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異世界行っても料理する ~料理して材料集めてまた料理~  作者: デビルぱんだ


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七十八話 勇者参上

 『本格的な大浴場』を完成させて、城への導入話や王族たちとのピザパーティーを終えてからしばらくの月日が流れていた。


 子どもたちのアルバイトはいまや完全に板につき、仕込み、掃除、皿洗いだけでなく、配膳や客対応まで完璧にこなしている。


 店は相変わらず大繁盛。アイリス、ルナ、セリア、そして俺の四人体制の完璧なチームワークで怒涛のピークタイムを軽々と裁いている。


 昼のピークを過ぎたあたりで俺はカウンターの奥で「そろそろグランドメニューに新しい風を吹き込むか……もしくは季節の食材を使った新メニューでも開発するかね」などと腕を組んで考えていた。


 そのときドアが開いて客が入ってくる。

 入ってきたのはこの店が「初めて」という雰囲気をまとった四人組の冒険者パーティーだった。王都の冒険者はガラが悪いやつも多いが、彼らからは感じられる空気が違っていた。


「あの……すみません。ここが噂になっている『定食屋 つむぎ』さんで……?」


 先頭に立っている青年が恐縮した様子でおそるおそる声をかけられてきた。


「はい、いらっしゃい!そう、ここが『定食屋 つむぎ』だ。空いてるテーブル席へどうぞ!」


 俺が気さくに声をかけて、四人はほっとしたように胸を撫でおろし、テーブル席へ腰掛けた。


「噂通り、清潔で素晴らしいお店ですね……」


 先ほどの青年が呟くと、女性の一人がメニューを目にして小さく悲鳴を上げた。


「あ、アレル様……見てください!お品書きに書いている料理の名前が……聞いたこともないものばかりです!」

「えぇ……?『からあげ定食』『トンカツ定食』『カツカレー』『しょうが焼き』……?魔法の呪文……?」


 もう一人の女性が目を丸くし、アレルと呼ばれていた青年が首をかしげる。


「すみません、店主さん!」


 アレルが申し訳なさそうに手を挙げた。


「実は、冒険者ギルドや街の人たちから『王都で一番美味しい店がある』と聞いてずっと気になっていたんです。ただ世間的には疎くて……この『定食』とか『カレー』とかはどんなお料理なのでしょうか……?」


 俺は厨房から席まで移動して丁寧に説明した。


「ハハハ、初めてならしょうがない!よし、説明するよ。とりあえず『からあげ』は特製のタレに入れられたココ鳥をサクっと香ばしく揚げたやつだ。一時期屋台で人気になったやつな。そして『トンカツ』はボア肉にパンの粉をまとわせて揚げたやつ。カレーは何種類ものスパイスと野菜、肉を煮込んだスパイシーなもの。『定食』ってのはメインのおかずに、炊きたてのご飯、温かいスープついた、満足度最高のセットのことだな!」


 俺の説明を聞いている間、4人の喉が「ゴクリ」と鳴る。


「すごい……説明を聞くだけでおいしそう……!」


 一人の女性が両手を頬に当てて身悶えする。


「よし……!では僕は『からあげ定食』エレナが『トンカツ定食』バルトが『カツカレー』サラが『しょうが焼き定食』をお願いできますか?」

「はいよ!すぐに作るから待っててくれ!」


 俺とアイリス、ルナは調理に取りかかった。ジュワァァァァッ!という快音とともに揚げの香ばしい匂いが立ち込め、スパイシーなカレーの香りが店内を満たしていく。


「お待たせしました!揚げたて・出来たてだから熱いうちに召し上がれ!」


 テーブルの上に並べられた極上の料理たち。黄金色に輝く唐揚げ、きつね色に揚がったトンカツ、薄切りながら存在感があるしょうが焼き、控え目なブラウンのカレーソース、そしてツヤツヤと輝く白いご飯。


「な、なんと美しいのでしょう……!いただきます!」


 エレナと呼ばれていた女性が我慢できずにトンカツにかぶりついた。


――サク……ジワァァァッ!!


「~~~~~~~~~ッ!?!?」


 エレナの丸い瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれた。


「おい、エレナ!?どうした!?」


 アレルが目を疑うと、エレナは恍惚とした表情で叫んだ。


「お、美味しすぎますぅぅぅっ!まわりがサクサクで、中のお肉から甘い肉汁があふれて……この濃密なソースとの相性が悪魔的ですわ……!私、今まで何を食べて生きてきたのか……っ!」


 続いてアレルが唐揚げをパクリ。


「……っ!!か、軽い……!なのに旨味が爆発する……!この白いご飯ってものと一緒に食べると信じられないくらい箸が止まらない……!こんな贅沢なものを食べていいんですか……!?」


 バルドはカツカレーを一口食べて固まった。


「ガハッ……!う、うんめぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!何だこの辛くて深くて旨いドロッとしたタレはぁぁぁっ!トンカツってのと組み合わせが完璧すぎるだろォォォっ!!」


 と、机を向いて大号泣しながらガツガツとカレーを貪り食い始めた。

 サラもしょうが焼きを猛烈な勢いで口に運んでいる。


「……なんでこんなにおいしいの?普通にボア肉焼いただけに見えるのに……。これは革命ね……」


 四人はひたすら狂喜乱舞。定食のボリューミーな量をあっという間に完食してしまった。


「ごちそうまでした……!本当に人生で一番美味しいお食事でした……!こんなに感動したの初めてです……!」


 アレルが何度も深々と頭を下げている。

 そこに店のドアが開き、常連のベテラン冒険者グループが入ってきた。


「おう、カケル!今日もトンカツを……って、おい!?なんでこんな所に『勇者パーティー』がいるんだぁぁぁっ!?」


 常連の叫び声に、俺は無意識に耳を疑った。


「え?勇者パーティー……?」

「おいカケル、知ってるのか!?こちらの青年が勇者アレル様だぞ!となりが聖女エレナ様、天才魔導士サラ様、剛腕のバルド様だ!冒険者なら知らねえ奴はいねえよ!」

「えぇっ!?この腰の低い青年が勇者!?」


 俺が驚くとアレルは顔を真っ赤にして必死に手を振った。


「や、やめてください!勇者なんて大層なものじゃないんです!勇敢なのはただ仲間に恵まれて、たまたま運良く得られただけのしがない剣士で……!カケルさんの作る料理の足元にも及びませんから……っ!」


「また絶対に来ます!ごちそうさまでした!」と何度もペコペコお辞儀をしながら、四人は大満足の笑顔で店を去ってしまったのである。


 その後常連の冒険者に聞いたところ、どうやら勇者はかなり活躍しているらしく危険な魔物を幾度も退治し各国を守っているとのことで、立場的に言うと貴族のトップくらいには偉いらしい。

 ……かなりフレンドリーにしゃべっちゃったけど、後でお咎めくらうとかないよね?


 勇者パーティーの衝撃的な来店から数日後。


 その日もランチタイムが終わりのんびりしていた時のことだ。店の扉が開き、勇者アレルが一人でやってきた。今度はいつもの旅装ではなく、少しフォーマルな上着を着ている。


「カケルさん、こんにちは……!こんな時間にすみません……」

「アレル様。いらっしゃいませ。本日はお一人でお食事でしょうか?」


 真面目に敬語で話してみたが「そんな!敬語とかやめてください!前みたいに話してください!」と言われたので遠慮なく。


「はは、すまんな。まぁとりあえず座って。なにか食べるか?」


 アレルは少し真面目な面持ちで笑顔で帽子を下げた。


「いえ、今日は……カケルさんに『お願い』があってきました。……実は、近々この国で各国の王族たちを集めた『大規模な種族会議』が開催されるんです」

「種族会議?」

「はい。毎年開催されているんですが、今後の和平や貿易についての非常に重要な集まりなのです……単刀直入に言いますと、そこで提供される『食事』の担当をぜひカケルさんのお店にお願いしたいです!」

「俺の店に……!?そんな大事なところの料理を!?」


 思わず声を張り上げてしまった。俺はただの街の定食屋の店主だぞ。


 アレルは申し訳なさそうに説明を続けた。


「実は、毎年格式ばった宮廷料理を食べていて、形式的なものなので雰囲気が重くなりがちなんです。実は僕、真面目に『カケルさんにお願いできるよう許可をいただいて行こう』と城へ向かったのですが……国王様には『何を言うか!カケルの料理なら最初から国内一番じゃ!私からも直接お願いしに行こうと本気で思ってたところだ!』と高く評価していて……」


 勇者アレルがお願いに来る前にすでに国王も「料理はカケル一択」と決まっていたらしい。


「……というわけなんです。カケルさん、急な話で本当に恐縮なのですが……僕からもどうかお願いできませんか!カケルさんの料理なら絶対に他の国の偉人たちも笑顔になれるって確信しているんです!」


 アレルは真っ直ぐな目で、そして深々と頭を下げた。


(種族会議の食事担当ねぇ……。ただの定食屋の俺にそんな大役が回ってくるとは思わなかったが……)


 隣で話を聞いていたアイリスやルナ、セリアも「カケルさんなら絶対に成功させられます!」「私達も全力で手伝います!」と言ってくれている。


「よし、分かった。とりあえず、ざっくりとした規模や参加者の好みなんかを理解しないとな。まずは王と直接話をして詰める必要があるな」

「本当ですか……!?ありがとうございます!では今からお城へ向かいましょう!いますぐです!」


 とりあえず俺は『種族会議の食事担当』という仕事に巻き込まれることになったのである。

 どんな無茶振りがあるかわからないが、やるべきことは一つだ。美味い飯を作って、全員を唸らせる。


 俺はアレルとともに王城へ向かって足を踏み出した。



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