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どうして? サウファ・コロン ② 

「どうして?」


教室にいる生徒達がめいめいに掃除を始めた。俺はといえば、何もせずに机が並べられた教室の片隅に立ち竦んでいた。先ほどまでの意気込みはどうしたというのだろうか。俺はまずアイシルフィーに声をかけようと思った。そのはずだった。だがどうしてか俺が近付くと、アイシルフィーは俺を避けるようにして逃げてしまう。やっと声をかけても、うんともすんとも言わず、顔を赤らめて、小さな肩を震わせて離れていってしまうのだ。

俺は絶望した。本当にアイシルフィーに嫌われてしまったのだと。その時、初めてことの重大さを実感した。それと同時に、俺は他の生徒に話し掛ける勇気と余裕を失ってしまった。周りの冷ややかな視線など気にしてなるものかと思っていたが、味方がこの教室に居ない今、俺にどうしろというのだろうか。

そうして、人目を避けるように俺は、教室の隅へと逃げ込んだのだった。


そのまま俺が立ち竦んでいると、水色ショートカットの少女が俺の目の前にやってきて、上述したセリフをのたまったのだった。

「どうして掃除しないの?」

抑揚のない声で、そいつは聞いた。

「……俺にもいろいろあるんだよ」

「なにがあるの?」

「うーん」

俺は何と答えようか悩む。

「女子全員に嫌われて、俺には今、掃除をする余裕も居場所もない」

「どうして掃除をする余裕も居場所もないの?」

「女子全員に嫌われたから」

「なんで嫌われたの?」

「えー……」

嫌われているはずの女子になんで嫌われているのか問われる。

「……お前は、俺のこと、嫌いじゃないのか」

「なんで?」

「だって、俺は変態で女たらしなんだ。自他共に認める。あまつさえアズリーマを何度も泣かせ、クラスメートには冷ややかな目を浴びせられ、俺は完全に悪役だ。女泣かせの悪名もついたかもしれない。とにかく俺は、クラスみんなの嫌われ者だ」

「そうなの?」

「そうだ。それで……お前はどうなんだ。俺が嫌いなのか、好きなのか」

「わからない」

「わからないのか」

「うん」

「……」

「……」

「……そういえば、お前、名前、なんて言うんだっけ」

話すことがなくなり、気まずい沈黙の後、俺はこいつの名前を知らなかったことを思い出して、聞いた。

「サウファ」

「サウファ?」

「サウファ・コロン」

「サウファか。いい名前だな」なんとなく、話を続けようとして、俺は名前を褒めていた。

「……うん」

サウファが初めて、感情を見せる。頬を薄く染め、恥ずかしそうに頷いたのだ。

「どうした」

「……なんでも」

「そうか」

さっきまでの無感情が嘘のように、気恥ずかしそうに、もじもじし始める。おかしなやつだった。

気付けば、俺も同様、サウファに心の内をさらけ出したことで、心が少し楽になっていた。どうしてしか聞かれていなかった気もするが、それでも今の俺にとって、サウファと話せたことは良い気分転換になったようだった。

「ありがとうな。お前のおかげで、俺は少し掃除をする余裕が出てきたようだ」

「そうなの?」

「ああ」

「どうして?」

「どうしてって……」

俺は頬を人差し指でかきながら、考える。

「サウファが、俺と話してくれて、俺はサウファと話して、元気をもらったからだよ」

「元気、もらったの?」

「もらった」

「ほんとに?」

「ああ」

「……そっか」

サウファはやっぱり何を考えているのかよくわからない表情で頷いた。だが、俺にはサウファが今何を考えているのか、分かったような気がした。

「なあ、どうして?」

俺は聞いた。

「え?」

「どうしてお前は、そんなにどうしてって聞くんだ?」

「そう?」

「ああ。どうして疑問形で返すんだ」

「わからない」

「俺にも、わからない」

「わからないから」

「え」

「今、話してる人が何を考えているのか、わからないから」

「そ、そうなの?」

「うん」

「な、なるほどね……」

そりゃわかるわけないよな……。もしも相手の心が丸見えだったら、俺は人間不信になりそうだ。

「それはわかったが……人の気持ちなんて分かって、どうするんだ」

「わからない」

サウファはそわそわし始めた。そろそろ掃除をしないとまずいと思ったのだろう。

「そうか」

「うん」

俺の言葉にサウファは頷くと、手に持っていたぞうきんを持って離れていった。



「はぁ……」

また1人になり、俺はため息をついてしまう。

「……俺も、そろそろ掃除しないとまずいかな」

俺は心の中で、少し焦り始めた。

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