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だって私、色欲の魔女ですから  作者: ゆずきあすか
カトレア魔法学園 編
8/8

Episode8 まるで御伽話

 冬の寒さも和らぎ、冷え切っていた大地や森には、春の息吹が静かに近づいていた。

 カルミアが育てている植物にも、木々の枝先には淡い芽吹きが見え隠れしている。春風はまだ控えめながらも、確かに次の季節の訪れを告げていた。

 変わらぬ日常の中に、ほんのわずかな期待と不安が混じり合う、そんな季節だった。


「ねえ、トレニア。私、変……じゃないかな」


 カルミアはアネモが特注した、カトレア魔法学園の制服を着用し、姿見越しにトレニアへ質問を問いかけた。


「とってもお似合いですよ! ご主人様!」

「えへへ……そう、かな。ありがとう」


 トレニアの言葉に、思わず笑みがこぼれてしまう。

 今日から学園生活が始まる。と言っても、ただ学生として青春を過ごすんじゃなくて、潜入調査の仕事でもあるんだよね……ちゃんと、果たさないと。

 新しい制服、新しい環境――胸が少しだけ高鳴る。だがそれと同時に、緊張と不安も入り混じる。もしも自身が魔女であると正体を露見すれば、全てが終わってしまう。全員の信頼を裏切る事にもなる。それだけは絶対に避けないと――


「あらぁ~すっごく可愛いわぁ! いつもの十倍、いや百倍の可愛さよ!」

「うへっ!? あ、アネモさん! いつの間に……」

「アネモ、お話で時間を潰すほど、暇ではないですよ」

「ロベリアさんまで……ドアは、壊れていない」

「ああ、転移魔法を使った。少々気分は悪いがな」

「ロベリアさん、意外と酔いやすい体質だったんですねー。まあ、私は平気ですけどっ!」


 アネモは「ふんっ!」と自身気に胸を張る。

 転移魔法、遠くの距離でも一瞬にして移動が可能だが、その分、かなりの魔力を使う。稀に転移魔法を使用した際に、気分を悪くすると言った、魔力酔いを起こす者もいる。


「デルフィニウム様、プランダ様、お久しぶりです! ペディランサス以来ですね!」

「あの……今日は、どういった御用で……」

「そう固くなるな。私はお前に、ある物を私に来た」

「……?」


 ロベリアはカルミアに近づくと、目線が同じ高さになるように腰を落とし、カルミアの背後に手を掛けると、首辺りに違和感を覚えた。


「これは……魔石」

「オハイと私が作った魔石の首飾りだ。それには魔法を打ち消す結界魔法を記憶させてある。非常時は、それを発動させなさい。私からのプレゼントだ」

「ロベリアさん……ありがとう、ございます!」

「私は手作りクッキーを持ってきたわよ! 移動中に一緒に食べましょう」

「――はいっ!」


 カルミアはアネモと一緒に、外に手配されていた馬車に乗り込んだ。

 普段、乗る事がないから少し緊張する。


「学園の近くまでは同行しますが、そこから先は、ご自身で向かって頂きます」

「は、はいっ」


 馬車の御者を任されたのは、アネモさんも使い魔シルクさんだった。いつ見ても、その気品のある立ち振る舞いと、凛々しい姿に目を奪われる。


「じゃあ行ってくるね」

「はい! ……あれ、ロベリア様、私はお留守番ですか?」

「貴様が学園に行ったところで、大騒ぎになるだけですからね」

「でもでも! 私、命に代えてでも、ご主人様をお守りするって決めているんです!」

「何かあれば、召喚魔法で呼ばれるだろう。それまで、この埃くさい小屋の掃除でもしていなさい」

「そんなぁぁぁ~!」


 トレニアの叫びは森中に響き渡った。

 ――その頃、馬車で森の中を進むカルミア御一行。

 獣道を抜けると、車輪の音が微かに変わった。柔らかな土を踏んでいた振動は消え、均等に敷かれた石畳の感触が、馬車の床越しに伝わってくる。

 この道は、森の奥深くを貫くように伸び、街と村を結ぶために整備された街道だった。


「カルミア様、そろそろ森を抜けます。この先は、カトレア魔法学園のある、セリオス共和国に入ります」


 シルクの言葉に、カルミアは窓へと身を寄せた。

 初めて足を踏み入れる国……新境地。魔法が当たり前に使われる国だって、ロベリアさんから聞いているけど、実際はどんな場所なのだろう。

 不安よりも先に、胸の内に小さな期待が芽生えていることに、カルミア自身が気づく。

 馬車が石畳の橋へ差し掛かった瞬間、視界が一気に開けた。

 木々の隙間から漏れていた陽光は、遮るものを失い、湖面へと降り注ぐ。青く澄んだ水面は光を反射し、まるで細かな宝石を散りばめたかのように輝いていた。


「ここはいつ見ても、綺麗な湖よねぇ~」

「……」

「カルミアちゃん、湖の中央に塀で囲われた場所があるでしょ? そこから天を衝突き刺す様な、大きな鉄塔……あれがカトレア魔法学園を象徴する時計塔よ」

「この距離でも目視出来るって、相当大きいんですね……」

「ふふっ、驚くのはまだ早いわよ? そろそろ街に入るわ。カルミアちゃん、空を見てて」

「そら、ですか……――っ!?」


 その光景は、カルミアの脳裏に一生分の驚きが刻み込まれた。

 空を――飛んでる。


「うまくできないよ」

「こうやるんだよ!」


 飛び交う声と、杖に跨り、自由に飛び回る人々。目線を落とせば、重い荷物を複数同時に宙に浮かせ、掃除をする人、火属性魔法でかまどに火をつけ、料理をする人……様々な用途で使用され、どこもかしこも、魔法であふれていた。


「——ここが、セリオス共和国」


 魔法と人間が共存する国。目に映る光景は確かな一歩だった。


「すごいわよね、魔法と人間が共存する国……カルミアちゃん!」

「……へ?」

「どうして泣いてるの!? もしかして、馬車の揺れで頭でも打ったの!?」


 カルミアの瞳から雫が溢れていた。

 それは自分の意思とは別に、光景と記憶が共鳴し、自然と身体が反応したのだ。


「大丈夫です、なんでもないですっ!」


 カルミアは、そっと袖で目元を拭った。胸の奥が、じんわりと熱を帯びている。

 人々の笑い声と、魔法の音が、春風に乗って届くのを感じた。

 この国では魔法が脅威にはならない。それはまるで、()()()()が、形を変えて続いているようだった。


◇◇◇

 ――良く聞きなさい、カルミア。

「なに、お父さん?」

「魔法は使い方次第で、人を殺す魔法になる。しかし反対に、人々の暮らしを豊かにする魔法にもなるんだ。お父さんはいつか、それを実現させる。昔、友人と約束した夢なんだ」

「お父さんの……夢?」

◇◇◇


「アネモさん、私……この街が、とっても気に入りました!」

「カルミアちゃんなら、そう言うと思ったわ」


 ねぇ、お父さん……お父さんが信じた未来は、ちゃんと、ここにあったよ。

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