7.公爵家長男 3
「さぁて、ジョゼアちゃん。洗いざらい吐いてもらいましょうか。」
私が二日酔いがさめ、だんだんと記憶を取り戻してきた矢先に寮部屋でローレシアは寝巻を着たまま私に言ってきた。
「…何を?」
私はしらばっくれてそう言う。
「とぼけても無駄よ。お昼のとき、アーサー様となにかお話してたんでしょ?2人だ・け・の♡」
「キモい想像をするなぁ!」
ローレシアは語尾にはーとをつけてそう言った。ローレシアに向かってめいいっぱい枕を投げる。
「うわぁ、ごめんごめんって、ジョゼア。…で?ほんとはなにがあったの?」
「…大したことじゃないんだよ?」
私はたまたま酒場でアーサー公爵と会って私が転移異能を使えないため、仕方なくアーサーの馬を奪って帰り、お昼の時に馬を返せと言われ、謝罪をしていたということを話した。
「ね?大したことじゃないでしょ?」
「そうね。…とは、ならないわよ!」
ローレシアはそう言って、さっきの私の倍返しかのように枕を投げてきた。ビュンっ!ってはやさで顔面に命中をする。
「あのアーサー様が酒場に!?あ、想像するだけでイケメンだわ…。って、なんであんたは馬を盗んでいるのよ!」
「いや、それはなんていうかこう…。自分の意志関係なく動いちゃった感じ?」
選択肢のせいで自分の意思じゃなかったし。
「…あぁ、そうね。あんたは酒癖が悪いんだった。」
ローレシアは頭を抱えていた。
んま、酒癖が悪いのは事実だけどさ。
「…じゃあ、アーサー様とはなにもないの?」
ローレシアは可愛くそう言ってきた。
そういえば、ローレシアはアーサー推しだよね?やっぱり、アーサーとくっつきたいんじゃ…?
「うん。」
すると、ローレシアは急に「あぁぁ。」とこの世の終わりかのような声をあげた。その様子に思わず唖然とする。
「せっかく私の親友がアーサーとくっつくと思ったのに!」
「…へ?」
「へ?じゃないわよ!私の推しと私の親友がくっつくんだよ?もう、最高じゃん!んで、私があなたたち夫婦の家にジョゼアの友達として行くの。そして、アーサー様に「ジョゼアのお友達?いつもありがとう。」って言われるのが夢なの!」
「ん?ちょっとまってまって。一体なんの妄想よ。」
「アーサー様とジョゼアが夫婦になる妄想。」
私はその言葉に思考が停止した。
あの、無愛想男が私とけ、結婚?しかも夫婦?
「…ならないんじゃないかな?」
選択肢がやばくなると思うし。まぁ、できるならしてもいいけどさ。いや、無理だよ多分。めっちゃ嫌われてるだろうし。
「ん〜?まぁ、でも加護持ち主のジョゼアにもあのアーサー様がやっぱり振り向くことはないのかぁ。」
ローレシアの呟く言葉数々に私は「はやく寝ましょう。」とだけ言った。
✧✧✧
翌日。私は遅刻マン、ローレシアを置いていつも通りにすばやく教室に行っていた。すると、アーサーのファンになにやら事情聴取させられる羽目となり、空き部屋に連行をされた。
「あなた、一体アーサー様とどんな関係なのかしら?」
侯爵令嬢、多分ゲームだと悪役令嬢だった女が私にそう言ってきた。多分だけど、名前はアタナシアだったと思う。多分だけど。
彼女は私の前に優雅に紅茶を飲んでいた。縦ロールの髪はめっちゃ悪役の雰囲気を醸し出している。
「ちょっとなんとか言いなさいよ。」
「平民である私が侯爵令嬢であるアタナシア・シャトルバス様にお言葉を発してもよろしいのですか?」
私の言葉に周囲は唖然としていた。アタナシアは紅茶をティーカップの上に置き、コホンと咳払いをして口を開いた。
「あなたは平民でしたが、今や聖女です。私に言葉を発する権限はありますわ。」
その言葉にフッと笑みを零す。そして頬に手を当て、話し始めた。
「実は私、アーサー様が都市に降りている時にばったり会ってしまいまして…。先日はその件で内緒にしてほしいと言われただけなのです。アーサー様は平民の暮らしをこの目で焼き付けておきたかったと言っておられたとてもお優しいお方でした。」
嘘だけど。
私の虚言癖ばっかの名演技を聞き、アーサーファンたちは涙目を浮かべていた。アタナシアまでだ。
「アーサー様。なんて聡明なお方。」
「お優しいのに表に出さないのがまたいい!!」
「これぞ、我ら推しですわ。」
私はその様子に「なんなんだこのグループは」。と思わずツッコみたくなってしまう。
いやね。私もね。イケメン好きだから分かるよ?でもさ、そんなグループになってまで推す必要なくない?同担拒否とかいないの?大丈夫?
「コホン。つまり、あなたとアーサー様は何も関係がないと?」
「はい。」
あんなイケメンとそんな関係があるなんて。選択肢が出るから無理です。
私の真剣な様子にアタナシアも理解してくれたようだった。安心して、教室へ戻ろうとすると、手を掴まれる。
「お待ちなさい。あなた、このグループに入りません?」
私はその言葉に笑顔のまま固まってしまった。
ん?
「聖女って聞いたわ。他にもグループがあるけれど、あなたが入ればこのグループは有利になる…。どう?入らない?」
ん?なんで悪役令嬢が主人公を勧誘しているの?バグかなにか?
まぁ、だとしてもーー
私は口角をあげ、思いっきり言い放った。
「私は同担拒否なので!お断りします。では!」
「ちょっと待ちなさい!せっかくアタナシア様がお誘いになられたのですよ!」
「無礼じゃないの!」
私は取り巻きどもが言う言葉を耳を塞いで聞かないようにする。
さぁて。授業授業。
「…私、こんなにムカついたのは久々ですわ…。」
アタナシアは立ち上がり、私に指を指して言ってきた。
「ジョゼア・ライングレア!私は負けませんわよ!」
なにを?
私はわけが分からず、部屋から出た。パタンと扉が閉まる音。
「なんだか無駄に脳を使った気がする…。」
「それは災難だな。」
私の呟きに扉のすぐ真横にいた男は返してきた。その人物を見るなり、驚いたが、男は人指し指を口元に持ってきて、ある仕草をした。私はその仕草通りに静かにする。
な、なんでここにアーサーが!?
「いつからいたんですか?」
小声で聞いた質問にアーサーも小声で返してきた。
「お前が連行をされた頃からだな。」
その言葉にポカンと口を開けてしまう。
悪役令嬢。あの会話、全部聞かれてたってさ。
「ん?というか、なんで私が連行されていたことを知っているのです?」
「たまたま見かけただ。」
わぁお。すごい偶然。
そのときだった。なんとウィンドウが登場した。
『ーー公爵家長男にたまたま見かけただけと言われたが…。1.私の身体目的ですか?と真面目に聞く。2.私のストーカーですか?酒場にいたことは内緒にしますから。3.どれだけ私を気にしてるんですか〜と笑う。注意。返答はアタナシアに聞こえるようにしよう。』
…え?なにこの注意書き。返答はアタナシアに聞こえるようにしようって私も含め、アタナシアも地獄じゃん。えーっと、1は駄目。2も駄目。んじゃあもぉ!
私は3を押した。
「それ、ほんとですか?でも、アーサー様クラス違いますよね?どれだけ私を気にしてるんですか〜。」
からかうかのようにアーサーにそう言った。
やっべ。怒られるかな?
チラッと見るも、いつもと変わらない冷徹顔。
効果なし。よかった〜。一安心。
「では、私は教室に戻りますね〜。」
選択肢増えたりしたら嫌だし。
アーサーは無言で曲がり角を曲がっていった。すると、そのときだった。アタナシアのいた部屋の扉が開いた。
「ちょっとジョゼア・ライングレア!アーサー様に対して不躾ではございませんか!」
「っげ。アタナシア様…。」
「私に対してもその態度ですの?」
「同担拒否ですので!」
2人が言い合っている中、アーサーは曲がり角を曲がってすぐの壁にもたれかかっていた。
俺があの女を気にかけていた?確かにそうかもしれない。クラスは違うというのに、なぜあの女のクラスの前に?それに…。
『私は同担拒否ですので!』
扉越しに聞こえたこの言葉が頭から離れない。
ーーなんでだろうな。
『ーーピコン。アーサーからの好感度が13増えました。』




