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Episode1 色欲の魔女

 森林が生い茂る深い森の奥には、大罪の魔女が住んでいる。

 しかし、その魔女が()()()()()()なのかどうか真実を知る者は数えるほどしかいない。男たちは、この村に古くから伝わる大罪の魔女(森に住む)の言い伝えを信じている。


 1、出会った者は精気を骨の髄まで吸い尽くされ、変わり果てた姿にされる。

 2、その姿は、この世でも最高峰の美貌を持ち、美しい肉体を持つ。

 3、死を目の前にした瞬間、それは極上の快楽を味わう。


 森に住む魔女の正体、その名は――()()()()()

 不純に満ちた汚らわしい大人どもが密かに森に立ち入り、一生に一度は、この目で魔女を眼中に収めようと、一矢報いる気持ちで妻子持ちも夜な夜な魔女の探索をする。その者たちを人々は皮肉を込めて【性なる信者(クルセイダー)】と呼んだ。

 ――しかし、この森には一人の少女が住んでいた。

 背丈は低く体系も幼い、瞳は蒼く澄んだ色をしており、肩まで伸びた白髪の少女、カルミア・ジーニアスは今日も近くの森の中で薬草を摘みに訪れていた。


「よしっこれくらいで十分かな」


 彼女は森に住む魔女――色欲の魔女。だがしかし、噂にある妖艶さはどこにも見当たらない。


「……いや、ちょっと採り過ぎたかも」


 左手に持つ籠には、いっぱいに薬草が詰められている。

 日も暮れかけ、我が家に戻ろうとしたところだった。背後の森林から物音が聞こえた。カルミアは外していたフードを急いで被り顔を隠す。同時に、その場に再びしゃがみ込み、音の方へ耳を傾けた。


「なあ、本当に魔女なんているのか?」

「ああ? 今更なんだよ、怖気づいたのか」

「いや、その……ほら。俺には妻もいるから、遅く帰ると心配をかけるって言うか……」


 二十代半ばくらいの男性二人組が何やら会話を交わしながら徐々にカルミアの方へと近づいてくる。


「とかなんとか言ってよ、結局、欲求不満だから俺に付いて来たんだろ?」

「そ、そんことねーし!」

「どうだか……お前は良いよな。ムチムチの女と毎晩、熱い夜を過ごせてよ」

「おい、あんまり大きな声で言うなよ! 誰かに聞かれたら、どうするんだよ」

「こんな森の中、人なんているわけねーだろ。居るとしたら……それは魔女かもなっ!」

「やめろよ……なぁ、あそこに誰かいるぞ」


 不運にも男たちに見つかってしまう。しかしカルミアは、男たちの会話を全て聞いていたとしても、何も聞いていないフリをする。


「……チッ。ただのガキじゃねーか。こんなの無視してさっさと行くぞ!」

「あ、ああ」  


 男たちは声をかける事も無く、颯爽と姿を消していった。


◇ ◇ ◇


「もう、()()()()だよぉぉぉ!」

「うおっと……いきなり大きな声を出さないでくださいよ、ご主人様ぁ」

「はぁ、そろそろ引っ越しも考えようかな」

「うーん、引っ越しですか。悪くない案だとは思いますが……この量の荷物を運ぶとなると、数日はかかりそうですね」


 カルミアの使い魔、トレニアは周囲の乱雑に積まれた魔導書や雑貨類に視線を向ける。

 この森に住んで早二年。村人との交流は一切なく、時々に外に出て薬草を集めたり、魔女目的の人と鉢合わせになる事は数回あるが言葉は一切発しない。


「うぅ……日頃からキチンと整理整頓しておけばよかった……」

「まあ、自業自得ってやつ、ですね!」


 トレニアは笑顔でカルミアの前に置いてあるコップに紅茶を注ぎ込む。不服そうな表情を浮かべるカルミアの視線はトレニアの胸元にあった。

 よく考えてみれば、トレニアの方が私よりも背が高くて、身体つきも良くて、何より胸が大きい。これこそ男を魅了する魔性。


「……色欲の魔女」

「どうしたんですか? 突然ご自身の名前を声に出してぇ」

「別に色欲の魔女が私の名前じゃないんだけど……まあいいや。紅茶ありがとう」


 暖かい紅茶を一口飲む。心の芯から温まるような優しい口触りだ。ホッと一息つこうと肩の力を抜いた数秒後にドアをノックする音が家中に響いた。


「おや、どなたですかね?」

「……この家を訪ねてくる人なんて、多分だけど――」


 カルミアが言いかけたその時、ガゴンッっと大きな音が鳴った。二人は慌てて玄関に向かうと、そこには粉々に破壊されたドアと、その先には――


「随分と脆くなったものですね」

「……やっぱり」

「ん? 何ですか、その表情は? ワタシが来て不満でも、カルミア・ジーニアス殿?」

「ありますよ! 毎回来るたびにドアを壊されたら、たまったもんじゃないですよ! こっちの身にもなってください!」

「そんなの知ったことじゃない。それに少し押しただけで壊れてしまうような脆い素材を使っている方が悪いのでは?」


 なんて傲慢な意見……まあ、それもそうなんだけど。


「あっお久しぶりです、デルフィニウム様!」


 彼の名はロベリア・デルフィニウム。高身長で細身の身体。金色で腰程まで伸びた長髪に、紅い瞳。普段から白い手袋と指輪を着用。左目には片眼鏡(モノクル)。カルミアと同じ大罪の魔女の一人、傲慢の魔女だ。魔女と言っても性別は男性であり、呼び名は古い風習の様なもの。


「おお、トレニアか。貴様は相変わらず声がデカい。もっと静かにできないのか?」

「あはは……精進しますー」

「それにしても相変わらず埃くさい所だな」

「分かってますよ……それより、今日は何のご用件ですか?」

「あぁ、そうだった。中に入るつもりは無いから手短に話す」


 この人、何か話すたびに、何かディスって来るんだよね……。


「お前、今から竜討に付いて来い」

「……え? えええぇぇぇぇぇぇ!!?」

「っ! 急に大声を出すなっ!」

「む、むむ無理ですよ! 私、実戦経験ないですし絶対に足手まといです!」

「ああ、そうだろうな」

「即答!? うぅ……どうして私なんですか、得意魔法も固有魔法も戦闘向きじゃないですし……」

「知っている。実戦を踏まえる事で、状況の判断力や戦略性、他にも得られるモノもあるだろうな。良い経験ではないか」

「で、ですがっ!」


 カルミアが悲観的に答えるとロベリアは「はぁ……」と低いため息をついた。


「これは命令だ。お前に拒否権は無い、大人しく付いて来い!」

「うへっ!? ああ、ちょっと待って下さいー! 裾を、裾を引っ張らないで! 伸びちゃうからぁ!」

「そんなもん、知ったことか!」

「トレニア助けてぇぇぇ!」


 その場から強引に連行されるカルミア。半泣き状態でトレニアに助けを求める。


「いってらっしゃいませ、ご主人様~!」

「トレニアぁぁぁ!」


 しかし、トレニアは笑顔で手を振りカルミアを見送る。

 その様子を見て何かを諦めたカルミアは自分で歩き、ロベリアの後ろに付いていた

「はぁ、内気な所は相変わらずの様だな。ところで一つ聞きたいのだが」

「……なんでしょう」

「ここへ来る道中、変な輩に絡まれたぞ。お前も溜まってるのか、とか。好みの体型や性格、中には何を妄想しながら歩いているのか、下品な輩もいた。とんでもない変態集団しか、お前の付近にはいないのか……?」


 ロベリアの言葉にカルミアは苦笑いで答える。


「はは……だって私、色欲の魔女、ですから……」

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