第七話 忘れても忘れられない人 Side初々しい恋人達
ミテルとサトイが王国を去り、冒険者として実力を発揮しながら各地を旅し始めて数ヶ月が経った。
家族との手紙のやりとりは続いており、遠く離れた国の情報などをもたらしてくれる。
ミテルは、自分が掛けた魔法のせいで、家族以外の者が二人のことを忘れていると知った時、口を尖らせて、
「それなら、もっと早く、やれば良かったわ!」
と平民のような口調で拗ねてみせた。
王族のせいで無駄にしてしまった数年を、今みたいに青空の下で過ごせていたら、どんなに楽しかっただろう。
自分が逃げれば追手が差し向けられ、家族が迷惑を被ると思ったからこそ忘却魔法まで使って辛い思い出に封印をしてきたのに。
「ミテルは、むくれてても可愛いね」
二人旅に慣れ始めたサトイは、ミテルの頭をなでると優しく笑った。
二人の距離感は近く、どこからどう見ても恋人同士だった。
既に、冒険者ランクも最上位のアダマンタイト級にまでのし上がった彼らは、2人だけでパーティーを組んでいる。
家名を捨て、ミルとサイに改名しているが滲み出る気品の高さは隠しようがない。
貴族を彷彿とさせる振る舞いに、ついた二つ名がクイーンとナイトだ。
キングでないのは、サトイが常にミテルの周りに目を配り、怪しい奴らは問答無用で排除するからだ。
美しきクイーンを鉄壁の守りで囲うナイトは、密かにバーカーサーとも呼ばれる戦闘狂だが、そのことをミテルが知るはずもない。
荒くれ者の冒険者達ですら一目置くようになった二人だが、ミテルには一つだけ気になることがあった。
未だに宿屋では部屋を別に取り、夜を共にすることはないが、時々迷宮などでの探索時に仮眠を交代で取ることがある。
その時、サトイが寝苦しそうに呻くことがあり、聞いても何故なのか教えてもらえないのだ。
「ねぇ、サトイ、もし良ければなのだけれど………嫌な思い出とかあるのなら、消そうか?」
ミテルにも、経験があった。
王太子妃教育の一環と称して、教育係に体罰を受けたり精神的苦痛を受けたことが。
そのたびに、夜は眠れなくなり、忘却魔法に頼らざるを得ないことが多々あった。
あまりに苦しそうな表情を見ていられなかったミテルの申し出に、しかし、サトイは、
「辛い思いも、幸せな思いも、何一つ忘れたくないんだ。君と出会え、こうしていられるのも、全ては日々の積み重ねがあったからだからね」
と答えた。
この言葉に、ミテルは、自分も大切な何かを忘れている気がした。
自分は、いったい何時から彼を好きになったのだろう?
「ねぇ、サトイ」
「なに?」
「私、すべてを思い出したくなったわ。でも、もし耐えられなくて辛いときは、支えてくれる?」
「当たり前だろ?私は、君のナイトだよ?」
己の通り名を口にし、サトイは胸に手を当てて深々とお辞儀した。
何があっても、彼だけは信じられる。
その思いに、ミテルは、今まで重ねてきた忘却魔法を全て解くことにした。
両手を胸の前で組み、呪文を唱えるて目を開けると、そこには初恋の人が立っていた。
「やだ………私、ずっと貴方のことが好きだったのね………」
溺れた時に助けられてから、もう、8年の月日が経っていた。
十六歳になった彼女は、何度消しても生まれてしまった恋心に恥ずかしさと嬉しさを覚える。
「ミテル……君も、もう成人だ。良ければ、この後、教会に行って結婚式を挙げないか?」
冗談にもとれる言葉だが、サトイの瞳の真剣さに、ミテルは、迷いなく頷く。
「えぇ!そうしましょう!私には、あなたしかいないもの」
遠回りをした2人の恋は、ここに成就した。
ただ、2人は知らない。
『全ての』忘却魔法を解いたことにより、結婚式のさなかにトロイ達が記憶を取り戻したことを。
そして、絶望のまま、国の崩壊を防ぐこともできず、ある国が滅びてしまったことを。




