8 肉体と魂と
ーー私は人を殺してしまったのだ。
「初めて人を殺したんだな」
(うん……殺した。殺したのに)
「人を殺したのに、何も感じないか?」
どう返答したらいいかわからない。
どうせ今の私の言葉も、全部お父さんに筒抜けなのだろうが、自分自身ですら今感じるこの感情がどう言ったものなのかわからない。
私は間違いなく生きている男性二人を、数日護身用としてお父さんに貰った水の魔石の欠片を使って溺死させた。
そうしなければ殺されていたのは私だった、だけど……
「怒りに身を任せて殺してしまったんだな。第二王子のことを思い出して――自分の子供と重ねて」
(うん……私は怒りに身を任せてそのまま殺した……一番嫌いなあの男と同じようなことをしてしまった)
「エル。お前の想像したその男が何者なのか知らんが、お前の選択は正しい。勿論怒りに身を任して殺したのはダメだ。だが、相手は敵。今は妙な感覚が少し続くだろうが、お前の選択が間違いじゃない以上。すぐにその感覚は無くなる」
(それは持論?)
「そうだ。それに今のお前は子供。感情が抑えられないのも仕方がない」
(体は子供でも心は31だよ)
「お前のいた世界で、どう考えられていたか知らないが、体が子供の時点で魂の年齢は関係ない」
(どういうこと?)
「今お前は自分の年齢が31と言ったがそれは過去の体でお前が生きてきた記憶と経験であって、その体の記憶と経験ではない。だから怒りを抑えることが今まで出来ていたのだとしても、その体で抑えたことがない以上。以前同様には抑えることは出来ないし、心が怒りを感じてしまった以上ーー子供のお前ではその怒りを直ぐに鎮めることはできない」
少し考え込む。
今のお父さんの話だけでは理解することは出来ないが、それでも心――魂の年齢と体の年齢が違うと何らかの影響があるということなのだろうか?
「その理解であってるぞ。いくら魂が成熟していたとしてもその外側である肉体が未熟のままではその魂の能力を正常に発揮することは出来ないし、その逆も同じだ」
また心を読まれた。だけどお父さんの言葉で何となく分かったが、思ったことを今の私は、思った通りにしてしまうということなのだろう。
「それじゃぁ、とりあえず。儂は片づけるか……」
と、一言ぼやき。
先ほど取られてしまった真っ黒のネックレスを私の首へとかけてきた。
(その二人。このネックレスが目当てだったみたいだけど、これって一体何なの? 前聞いた時に何となくは聞いたけど――それだけじゃないでしょ?)
「そうだな……話しておくべきか......少し待て、これを片付けたら話してやろう」
(それでこのネックレスって何なの? あの二人は神具だとか――龍帝の認証盤って言ってたけど)
「それが全てだ」
両手を偉そうに組みながら、うんうんと私の言葉に頷いてくるお父さんを睨みつける。
「流石にそれだけでは、納得できんわな……」
あの二人の死体をお父さんは何処かへ片付けた後、今首にかかっているこの真っ黒のネックレスについて説明し始めた。
「まずは認証盤のちゃんとした説明だが認証盤に記録石――赤い宝石が付いているだろ。前も言ったが認証盤はその記録石の中に保存される自分の情報を管理確認する為の道具で、記録石の中に金銭を入れれば商業ギルドと言われるものに登録してある店なら認証盤を返して支払いができる」
(お父さんそれは前も聞いたから、この認証盤が何で狙われたのかを教えてくれない?)
「確かにそうだな……先ほど龍帝の認証盤と言ったが龍帝とは先月話したフリークのことだ。フリークのことは覚えているな?」
(うん。仲間の神様と色々すごいことした人でしょ?)
「いろいろ話を飛ばしてるが……まぁ、そうだ」
フリークについての説明を今更するのも面倒だった為、簡略的に伝えたつもりだったのだが苦笑されてしまう。
「フリークは神々とともに数々の偉業を残したとされているが、それと同時に数々の物を創り出した。それも偉業と言えば偉業だな」
(それがこの龍帝の認証盤なの?)
「そうと言えばそうだが、厳密に言えば違う。フリークが作ったとされるものは、認証盤や記録石。そのほかには教会やその他ギルドの全ての仕組みを一から全て作ったのだ。そのフリークが、自身が創ったその仕組みに干渉する為、自身や仲間達に持たせたとされるのがその龍帝の認証盤だ。例えば今お前のランクやステータスを今その認証盤によって擬装しているが、普通の認証盤ではそのようなことはできん。そして前は言わなかったがその記録石には他にいくつもの力があって、例えば……」
お父さんが魔石がたくさん入った入れ物から、一つの真っ黒の石――火石を取り出して渡してくる。
(私その大きさのは持てないよ?)
「持たなくていい。触れて「しまえ」と、念じてみろ」
(しまうって、どこに?)
「その認証盤にだ」
(――うそぉ!?)
言われた通り、真っ黒のネックレスに渡された魔石をしまうよう念じてみると手元から突如としてなくなり。
ど声行ったのかと思って、周囲を見渡してみるがどこにもない。
(これって……)
「そうだ。認証盤の中に収納されたんだ」
(どれだけでも収納できるの!?)
「流石に無限ではないが、大抵のものはしまっておくことができる。ただ生き物は入れることができないがな」
(ほかにも何か別の力とかあるの?)
「そうだな……あまりいいとは言えないが、通常は教会で記録石に金銭を入れ、金銭を入れた記録石を認証盤につけることで、商業ギルドへ加入している店での支払いが可能になるが、龍帝の認証盤なら金銭を入れてなくても、支払いが可能になる――言い換えれば、金がなくても店側が商業ギルドに登録してさえいれば、何でも買うことができるということだ」
(それって、後からバレないの?)
「バレない。昔儂も気になって1年で1000000G使ってみたが、何も言われんかった」
(1Gの価値ってどの程度なの?)
「お前の前いた世界でいう100円だな。まぁ、多少違うがその程度だろう」
(…………)
「どうした急に黙り込んで?」
黙り込むも何もない。
なぜお父さんは私の元いた世界の通貨を、その価値を知っているんだ?
「おっ、いかん……」
お父さんが何か口を滑らせてしまったかのように、いや――口を滑らせどう言い訳をしようか考えている顔をしている。
(どう言うことですかね? 私の考えてることが分かるだけじゃなかったんですかね?)
「いや……うん。その説明はまた明日しよう! 儂は今回の一件を王へ報告しなければならん。では! っと、そうだこれを一応渡しておくぞ!」
私の頭の横へ水の魔石の欠けらを三つおいてきた。
「二つはついさっき認証盤にしまった時のよう入れておけ。一つはいつでも使えるように枕の下へ。それと認証盤にしまったものは念じればまた出てくる。では、儂はいく!」
(ちょっと待て! ちゃんと説明しろー!)
お父さんはものすごい速さで説明をした後、部屋から飛び出るように出て行く。
(後で帰ってきたら、全部説明してもらうからね!)
誤字脱字わからない表現があれば教えてください。
意見大歓迎です。ありがたく読ませてもらいます。
順次修正して行きます。