リベンジ!人魚姫 次こそは幸せになりますわ 後編
都と呼ばれる城下町は大賑わいだわ。お祭りなんですって、初めて見たわ!とっても賑やかでびっくりしちゃった。陛下のお誕生日を祝っての催し物が、あちらこちらで行われているの。同じ様な旅芸人達も沢山来ていてとっても賑やか。
「明日の夜には花火が上がるのよ、祭りの花火を一緒に見ると愛が成就するんやって、ばあちゃんに聞いたことがある」
だからプロポーズするのに男から女に『花火を一緒に見よう』って使い方があるんやって、嫌なら見ません、オッケーなら見ますって答えるんよ、
言ってほしいよねーと、ジェシーがお城に向かいながら、彼氏の方をちらりと見ている、うーん!色っぽい!視線を追って行くと気がついた短剣使いが茹でた海老みたいに、顔を真っ赤にしていたわ。
「うふふふ、流し目っていうの、目に男にあたいのものになれ!て意味を込めて作るのがコ、ツ」
耳元でジェシーが囁いた。
――― お城はワタシがいたときと変わっていない、王子様が結婚していただけ、王様の隣で、ニコニコと笑顔を振りまいているわ。そして隣にはあのお姫様が座っている。
仲良くなったジェシーに、隠すことは隠して話をしたのよね、助けたいのはワタシなのに、用事で離れた時に、通りかかった別の女に、手柄を奪われたってな感じで、
「そりゃ酷い話、あたいなら怒鳴りこむけど、ええとこの生まれやったら、そんな事出来ないか、可哀想に」
喋れなかったから、出来なかったのだけど、多分声が出てても言えたかどうかはわからない。お姫様が来るのは決まった事だったし、王子様がワタシに恋してたとは思えないし。道で拾った小鳥を可愛がる、そんな感じだったと今ならわかるわ。
ワタシも好き、好きだからそれだけで良かったし、今の様にジェシーみたいになりたい!と心が熱くなった事はその頃はなかったわね、淡く淡く、海の泡みたいな想い。
生まれて初めて好きになった王子様。だから命をかけたの、お魚だもの、好きになったら全てそれだけになったのよ。でもそれから気がついたの、お姉様達、お祖母様、お父様、もう二度と会えないけれど。
「お城の大広間で踊るなんて、緊張する」
タン!短刀が的に刺さる音が、ワァーと歓声も上がる。それが終わると私達の番。ワタシは今日のためにあの真珠の髪飾りを結い上げた髪に飾っている。
袋の中には、赤い石の腕輪、キラキラとした小さな白い石が連なって、瞳の色と同じ石が真ん中に下がっている首飾りが入っていた、ドレスの蒼と同じ色。
見たことある様な大臣が、次は美しき踊り子の舞でございます。その声が始まり。ワタシの運命の扉を自分で開く時の始まり。
玉座の前は開いている。真ん中に輪が出来ている。赤い絨毯、天井にはキラキラシャンデリア、取り囲む観客、色とりどりの裾を長く引いたドレスの貴婦人、エスコートの紳士、ここを守るための騎士達の姿もある。
畏怖堂々とした白い髪の国王陛下、傍らの椅子は空いている、王妃様はワタシが以前ここに来たときにはすでに、天国へと旅立たれていた。
王子様と、お妃様がいる。旅芸人の皆と城に入った時、こうるさそうな侍従長が、王の御前では儀礼にのっとったお辞儀をする様に、教えられていたので、衣装の裾をつまみジェシーと共に頭を下げたの。
チリリン!領巾が舞う、ジェシーが踊る、ワタシが歌う、ジェシーの間合いを見て、赤の踊りの邪魔にならないように、歌を止めクルクル回り踊りながら位置を変えて行く。
皆がワタシを見ている。扇で口元を隠した貴婦人が、寄り添う紳士が、剣持つ騎士達が、大臣が仲間が、威厳ある陛下が、そして会いたかった王子様、会いたくなかった王女様、今はお妃様となった彼女。
ジェシーが彼に送った様に、目を細める口元を上げて微笑む、たっぷりと意味を込めて、一段高い場所にある玉座に視線を流す。
そこにいる三人と視線が絡む。恋するジェシーの様に、艶やかに、そして何処かあざとく、男を捉える為の笑顔を創る。
赤くなったように見えた王子様、隣に座っている女の事などワタシの眼中にはない、庶腹だかこの国唯一の彼は皇太子、王妃であったお方は、子には恵まれなかったと、旅芸人の皆が話していた。
「でも妾?側室ってか?その女も産んだあと直ぐに死んじまったって聞いてるぞ、残念だよなぁ、生き抜いてりゃ贅沢三昧出来たのによぉ、あの王様も昔はドンフアンのくせに、子には恵まれなかったんだな、生きてるの一人かよ!アハハハ」
『あたいの男になれ』
そうよ、ワタシの男になって、ワタシを見て、見つめて、捉える、捕まえる、視線で射止める。クルクル回り今知っている知識を全て思い出し使い、意を込めた。
―――― ジェシーが止まる、ワタシも止まる。頬を赤くし息をはずませて、終わりの礼をするワタシ達。頭を深く下げる。
ワッと歓声が上がり、拍手が起こる。やったね!とジェシーが目でワタシに話してくる。王族からお声がかかるまでは、そのままでいなければならない決まり。なのでじっとその時を待っていると。
「見事であった!頭をあげよ」
耳に重く深く響く王様の声がかかった。海の底のうねりの様なお声、甘くワタシの中に入り込む。ジェシーが先に身体を起こした、ワタシも慌ててそれに続く。
………… 深い鳶色の瞳とワタシの蒼がかち合う、深く海の底の様な濃紺の衣装には、白い真珠が飾られている。二人だけの世界が、産まれた。そこにはあの女も、ジェシーも、ツンと立っている大臣も、騎士達も、さざめく貴婦人も紳士も、王子様もいない。
ワタシは彼が恋に落ちたのが即座にわかった。王様の目には、あの花を捧げた男たちと同じ光が宿っていたのだから。
「父上、ち、父上、お願いが!お願いがあります、彼女を………」
息せき切った王子様の声を、大きな手で制する王様、上から下までワタシを舐めるように見ましたの。それに臆する事なくワタシは彼の視線を受け止めましたわ。
『王子様は庶腹、そして今王妃はいない』
以前とは違うワタシ、計算が入った、王子様の熱い視線を感じる。そして王様の視線も。今取るべき手を選んだ。王様の声が重々しく、そして愛しさを込めてワタシに向けられたの。
「異国の姫よ、見事である。褒美を取らす、明日の花火を共に見ないか」
父上!王子様の悲壮な声が、陛下!と慌てた様な家臣の声が上がる。絶対君主の王、彼が玉座から立ち上がると、赤い段を降りワタシの元に悠々と歩き近づくと、
手を差し出された。それを目にして少し息を止めて頬を染め、はにかんだ様に視線を落とすと、その手をおずおずと取ったワタシ。
「はい、陛下謹んてお受けいたします」
ば、ばんさーい!バンザーイ!国王陛下バンザーイと一斉に響く。大きな身体に引き寄せられる。甘く耳元でささやく深い声。
「予の子供を産んでくれまいか?王妃のソナタの子は、世継ぎになるぞよ、皇太子となる」
まあ、陛下の大きな胸に寄り添うワタシ、前の身体だと子等、産めるかどうかはわからなかったけれど、今なら大丈夫と確信があるのですわ。
「ええ。喜んで、珠のような男の子を産んでみせますわ」
それから一年、祭りの花火を、バルコニーで眺めている。蒼の衣装の陛下、揃いの色のドレスのワタシ、そして乳母に抱かれているのは、この国に久しぶりに産まれた陛下のお子である第一王子、可愛いく愛しい我が子。
「愛しい王妃よ、次はソナタにそっくりな王女が良いな」
「まあ!陛下ったら、では次は王女を産んでみせますわ、ウフフフ」
白い絹のおくるみにくるまれた我が子を、それはもう愛おしそうに眺める陛下、ワタシも寄り添いお子を眺めます。甘い蕩けるような幸せをひしひしと感じましてよ。
そうそう、王子様はここにはいませんの、離宮にて大人しくされてるとお聞きしております。
あの方のお命は、陛下の御心次第、謀反等考えようとすれば命はないのですから、ワタシの産んだ王子様が皇太子、それがこの国の決まり事。則を乱す事は、誰しも嫌う事。
…………そしてあの女の事ですけれど、あの後直ぐに病になったとかで国元にお帰りになられました、そして噂に聞くと修道院に放り込まれたとか、まぁお育ちになられた所にお帰りになられたので、
めでたし、めでたしですわ。
完 ━
アンデルセンの人魚姫をモチーフにお借りしました。
ご拝読ありがとうございました。