八十九話、君に、炎を捧ぐ
数日後。
叔父様が屋敷に帰ってきたと、侍女から手紙が届いた。一応帰ってくる旨は伝えておいた。
帰って来てすぐに、隅っこの私の母の墓に佇んで。今は晩酌しているらしい。
「セレスタ、行ってきたら?」
「分かりました」
陛下と夜。
ヴァルディス様が立ち合いで結婚式を挙げる話をしていた。
誰も知られない結婚式。
いつか公でも披露したい。
そう二人で話していた。
その後、屋敷の道を歩いていた。
――来てくれるかな?
ドキドキしながら歩を進める。
ドアに立って、待つ。
――ああ、もう一人で開けられるんだった。
寂しさを覚えながら、扉を開けて、「ただいま戻りました」と声をかける。
誰もいない。
使用人たちも配慮してくれたのかな?
叔父様の書斎に行く。
ーーが、いない。
食堂も、広間もいない。
侍女が私を見兼ねて場所を教えてくれた。
「お嬢様……旦那様は庭園の見える、バルコニーにいらっしゃいます」と、言って下がった。
バルコニーか……。
食堂の奥。
ガラス貼りで庭園を一望できる場所。
暗がりに、月白、墨色、青藍。
それぞれルミナリアが庭園を輝かせていた。
その煌めきは、叔父様を励ましているのか。それとも私が伝えようとしている後押ししてくれているのか……。
定かではない。
――けれど、と彼を呼ぶ。
「叔父様」
「セレスタ、お帰り」
こちらを見ず、一言。
それを見て、確かめたいことを実行する。
セレスタ、と呼んでいた。
多分、今は素の叔父様のはず……。
円状のテーブル。
その椅子に座る。
ちょうど叔父様の正面。
叔父様は目を逸らした。
「……」
――これだ。
私も最初陛下に指摘された。
恥ずかしかったら目を逸らす、クセ。
(叔父様からこれも移っちゃってたんだなぁ……)
だから、今度は叔父様の左に座る。
「…叔父様」
「……」
今度は前の庭園に向けた。
だから再び私は正面に座った。
――が、結局俯かれた。
意地でも顔を見ないつもりらしい。
「……セレスタ」と呆れたように、呟く。
「はい」
「もう、君の場所はあるだろ」
陛下の隣。
――と言いたいのだろう。
しかし、今回は誘うという使命がある。
過去、確かに私を檻に入れた。
行いは褒められるべきじゃない。
でも、それは守るため。
そんな人を無碍にしたくない。
「会いに来たのは理由があるんです。――私、結婚式、挙げるんです」
「……じゃあ、何か手向けでもやろう……君が受け取るかは別だ」
そう伝えた彼は、しばらく躊躇していた。私が受け取らないと思っているのだろう。
ようやく左手を。
震える手を差し伸べてきた。
そして、黒い焱を出した。
攻撃じゃない。
そっと、両手で受け取った。
暖かい闇を。
それは私のゆっくりと胸の中に入っていく。
ホッと肩を撫で下ろしていた。
「ありがとうございます。――それと、結婚式のヴァージンロード歩いてくれませんか?」
「な、何……?」
「ヴァージンロード」と反芻してみる。
肯定してくれない。
ーーが、拒否もしない。
にこりと笑ってみせる。
月の瞳がチラリと私を見た。
「い、行けたら行く……」




