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【完結】忘却の少女ミテル  作者: ジュレヌク


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第一話 波乱の結婚式〜一人の聖女と四人の新郎〜


「わ、私は、何故、彼女のことを忘れてしまったんだ!」



結婚式が粛々と行われる教会で、唐突に後悔の叫びを響き渡らせたのは、この国の王太子トロイ。


その横で、先程誓いのキスを交わし、指輪の交換を待つだけになった新婦が顔を青白くさせて呆然と立っていた。


彼女の名前は、勿忘草ミナ。


つい数か月前に異世界より舞い降りた聖女だった。


そして、彼らの後ろには、新郎新婦と同じピンクの衣装を身にまとった青年が三人立っている。


財務大臣の長男。


辺境伯の次男。


魔導師団長の末息子。


下町の子供達ですら名前を諳んじられるほどの有名人の子息達は、目の前で打ちひしがれるトロイに、絶望の眼差しを向けていた。


彼が忘れてしまっていた『彼女』について、ここにいる全員が一人の少女の顔を思い浮かべた。


公爵令嬢でありながら魔法の素質を持ち、王家に請われて婚約をした際には、国を挙げて喜ばれた才女。


その名は、ミテル・リメンバー。


しかし、今、この瞬間まで、全ての人間の記憶から抹消され、居ない者とされてきた彼女の行方は誰にも分からない。



「何が起こっているの……」



召喚されて以来何もかもが驚くほど順調に進み、ハーレムエンドを迎えたはずのミナは、突然自分が蚊帳の外に追い出されたような疎外感を感じた。


参列している王族や高位貴族、そして、彼女の伴侶となるべく同じ色の衣装を身にまとった青年達が、全員両手で顔を押さえて悲鳴に近い嗚咽を上げ始めた。



「なによ、さっきまでチヤホヤしていたくせに!」



ミナが力強く噛んだ奥歯が、ギリリと嫌な音を鳴らす。


彼女とて、自ら望んでこの世界に来たのではない。


通学途中に突然光に包まれたかと思えば、高位貴族達の通う学園の中庭に立っていたのだ。


そこは、初めて見るのに、見慣れた光景。


彼女が、日本という国にいた時に課金しまくった『勿忘草の恋人』という乙女ゲームに出てくる学園と全く同じだった。



「聖女様が、降臨されたのね…」



その場にいた女子生徒の小さな呟きが、妙に皆の耳を捕らえた。


そして、

 

パン!


と、誰かが手をたたいた瞬間、鼓膜が震えるほどの歓声が上がった。


その瞬間から、ミナは、聖女だ!女神だ!と持て囃されてきた。


ちょっと微笑めば皆が彼女に夢中になった。


確かに、彼女の本名は、勿忘草ミナではない。


名前を聞かれ、ゲームに出てくるヒロインの名前を思わず言ってしまったのは、ほんの出来心だ。


しかし、この異世界転生の状況を踏まえれば、自分が主人公でなくて、誰が主人公なのだと思っても仕方がない。


現に、攻略対象である王太子や、側近の三人も、皆婚約者を捨ててミナに永遠の愛を誓ったのだから。


そして、今日、全員揃って集団結婚式を挙げ、一妻多夫という新しい結婚の形を世に知らしめている最中だった。


これこそ、ハーレムエンド。


ミナにとって、絶頂だったはずなのに、



「君が私たちに魅了魔法を掛けたんだな!」



トロイの罵声のせいで、その場にいた全員が彼女を見る。



「なんのこと?わたし、知らない」


「とぼけるな!しかも、ミテルのことまで記憶から消し去るとは!何という非道なことをするんだ!」


「だから、知らないって!私、そんなこと出来ないもの!」



ミナは、刺さるような悪意に満ちた視線の中で、ガタガタと震えた。


この世界に来て彼女がしたことは、男達にゲームで覚えた聞こえの良い甘い言葉を吐いたことと、不用意にボディータッチをしたことくらい。


勉強も、ちんぷんかんぷん。


礼儀作法も全く身につかず、魔法すら使えない。


異世界に召喚された時に与えられた力は、言語能力のみ。


確かに、どの国の人間と話してもミナには日本語に聞こえ、それに受け答えすれば自動で相手の国の言葉に翻訳されることは素晴らしい特典だろう。


しかし、それを使いこなす頭と品位がなかった彼女は、恋愛関係にしか興味がなかった。


だから、何故ここまで彼らが自分に心酔したのか、ミナですら分からないのだ。


ただ、物語の主人公なのだから、これくらい当然だと思っていただけ。



「こんなラスト知らない!私、悪くないもん!」



何故、こんなことになってしまったのか?


それに対する答えは、ここに至るまでの全ての人間の行いの中にあった。


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