第三章 侯爵令嬢の真意
「お嬢様。よろしかったのですか?」
馬車の中で、執事のセバスチャンが尋ねた。
「ええ。もちろんですわ」
アリシアは窓の外を眺めながら答えた。
「悲しくない・・・
と言えば嘘になりますわね」
ポツリと漏れたその答えに、セバスチャンはそっと目を瞑り一礼し、その後馬車の中は沈黙が続いた。
ヴィクトルのことを、本当に愛していた。
幼い頃、緊張で震える手をとって、公爵庭を散歩してくれたこと。
彼が自分の好きな花を覚えていてくれたこと。
誕生日には、必ず手紙と贈り物をくれたこと。
社交界デビュー後は彼の色のドレスや飾りを送ってくれたこと。
私の色のタイをつけて、ともに手を取り合って踊ったこと。
仕事で疲れていても、会いに来てくれたこと。
そのすべてが、嘘だったとは思いたくなかった。けれど
「愛していたからこそ、許せないのですわ」
思わず漏れた、そんな風に彼女は小さな声で言った。
「わたくしとの結婚を望まないのであれば、そうおっしゃればよかった。婚約を解消したいのであれば、正面から話し合えばよかったのです」
アリシアの目が、すっと細くなる。
「それなのに、浮気をして、わたくしに婚約破棄を突きつけて……そのうえ、わたくしが泣いてすがるとでも思っていたのでしょう?」
「……おそらくは」
「残念ですわね」
セバスチャンの方を見たアリシアは貴族の微笑みで言う。
「わたくし、泣き寝入りするほどお人好しではありませんの」




