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狼さんにご用心

僕の名前はロイ。


狼の獣人で、この街の港にある食堂の雇われ店長兼料理人だ。

まあ一応A級の冒険者だったりするけど、それはマーヤには関係ない話だよね。


僕が初めてマーヤに会ったのは約2年前。

ある日なんだか甘くていい匂いがすると思ってお店の外に行くと、そこに彼女がいた。

黒く綺麗な髪に黒い瞳、仕立ての良さそうな服を着た若い女の人が、困ったような顔をして店の張り紙の前に立っている。

昼過ぎに見かけたその人は夕方までずっと店の前にいて、とうとう我慢できなくなった僕は彼女に声をかけた。


「あの、うちの店に何か用ですか?」


少し驚いた顔で僕を見たその人は、仕事を探していると言う。

僕が店長だと告げるとますます驚いた顔をして、その顔が可愛くてどきどきした。

よくよく話を聞くと、彼女は着の身着のままでこの国に来たばかりらしい。

お金がないから仕事と住む場所を探しているというので、その場ですぐ働いてもらうことにした。

彼女は嬉しそうな顔で僕にお礼を言うと、マーヤと名乗り、お世話になりますと言った。


荷物一つ持たず、突然僕の前に現れたマーヤ。


どこかから逃げてきたの?

誘拐でもされて連れて来られたの?

余りにも常識を知らないその様子は、まるでまったく違う世界からやってきたおとぎ話の人みたいだ。

でも大丈夫。マーヤのことは僕がお世話してあげるね。


僕のマーヤは可愛い。

身体つきは華奢なのにふっくら柔らかそうで、いつも甘くていい匂いがする。

だから厨房でもホールでも会計でも彼女を狙う野郎共が後を絶たない。

仕方がないから内勤の仕事にまわしたら、今度はオーナーのグレイが彼女に目をつけやがった。

あのくそじじい余計な事しやがって。せいぜい悪口を吹き込んでやる。


まるで何かから隠れるように、目立つのを避けてたマーヤ。

何かを怖がってこの窮屈な寮から頑なに出て行こうとしなかった。

僕は毎日彼女の側にいて、ご飯をつくって、彼女に笑顔で話しかけた。

大丈夫、外は怖くないよ、僕がいるよって。


そんなある日まるで何かをふっきったように彼女は言った。ここを出て行きたいと。


今まで目立たないように暮らしていたけど、もうそろそろ変わりたい。

まず一人暮らしをしたい。

人の目を気にせず好きな服を着たい。

それからイケメンの恋人がほしい。


そう言って僕の前でマーヤは嬉しそうに笑う。

マーヤが初めて口にした願い事。

うん、わかった、僕に全部任せて。


それから僕は理想のアパートを探して、そして見つけた。

治安がよくって、マーヤの好きなお風呂が付いてて、そして隣り合う二部屋が空いているアパート。


毎日僕のご飯を美味しいと言って食べて

毎日僕の用意した住処で眠る


僕のマーヤ、大好き。ずっとずっと一緒だよ。




***




マーヤと恋人になった次の日、僕達はフェルナンデス家の三男が経営する仕立屋に彼女の服を取りに行くことにした。


だいたいあいつ女装好きの変わり者で、女は食べ飽きてて興味ないって聞いたからマーヤに紹介したのにさ、話しが違うんだよ。

まあ鉄は熱いうちに打てっいうしね。


「こんにちはー。アデリーンいる?」

「はーい、いらっしゃーい」


そう言って店に出て来たヤツは、マーヤを見て笑った後、僕がいるのがわかると露骨に顔を顰めやがった。


「アデリーン、昨日は来れなくてごめんね。私も仕事を早退してばたばたしてて、ついうっかりしちゃって。もしかして待っててくれた?」

「大丈夫よ。そんなこと気にしなくていいわ。それより早退したってどういうこと?もう体調はいいの?」

「うん、それは・・・」

「マーヤは大丈夫ですよ。だって僕が看病したから」


僕が途中で口を挟むと、何か思い出したか首まで真っ赤になるマーヤ。


「昨日は一晩中僕が看病してたんだよね、マーヤ」

「ちょっとロイ!」


マーヤは僕の口塞ごうとしたのか、その柔らかい両手をこちらに伸ばす。僕はその手首を掴むと、態とらしく音をたてて彼女の掌にキスをした。


「やっ・・・!も、帰ろう!帰るから!ごめんねアデリーン。またね!」


真っ赤になったマーヤは僕に腕を絡ませると引っ張り、店の外へと連れて行く。

僕が後ろを振り返って手を振ってやると、奴はすっごい悔しそうな顔をして僕を睨んでいた。


採寸だかなんだか知らないけど、お前マーヤにベタベタ触りすぎなんだよ。

こっちはお前の臭い匂いを我慢してたんだ。もう二度と僕のマーヤに触るなよ。




***




「ね、ロイ、相談があるんだけど」


ある日夕食を食べ終わった後、コーヒーを飲みながらマーヤが切り出した。


「やっぱり私たちのこと、グレイさんには言った方がいいと思うんだよね」

「うーん、マーヤがそうしたいなら言えばいいんじゃない?」

「うん・・・でも気が重いなあ」

「どうして?」

「だって私きっとグレイさんに怒られると思う」


それを聞いて僕は眉を顰めた。

グレイがマーヤを怒る?

それはあのじじいがマーヤのことを自分の女だとでも思ってて、俺に手を出されたとかでマーヤを怒るってこと?

思わずコップを持つ手に力が入る。


「ロイってまだ20歳じゃない?そんな若くてかっこいい男の子に手を出して、って絶対言われるよ」

「・・・マーヤ、大好き・・・」

「えっ!?」



以上でマーヤのお話は完結です。


あんまりヤンデレっぽくなかったかもしれませんね。

もふもふ要素をもうちょっと書きたかった気もしますが、バカップルが炸裂しそうなのでここで終わりにしておきます。


お読みいただきありがとうございました!

お楽しみいただけたら嬉しいです。

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