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三十七話、冷たい卓、燃える眼差し


 帝都中央塔の一室。

 そこは“会談室”と名付けられながらも、まるで戦場のようだった。


 壁一面には、帝国領土の立体地図。

 各地の魔導線や流通路が、光の糸として網のように張り巡らされている。

 中央には、長方形の重厚な金属製の卓。

 反射する魔道金属の冷たさが、無言の圧を放つ。

 あくまで“話し合い”ではなく“駆け引き”を目的とした配置だった。

 照明は天井から吊るされた多角結晶の魔導灯。

 その光は白金色。

 温もりよりも清潔さを際立たせる。

 周囲の棚には、軍備予算書や研究資料と思しき魔導式の保管装置が整然と並んでいた。



 音はない。

 香りもない。

 けれど、机の上にはきちんと用意されている。

 国章入りの水差しと、透明なグラス。

 まるで“この場でどんな話をしても、それは記録される”かのような空気。

 イグニスの王宮とは何もかもが違っていた。


 あちらが“人と炎”なら、こちらは“機械と影”。




 そして――


 このどこかに、あのラザリがいる気がした。

 まだ本人さえもいないのに、見られている気配だけが、確かにあった。


 椅子に腰を下ろした。


 隣では、バリストンが無言のまま座っている。

 パーティのあと、一言も喋っていない。

 けれど、なぜか彼の存在はずっと“音”を立てていた。


 視線を向ければ、脚は組まれておらず、姿勢も崩れていない。

 なのに、空気の流れすら彼を避けるように感じるのは、気のせいだろうか。



(……まだ、何かあったのか?)



 だが聞かない。

 今の彼に問いを投げても、答えが返ってくるとは限らない。


 この部屋には窓も時計もない。

 けれど、時間だけが正確に流れている気配がある。

 光の届かない空間の中。

 静かに待っていると、会談室の扉が開かれた。



 まず入ってきたのは、帝国の王――アルヴァイン・ヴァルトライヒ。


 金属のように光を返す銀髪。

 理想的な直立姿勢に、過不足のない威圧感。

 壮年だが、強大な軍を従える王。

 しかし、表情は冷えきっている。

 まるで“完璧な像”が歩いているようだった。



「歓迎いたします、ヴェラノラ・アウレリア・イグニス女王陛下。

 ご足労に、感謝を」


 朗々とした声が響く。

 次いで、「昨夜の歓迎パーティ、参加できず申し訳ない」と謝罪を入れた。


 確かに、あの時会って話していれば、まだ帝王の思惑が知れたというのに。


 残念だ。

 だがそれは、あくまで“用意された音”。

 言葉に熱はなかった。


 そして挨拶を終えると、アルヴァインは何も言わずに、室内の長椅子に腰を下ろした。

 まるで、もう出番は終わったと言わんばかりに。



 ──それに代わって、



「さて、では……」


 フォルシュトナーが一歩前へと出る。


 赤い瞳に宿るのは、微笑か、企みか。

 優雅に一礼しながら、声を滑らせていく。



「改めてお招きに与り、光栄の極みです。イグニスの“焔”を戴く国とこうしてまた向き合える日を、ずっと夢見ておりました」



 不愉快だ。



(その“焔”を狙っているくせに……)


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