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幻想師エルの波乱な先憂  作者: 狸ノ腹
エルの誕生
11/11

フェル・バルレッチの1日 その1

[災暦(さいれき)1482年8月10日14:20]


「はぁ〜。さて、どうしたものか……」


 アドルエ王国――王城の回廊。

 王が待つ部屋へ向かいながら大きなため息を吐く、何も王と会うのが嫌なわけではない。

 ため息を吐いた理由。それは我が息子のエルと、数日前。共に風呂に入った時から口を聞いてくれずーー目も合わせてくれないことを悩んでいるからだ。


 いや考えてみればエルの思考を理解するための『画楼門』を解いてしまった以上。会話が出来ないのは当然といえば、当然なのかもしれないが――それでも、目すら合わせてくれないと言うのは少々……かなり辛い……


「いったい……どうすれば……」


 両目を瞑り考える――が、これといった策は浮かばず。

 途方に暗ながら目を開ける。

 周囲を見れば、数名の侍女達がこちらに頭を下げていることに気づき、軽く微笑みを返す。


 元々エルは女。

 深夜と言えど、数名の男がいる大浴場に行ったのはマズかった……とはいえ。今、エルは男。

 ああいった環境にも馴れ無ければ今後問題になることがきっと出てくるはず……そうだ! 問題になる! エルは数年後には第一王女の守護騎士になる。

 と、言うことは学園都市にも行くことになり、男性用の共同浴場に浸かるのは確実。

 ならば今のうちから男風呂に免疫をつけておく必要がある!

 そうと決まれば、王との話をさっさと終わらせ、可愛い我が子を連れて風呂へ行かねば!


「やぁ、やぁ、バルレッチ殿。随分と楽しそうな表情をしていますが、何かいいことでもあったのですか?」


 面倒な人物の声が聞こえ、緩んでいただろう表情を引き締め、儂の名を呼ぶ男――国王の実の弟であり、今では国王よりも多くの支持を得ている男の顔を見つめる。


「これは、殿下。恥ずかしいところを見られてしまったかな?」

「ハハ。恥ずかしいことはないでしょう。あぁ、そうだ。数日前に耳にしたのですが、お子さんが誕生されたとは本当でしょうか?」


 ニコニコと笑いながら質問してくる殿下に対して、笑顔を返す。


「恥ずかしながら、王女が生まれる2ヶ月ほど前に無事生まれました」

「いや、いや。さすがは我が国の参謀。そして大戦の際に数々の勝利を収めたお方だ。そうそう、南のダンジョンで現れた凶悪な魔物に対して、片腕を失いつつも無事討伐していただけたことにも礼を言わねばな……だが、老いたな。昔のようなギラついた目が今ではもう。その輝きを失っている」

「…………」


 急に殿下が真顔になる。


「言い返さないのか?」

「言い返すも何もない。殿下の言うとおり、儂にはもう昔のような活力はない。生きて後10年と言ったところ」

「後10年ですか、それはまた……何とも反応しづらい寿命ですね」

「殿下の寿命も見てあげましょうか?」

「いや、結構。あなたの鑑定はよく当たる。そして聞くところによると外れたとしても、長生きするものはいなく。皆その寿命の前に死ぬと聞く」

「偶然ですよ」

「まぁ、偶然だろうとやめておこう。兄のところへ行くのだろ? 足を止めさせて申し訳なかった。元気に子供が育つことを、同じ父として祈っているよ」


 頭を軽く下げ、殿下が立ち去るのを待ち。

 立ち去ったのを確認して「はぁ〜」と、短いため息をつき。


「残りの寿命は50……。か……」


 と、言いながら。外の景色を見ながら一人考える。


 『生命鑑定』を使って知り得た殿下の寿命は、国王の残りの寿命を倍以上。儂の寿命も残り10年と言ったところ。

 支持率は殿下に軍配が上がり、国民からも慕われている。

 そしてついには数日前。数年前から国王専属の兵が、エルの持つ龍帝の認証盤を奪いに来て、国王専属の兵の中にも、殿下派の人間がいることがわかった……


 エルが兵を殺してしまったことには少々驚いたが、エルが死なず――今はなき第二王子を殺した者を、国王へ生きたまま合わせずに済んだのは幸いとも言える。

 もしも、国王と第二王子を殺した者を生きたまま合わせることとなれば、王は怒りに飲まれ。殺した者の家族や子供らまでも殺し、暴君となって国民からの支持を今以上に失い。

 反乱――暴動と言ったことになっていたかもしれない。


 一度の失態で、ここまで王の地位が揺らいだ。きっと二度目の失態を犯せば、すぐに王の地位は失墜してしまうだろう。


「コードヴィルとの争いを避けた結果が、これか……」


 過去のことを悔いたところでどうしようもない。

 が、たった一度の失態――いや、その処理を誤ったことによって活気よく。王と殿下すら多少憎み合えど、必要な時には手を取り合っていた。


 それなのに、今では気を抜けばお互いを本気で殺そうとしている。そんな現状を思うと、どうしても過去のことを考えずにはいられない。


「バルレッチ様。こちらに御出ででしたか、国王様がお待ちしておりますよ」


 外の景色を見ていると、後ろから老いた女の声が聞こえ。


「侍女長……痛いのだが……」


 腰の肉をねじ切るが如く、つままれてしまう。


「あら、腕を失くした後、何も聞くなと私に言い。突然連れてきた赤子の服などを用意させた挙句。若い侍女を変な目で見て自室へ連れ込むような人に、まともな神経が通っていただなんて驚きました」

「いや、変な目で見ていたのは否定しないが、部屋へ連れ込んで赤子の世話のやり方を聞いただけで、いかがわしいことは一切していないぞ!?」

「知っていますよそんなこと、もし侍女達に昔のようなことをしていれば今あなたは生きていませんよ?」


 侍女長はそう言うと儂の腰から手を離した。

 その顔を見ると、昔同様のお堅い表情を浮かべ、表情だけではその心意を掴むことができない。

 昔と比べそ髪は綺麗な茶色から白髪に変わり、いくつものシワが出来てしまったが、その瞳だけは昔と何も変わらなかった。


「お前と言う奴は変わらないな……」


 自分とは違い。今だに活き活きとしているその目を見て、苦笑する。


「――っと、王が待っているのなら行かねばな。そうだ、第一王女の様子はどうだ?」

「元気ですよ。母子ともに何の問題もなく……」


 困ったことがあるのか、珍しく侍女長が口ごもった。


「どうした?」

「いえ、国王様が王妃様や王女様のことを大切に思っていることはわかりますが、一日中警護をつけるのはできればやめていただきたいですね。王妃様がたは気にしていないようですが、侍女達が怖がっています」

「あぁ、そのことか……」


 王女が生まれて以降。殿下が下手に手を出すことはないとわかっているが、それでも王にとって大切な妃と娘。

 何かあってからでは遅いと言うことでかなり厳重な警備によって現在24時間体制で屈強で信頼厚い騎士12名にて2交代制で常に6人が室内・室外共に警備を行っている。


「やはり刺激が強いか?」

「刺激と言うよりも、侍女達は何か粗相をしてしまえばその場で斬られてしまうのではないかと思っているのです。貴方もお分かりでしょ? 彼女達は過去の惨事を知っている。一歩間違えば彼女達自身が犠牲になり、国王様にとって自分たちは守る価値もない道具なのかもしれないと、心の中で思っているのです」

「そうか......儂から王に言っておこう……」

「そうしてください。それと貴方のお子さん。今一人で部屋にいるのでしょ? いいのですか一人にして、王女様よりも襲われる可能性が高いと思いますが……」

「エルなら大丈夫。心配いらない」

「ーー貴方と言う人はふざけているのですか! まだ子供もし襲われれば貴方と違い身を守ることなどできないのですよ!」


 大きな声で怒鳴られ、睨まれてしまう。

 確かに侍女長が言うとうり、傍目から見ればエルは生まれたばかりの子供。

 先日襲われた件も儂が部屋に戻った時はちあわせたと言うことになっており、エルが殺したと知るものは誰もいない。


「確かにそうだな……すまなかった。儂の注意不足だ。何か策を考える」

「……わかればいいです。さぁ、早く国王様の元へ行ってください」

「そうさせてもらう」


 侍女長に背を向け王が待つ部屋へと再び歩き始め、相も変わらず、昔同様叱ってくる侍女長に苦笑した。

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