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イケメン好きでいいじゃない

ばたばたと事務所に戻った私は、お昼休みが終わるぎりぎりに席についた。危なかったー!

でもどうやらそれをオーナーのグレイさんに見られていたらしい。


「おいマーヤ。お前昼休みにどこ行ってた。男のところか?」

「残念、不正解です。お友達のところに新しい服の相談に行ってたんです」


ちゃんと時間に間に合ってるんだから、そんなに不機嫌にならないで欲しい。

眉間に皺を寄せるグレイさんの顔はあまりにも凶悪で、私の精神衛生上非常によろしくないと思います。


元S級の冒険者だとかいう、貿易商にはあまり必要ないように思われる経歴を持つグレイさんは、眉間に傷痕が残る精悍なイケメン(推定30代後半)だ。

190cmはある高い身長、短いグレーの髪にグレーの目。引退したとはいえ逞しい身体にムダに色気のある仕草。そして大人の男の余裕。

とにかくこの人は非常に女性におモテになる。

若いお嬢様方からそれこそ酒場の綺麗なお姉サマ達まで、私が知る限り女性が側にいなかった試しがない。

ここは神聖な職場だというのに、ひっきりなしに綺麗な女の人が腰をくねらせやって来ては、腕を組んで一緒に出て行くのだ。なんてうらやまけしからん!

まあこれだけモテるのはきっと私の知らないナニかがあるに違いないと、ひそかに私は思ってたりする。


でも1年近く彼が華やかに自由に恋愛を楽しんでいる姿を見て、私は思った。

今まで目立たないように暮らしていたけど、それってもったいないよね。

せっかく全然違う世界に来れたんだから、もっと色々楽しんでいいよね。

レッツエンジョイ異世界ライフ!

という訳で、私は自分のやりたいこと「その2」をしてみることにした。


やりたいことその2。イケメンの彼氏をつくる。


日本にいた時の私は、イケメンが苦手って公言してた。

私なんて釣り合うはずがない。とか

すぐに浮気されそう。とか

本気かどうかわからない。とか

自分に自信がないのを言い訳にして、どこか卑屈になってた。

でもここにきて思った。それ違う。


第一印象が大事ってよく言うよね。

初対面の人と会うときまず見るのは相手の顔でしょ。

だったら好きな顔の人を選ぼうよ。イケメン好き?何が問題なのさ!


ここには幸いなことにありとあらゆるタイプのイケメンがいる。

本物の王子様系イケメン、憧れの騎士系イケメン、ワイルドな冒険者系イケメン、思わず甘えたくなるおじサマ系イケメン、食べちゃいたいほど可愛い歳下系イケメン、獣人はそれこそアニマル系イケメンだし、魔人は凄絶な色気のあるインキュバス系・・・


「おい、お前今何か変なこと考えてるだろう」


おおっとなんでわかったグレイさん。日中から危険な妄想に耽るところでした。えへへ。

とにかく私はこの地で素敵な恋愛をして、素敵な彼氏をゲットしたいのです!


そんな私は現在グレイさんに怖い顔で睨まれてます。え?私なにかした?

グレイさんはつかつかと前に来ると、真正面から私の肩に両手を置き、真剣な顔で言った。


「・・・最近何かあったのか?困ってることがあるなら俺が相談にのるぞ」

「ええっ?何のことですか?特に何もありませんけど・・・?」

「最近服の趣味も変わったようだし、それにお前、寮も出たって聞いたぞ」

「ああ、そうなんです。ようやくお金が貯まったから念願の一人暮らしすることになったんですよー。うふふ」


そうそう!ここに来てからずっと食堂の寮で暮らしていた私。

安い家賃で賄い付きは魅力的だけど、この歳で知らない人と二人一部屋はかなりきつかった。

人の入れ替わりが激しいから同居人は1か月くらいでころころ変わる。

プライバシーなんてものは全くなかったし、自分の部屋なのに服や化粧品とか私物が盗まれることもしょっちゅうだった。

だから節約に節約を重ねてお金を貯めて、トリップ2年目にしてようやく念願の一人暮らしを始めることになったのです。偉い!よく貯めた!やればできる子だったぞ、私!

つい先週新しい部屋の鍵をもらって、ようやく新しい生活がスタートしたばかり。

今はまだベッド位しか家具がないけど、これから少しずつ揃えて行くんだ。むふふ、あー楽しみ!


「なんだ一人暮らしか。俺はてっきり・・・。そうか、そうなら俺に相談すりゃあよかったのによ。部屋なんかいくらでも用意してやったぞ?」


いやいや、グレイさんに相談したら、何か違う部屋が用意されそうで怖いです。

ていうか、私相手にその無駄な色気を醸し出すのやめてください。色気という資源は彼女さん達に有効に利用してあげてください。


「嫌ですよ!そんなことグレイさんに頼んだら私がグレイさんの彼女達にあらぬ疑いを持たれます。その内誰もいない暗い場所で、後ろからぐさっと刺されたりしそうじゃないですか」

「・・・なんだそれ、お前は一体俺のことを何だと・・・。まあいい、それよりお前せっかくだから引っ越し祝いでもしてやろう。何か欲しいもんはねえのか?それともどこかに飯でも食いに行くか?」


おおう!これが噂のグレイさんが女を落とすテクニックですか!?俺に甘えてもいいんだぞっていう大人の余裕が漂いまくってます。


「うーん、欲しい物は人から買ってもらえるような物じゃないし、食事もグレイさんの彼女さん達に申し訳ないので特にいいです。お気持ちだけ受け取っておきますね」


今欲しい物はイケメンの彼氏です!とはグレイさんには間違っても言いませんよ。

私が誤魔化すようにうふふと笑うと、グレイさんはまるで子供にするみたいに私の頭を撫でた。


「お前、本当に欲がねえんだな。何でもいいんだぞ?うん?」

「じゃあお給料上げてください!」

「それは却下だ」

「あはは、やっぱり。でも本当に気持ちだけでいいです。ありがとうございます」


正直今は念願の一人暮らしが嬉しくてしょうがないから早く家に帰りたいし、自分の好みじゃない物は家に置きたくないんだもんね。

少しずつ自分の好きな物だけそろえていくんだ。うん、まさに自分の城、楽しみ!





そんなことを考えて一人で浮かれていた私は知らない。

私の後ろでグレイさんが壮絶に色気のある笑みを浮かべながら不穏なことを呟いていたことを。


「・・・まったく鈍感にも程がある。もうそろそろきっちり捕まえとかねえと、これ以上放置しとくのは危ねえな。さてどうやって追い込むか・・・覚悟しとけよマーヤ」



マーヤ 「あれ、なんか寒気が・・・?」

グレイ  ・・・ニヤリ


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