美女とこじれる
「足が、足が……っ!」
動かない。
俺は教室の片隅でじっとしていた。もうサウファと話し終えてから、かれこれ10分くらい経ってしまったような気がする。掃除をするにしても、何をすればいいのかわからない。俺の有言不実行は、とどまるところを知らないようだ。何が悪あがきだ。俺はあがいてもいない。ただの悪だ。クラスに嫌われたからといって、掃除をしなくていい理由にはならない。掃除の時間でもどうやら俺は、悪者のようだった。
俺がじーっと教室のどこか虚空を見つめていると、俺の不可解さに目を止めた、ケンカしている最中だったはずのレレイナが、図らずも御自ら足を運んできてくれたのだった。
どこか不機嫌そうなそいつは、俺の目の前まで歩いてくると、言った。
「おい。いつまで惚けている? お前もクラスメートなら、みんなと掃除をしろ」
「……」
いつもの優しいレレイナとは違い、高圧的な態度だった。朝、ケンカをしてしまったからだろうか。その言葉に、俺は少しいらっとしてしまった。
「何とか言ったらどうだ」
レレイナが言う。
「……」
俺は何も言わずに黙っていた。
「どうした。返事も出来ないのか?」
「………」
「……おい、聞こえているのか」
「………」
本当なら、俺はここで頷くべきなのだろう。だが、どうしてか俺は、易々と首を縦に振ることが出来なかった。
「………」
「……はぁ。無視か」
俺の沈黙に耐えかね、レレイナはため息をついて、言った。
俺がそれでも黙っていると、レレイナは呆れかえって言った。
「そうか。お前の気持ちはよくわかった。もういい。勝手にしろ。お前はずっと、そこに突っ立っていればいい」
「……っ」
レレイナが怒りを押し込めるように肩を竦める。呆れかえって怒る気も失せてしまったようだった。
最後までレレイナの叱責に無言で耐えていた俺だが、最後の最後で我慢できず、口を開く。
俺に背を向けて去ろうとするレレイナに、俺は言った。
「うるさい」
「……なに?」
レレイナが眉根を寄せて振り返る。
振り返ったレレイナに対し、俺は言った。
「どうせお前だって、俺が謝っても、無視するつもりだったんだろう」
俺は心の中で考えていたことを言った。
「なに? なんの話だ」
レレイナがわけがわからなそうに俺に返す。
「朝、ケンカになっただろう。つんけんして、私にも考えがあるって」
「なんだと? どうして今そんな話になるんだ。それは今、関係ないだろう」
「ある」
「ない」
「あるんだ」
「ないだろう」
「……」
俺は何か言い返したかったが、レレイナの正論の前に為す術なく閉口した。
「そもそも、なぜお前はすぐ謝りに来ない。お前が強情張っているから、私は今日一日、嫌な思いをして過ごすはめになったんだぞ。わかっているのか?」
レレイナが今日ずっと押し込めていたのだろう不満を俺に吐き出す。
レレイナの自分勝手な発言に、俺も言い返す。
「俺が謝っても、お前は、無視していただろう」
「ふざけるな。なんで私が、無視をしなくちゃいけないんだ。勝手に、決めつけるな」
「じゃあなんだよ。朝、お前が言っていた、私の考えっていうのは」
「知るか。そんなもの、怒りに任せて出てしまっただけじゃないのか」
レレイナが怒りながら言った。
「……そうかよ。じゃあ悪かった。ごめんなさい」
「――っ」
俺はだんだん、言い合いをしているのが馬鹿らしくなってしまったので、もう終わりにしようと思い、投げやりに謝ることにした。
だが、俺の謝罪に対し、レレイナは口を開け、不満を露わにする。
レレイナは、そんな俺の謝罪を、微塵も納得していないようだった。
「……もういい」
レレイナは呆れを通り越して怒る気力も通り越して、何もかも通り越して俺から視線を外し、俺に愛想をつかしたように、そう言い残し、俺の目の前から去っていった。
「……」
……。




