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主役は遅れて登場する

「それでね、今日は昼休みにアデリーンのお店に行って例の服を着てみたんだ。可愛かったよー」

「へー、マーヤが着た所見てみたいな」

「それがばたばたしててお店に置いてきちゃったんだよね。帰りに取りに寄るつもりだったのにうっかりしてた」

「あ、じゃあ今度市場に買い物に行った後一緒に取りに行こうか」

「うん、それいいね!」


私とロイは、私の部屋の隣のロイの部屋で、ロイが作った夕飯を食べながら、いつものようにその日あったことを話している。うん、わかりにくいけど、私はロイと一緒にいるってことだ。


ロイは私がこの世界に来て初めて働いた食堂の店長さん。

その料理の腕でがっしり私の胃袋を掴んで離さない彼は、黒のメッシュが入った短いシルバーの髪に大きなアイスブルーの瞳、私と10cmくらいしか変わらないのにしなやかそうな筋肉の、いわゆる細マッチョの身体、そして悪戯っ子みたいなちょっと小悪魔的な色気があるイケメン(20歳)だ。


初めて会った時彼はまだぴちぴちの10代だった。

まだあどけない少年のような彼が大きな食堂の店長だと聞いて、私はびっくりしたのを覚えている。

でもすぐにロイは只者ではないと分かった。

どんなお客さんの心もすぐ掴む人懐っこさとは裏腹に、スタッフの前では常に冷静かつ適切な対応をする。

しかもお店で喧嘩になった時は、大きな男の首を掴んで外に放り出しちゃうような力持ち!

本人曰くわんこ系の獣人だって言うんだけど、私は今まで一度も彼が犬になった姿を見たことがない。

飲食業だからっていつも人間の姿をしているし、彼に言っても「もうちょっと仲良くなったらねー」っていつもはぐらかされる。うん。獣人は警戒心が強いんだね。いつかもっと仲良くなって、彼に犬の姿見せてもらうのが、私のひそかな目標だ。


とにかく彼がいなかったら私はこの世界で生きてこれなかったと思う。


トリップ初日、食堂の仕事を募集する張り紙を前にどうしようと日が暮れるまで途方にくれていた私。

そんな私を見つけてロイは声をかけてくれた。

厨房では初めて見る魔法の調理器具が使えなくて、困っていた私に色々教えてくれた。

ホールの仕事の時は、私がお客に絡まれてるのを見かねのか会計に変えてくれた。

立ち仕事より事務の方が合ってると言ってオーナーに紹介してくれたのもロイ。

仕事のことだけじゃなくて、寮での生活や細かな生活習慣も一から教えてくれたし、それこそアデリーンのお店を紹介してくれたのもロイだ。

一人暮らしのことも親身になって相談にのってくれて、ロイの隣の部屋が空いた時にわざわざ私に教えてくれて、その後も全部手配してくれた。

ほんと、ロイは私にとっては神様みたいな人。


「本当にロイがいなかったら私、やっていけなかったと思う。そもそも魔法が使えないってかなりヤバいよね。火が付けられないから料理もできないし」

「うんうん、それを言ったらお湯も出せないからマーヤの好きなお風呂にも入れないしね。よくそれで一人暮らししようと思ったよね」

「うう、だってロイも知ってるでしょ?もう寮の生活は限界だったんだよー」

「あーまあそうだよね」


そう言って頭を抱えた私をロイは優しくなでなでしてくれた。


幾らご飯付きとはいえ、親しくない相手と同じ部屋で暮らすって辛い。

ずっとお金を貯めていたから、毎日寄り道もしないで寮と事務所の往復の繰り返し。

私物は置いておくと盗まれるから余計な買い物もしなかった。

そんなささくれた毎日の中、私にとっての唯一癒しがロイとロイの作るご飯だったのだ。


「一人暮らしって私のやりたいことの一つだったんだけど、ロイのおかげであっという間に願いがかなっちゃった。ロイの隣のこの部屋が空いてラッキーだっだね、私」

「うん、本当に偶然隣が空いてよかったよね」


そう言って私が笑うとロイもにこにこと笑った。


「それにしても寮と違ってロイとお喋りしながら美味しいご飯が食べられるんだもん。私って幸せ者だなー。うふふ。ねえロイ、私のところにお嫁さんに来ない?私がたくさんもふもふして毎日可愛がってあげるよ?」

「そ、それを言うならマーヤが僕のお嫁さんでしょ!」


ロイは真っ赤になって言った。なんだこれ!かわいすぎやろ!


「あはは、ロイ顔赤いよー可愛い!そういえばいつになったらロイが犬になったところ見せてくれる?私楽しみにしてるんだ。もうちょっと仲良くなったらって、どうすればロイともっと仲良しになれるかなあ」


私がそう聞くと、ロイの大きなアイスグレーの目がすうっと細くなって光った


「ああ、そうだね。マーヤも一人暮らしするようになったから、もう解禁してもいいよね」

「解禁・・・?」


ロイは妙に色っぽく悪戯っ子のように笑うと、椅子から立ち上がって私の前に来た。

そして次の瞬間、私の前には見上げるくらい大きなシルバーの獣が立っていた。


「・・・ロイ?」

「・・・そうだよ。怖い?」


シルバーに黒が混じる綺麗な毛並み。ぴんと耳を立て堂々と四肢を伸ばして立つしなやかな獣が、頭を下げて私を見つめている。


「すごい・・・!綺麗!これがロイなのね!ねえねえ、触ってもいい?」


私がそう聞くとロイは嬉しそうに尻尾をぱたぱたと振って私に顔を押し付ける。

私がおそるおそる彼の耳を撫でてみると、ロイはくすぐったいのか耳をぴこっと動かした。

なにこれ、むっちゃ可愛いー!

調子に乗ってほっぺたの毛をもふもふと撫でた。


「ロイ!すごい可愛い!うわー、もっと早くもふもふしたかったよ、これ。すっごくふかふかで気持ちいい。それにしても随分身体が大きな犬なんだね。毛の感じからしてシベリアンハスキーとかかな」


私は今度は背中を首から腰のあたりまでゆっくり撫でる。ロイは気持ちいいのかうっとりと目を細めている。どうだ!私のゴールドフィンガーは!


「うん、言ってなかったけど僕は狼なんだ。マーヤが怖がるといけないと思ってずっと黙ってたんだ」

「へえ、狼なんだあ。なんかすごいね。でも怖がるってどうして?こんなに綺麗なのに」

「ああ、マーヤ。マーヤってほんと何も知らないんだね。まあそこが可愛いんだけどさ」

「えっ?」


ロイはそう言うと器用に口の端を上げて、それから私の頬をペロリと嘗めた。


「ひゃっ」

「ねえ、今日グレイのやつに触られたでしょう。すっごく嫌な匂いがついてる」


そういうとロイはぺろぺろと私の首筋やうなじを舐める。


「やっ・・・ん、ロイ、くすぐったいよ・・・やだ」


私が顔を真っ赤にして抗議すると、ロイは舐めるのを止めてアイスブルーの冷たい瞳でじっと見つめた。


「僕、初めて会った日からずっとずっと待ってたんだ。もう待たなくて・・・いいよね?」

「へっ?」


私が何も言えないでいると、ロイは私の目の前で人間の姿に戻った。ロイ!裸!あんた裸だよ!!

慌てて顔を隠そうとする私を、ロイは横抱きに抱っこすると顔を近づけてにっこり笑った。


「マーヤ、イケメンの彼氏欲しかったんでしょ?これでやりたいことが全部できたね!」


そしてそのままベッドに連れて行かれた私。


その後ありとあらゆるところを舐められて、私は最後までいただかれてしまったのでした。



・・・あれ?どうしてこうなった??



ロイ「ねえマーヤ、狼のことってどれくらい知ってる?」

マーヤ「ええっとね・・・考えてみたら良く知らないかも」

ロイ「じゃあ僕が(ベッドで)色々教えてあげるね!」

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