スインク・ソート ② ロム・ウルムゥ ③
「うゅぅ」
学園内、15階。廊下。
俺の背中には心底心地よさそうに頬ずりしてくる銀狼のロム・ウルムゥが、「うゅぅ」と言葉ともつかない声を上げている。さながらそれはじゃれてくる犬のように。
柔らかい犬耳が俺の首辺りにふさふさと当たってくすぐったいというかなんというか。
「……胸が」
そして、胸が、胸というより身体全体が、俺の背中に押しつけられ、上下に擦られている。これが犬の習性なのかなんなのか知らないが、思春期真っ盛りの俺にとって、それはいろいろな意味で危険が危なかった。
「んんっ!」
胸と言えば、俺の腕にも、その感触が今まさに伝わって来ている。赤髪ショートで男勝りのスインクソート。スインクソートが俺の腕にその胸を押し当て、俺の腕を引っ張っている。
あまりないロムウルムゥの胸よりも、4,5倍はあるバストを、俺の、腕に、当てて、引いている。着やせするタイプ。というか、ブレザーを着ているからか、昨日の金髪縦ロールの女生徒といい、見た目と比べだいぶ異なるのかもしれない。
そうなると、ブレザー越しでもだいぶ出ているルティアの胸は、一体どれほどあるのだろうか。
いけない、そんな妄想をするとルティアに悪い。流石にさっきの今で、その妄想は失礼にも程がある。
俺はよこしまな考えをなんとか捨て払いながら、廊下を進む。
美術室はすぐそこだ。
それにしても、後ろに前に、俺は、どれだけ裏山けしからん状態なんだ……。などと、自分で言ってみる。
美術室前でロムウルムゥを下ろそうと思ったがスインクソートにそのままの形で引きずられ、下ろす機会を完全に喪失した俺はそのまま美術室内へと入った。クラスの視線が俺とロムとスインクに集まる。
新人教師はまだ来ていないようだった。
美術室内には大きな机が6台あり、教室と同じ並びで座っているようだった。ロムを下ろし俺が自分の席へと向かおうとすると、ロムが俺の袖の裾を引っ張る。
「ん、ん」
「ん……なんだ?」
俺がそれに引かれるように腰を落とすと、ロムが頬を染めて耳打ちしてきた。
(……ありがとう)
「え」
(……)
それだけを言い残し、ロムウルムゥは恥ずかしげに俺を見つめると、尻尾と犬耳をぴょこぴょこ振りながら右奥一個手前の席へと小走りで行ってしまった。
ありがとう……。あいつもああ見えてちゃんとお礼が言えるんだな……などと失礼なことを考えていると、スインクがその反対側からドン、とまた叩いてきた。
「いたっ」
「昨日は良かったぜ」
「腕相撲?」
「ああ。またやろうな!」
「……あ、ああ」
「へへっ」
スインクソートは俺に照れるように笑いかけると、自分の席に向かっていった。
クラスの生徒達はその光景を見ている。
改めて見ると、やっぱり可愛いやつしかいない。
みな同じように可愛く美人だが、でも接してみると、みな個性があり、性格もバラバラ。
そしてルティアも。
俺は中央の空席に向かいながら、そんなことを考えていたのだった。