと明るい声が、不気味なほど静まり返った宮殿の空気を絶妙に和らげてくれていた。

「ああ。だが油断はするな。次のエリアへ続く転送陣の前には、この享楽都市ならではの最後の関門があるはずだ」

俺がそう告げると同時に、真紅の絨毯の行き止まりに、ひと際巨大な両開きの扉が現れた。

扉には『幻星の遊技場』という文字が刻まれている。レオンが巨大な扉を力任せに押し開けると、そこはカジノのVIPルームを思わせる、煌びやかで広大な空間だった。

部屋の中央には、次の攻略エリアへと続く青白い光を放つ魔法陣が描かれている。

だが、その魔法陣の周囲は強固な透明の障壁で覆われており、魔法陣のすぐ手前には、天井まで届こうかという巨大なクリスタル製のスロットマシンが鎮座していた。

「主様、あれは……?」

シルフィアが双剣の柄に手をかけ、暗殺者としての鋭い視線を巨大な機械に向ける。

「あれは『運命の輪盤』と呼ばれる、この部屋のロック機構だ。あの中央にあるレバーを引き、三つの絵柄を完全に揃えなければ、転送陣の障壁は絶対に解除されない仕組みになっている」

享楽都市編の最後を飾る、極悪な非戦闘ギミック。

普通にプレイすれば、プレイヤーは莫大なゴールドを消費しながら、天文学的な低確率の大当たりを引くまで、何時間も、場合によっては何日もこのスロットマシンの前でレバーを引き続けなければならない。課金や時間泥棒を目的とした、開発者の悪意が詰まったシステムだ。

「な、なんと! では、我らもあのような機械を相手に、運任せの賭けを行わなければならぬというのですか!?」

レオンが険しい顔でスロットマシンを睨みつける。

「いや、運になんて頼らない。ゲームの世界に本当の偶然など存在しないからな」

俺は頭のフライパンをコンッと叩き、スロットマシンの前へと歩み寄った。

コンピュータープログラムの世界において、サイコロの目やスロットの絵柄を決定する乱数は、すべて計算式によって生み出される擬似的なものだ。

乱数には種と呼ばれる開始地点があり、キャラクターが歩く、剣を振る、ジャンプするといったあらゆる行動を行うたびに、システム内部のカウンターが一つずつ進み、乱数の結果を順番に変化させていく。

つまり、次にどの絵柄が揃うかは、乱数のカウンターが現在どの位置にあるかを把握し、意図的な行動によってカウンターを進め、大当たりが出る『確定フレーム』を引き当てれば、百発百中で操作できるということだ。

タイムアタックにおける必須テクニック、乱数調整である。

「レオン、シルフィア。少し手伝ってくれ」

俺が振り返って声をかけると、二人は一切の躊躇なく、真っ直ぐに俺の目を見て頷いた。

「ハッ! 何なりと、主様!」

「ご指示をお待ちしておりました」

「レオン。お前は今から、あの部屋の右隅の壁に向かって、全力で走り続けてくれ。壁にぶつかっても足を止めず、ただひたすらに走り続けるんだ」

「壁に向かって、走り続ける……? 承知いたしました! このレオンの脚力、とくとご覧あれ!」

レオンは一切の疑問を口にすることなく、部屋の隅に向かって猛然とダッシュを開始した。

壁にぶつかっても彼は止まらず、ズシン、ズシンと重厚な足踏みをしながら、壁に向かって永遠に走り続けるモーションを繰り返す。

客観的に見れば完全に狂気的な行動だ。だが、これによってシステムの壁との衝突判定が連続で発生し、内部の乱数カウンターが凄まじい速度で消費されていく。

「よし。シルフィア、お前は俺の目の前で、右へ三回ステップを踏み、その場で一度だけ高くジャンプしてくれ。着地と同時に、双剣を抜いて鞘に収めるんだ」

「み、右へ三回、ジャンプして、抜刀……。か、かしこまりました! 主様!」

シルフィアは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに真剣な表情になり、俺の目の前で指示された通りの動きを実行した。

流れるような美しいステップ、軽やかな跳躍、そして風を切り裂くような抜刀と納刀の連続動作。

彼女のその洗練された動きによって、乱数カウンターはさらに微細な単位で調整され、大当たりの確定フレームへと一直線に近づいていく。

(……本当に、こいつらは)

俺は、壁に向かって必死に走り続ける巨漢の騎士と、真剣な顔でステップを踏み続ける美しい銀髪の少女を交互に見つめながら、胸の奥から込み上げてくる熱いものを感じていた。

こんな意味不明な指示を出されて、疑い一つ持たずに全力で実行してくれる人間が、現実世界のどこにいるだろうか。

彼らは俺が神に等しい力を持っていると信じているから従っているのではない。俺という存在そのものを、魂の底から信じ抜き、その身を預けてくれているのだ。

(ああ……俺はもう、こいつらのいないRTAなんて、絶対にやりたくない)

孤独にタイムを削っていただけの俺の心は、彼らという最高の戦友たちに出会えたことで、完全に書き換えられていた。

「レオン、止まれ! シルフィア、そのまま動くな!」

俺の鋭い声が響いた瞬間、レオンの足がピタリと止まり、シルフィアも彫像のように動きを止めた。

乱数カウンターが、大当たりの直前で完璧に固定された。

俺はスロットマシンの前に立ち、HP1の赤いオーラを纏った手で、巨大なレバーを力強く引き下ろした。

ガシャァァァン!!

三つの巨大なクリスタルのリールが回転を始める。

だが、その結果はレバーを引く前から完全に確定していた。

一つ目のリールが、黄金の『7』で停止する。

二つ目のリールも、吸い込まれるように黄金の『7』で停止。

そして三つ目のリールが、寸分の狂いもなく黄金の『7』でピタリと止まった。

ピロロロロロロロロロンッ!!!!

凄まじいファンファーレが遊技場に鳴り響き、スロットマシンから眩いばかりの七色の光が溢れ出した。

それと同時に、転送陣を覆っていた強固な透明の障壁が、ガラスが割れるような音を立てて砕け散った。

「おおおおっ!! 揃った! たった一度の挑戦で、大当たりを引き当ててしまわれた!!」

レオンが両腕を天に突き上げて歓喜の咆哮を上げる。

「主様……やはり貴方様は、運命すらもその御手で紡ぎ出してしまうのですね……っ」

シルフィアが、尊敬と深い信頼の入り混じった眼差しで俺を見つめ、胸の前で両手を組んで祈るような仕草を見せた。

俺は頭のフライパンをコンッと叩き、照れ隠しのように小さく鼻を鳴らした。

「運命なんかじゃない。お前たちが俺の指示通りに、完璧に動いてくれたから出せた結果だ。お前たちの力がなければ、この扉は開かなかった」

俺のその言葉に、レオンは兜の奥で太い涙を流してむせび泣き、シルフィアは「主、様……っ!」と声を震わせて、限界突破した嬉しさから俺の腕にギュッと抱きついてきた。

俺の腕の中で幸せそうに微笑む彼女の柔らかい体温と、背後で豪快に泣き笑いするレオンの声。

俺は二人の戦友の温もりを確かに感じながら、青白い光を放つ転送陣へと足を踏み入れた。

これにて、魔王領の兵站を担う享楽都市の経済は完全に崩壊した。

俺たちのバグだらけの覇道は、さらに深い絆を刻みながら、次なる未知のエリアへと進んでいくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ