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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
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第22話 盗賊との戦闘3


「ごがぁあああっ」


 それはオーガの最後の咆哮だった。

 ランジェとオーガが対峙してまだ数分だが、オーガは既に立っているのがやっとだ。致命傷にこそ至っていないが、既に身体中には無数の斬られた跡が見て取れる。額から生えている大きな二本の角は、どちらも根元から折られていた。

 オーガは最後の力を振り絞ると、己の体躯に見合った巨大な斬馬刀を、大上段に構えると力を溜め始める。斬馬刀がほのかに青白く光り始める。武器に何かしらのスキルを付与しているのだろう。


 -少し時間をかけすぎた。そろそろ終わりにしよう。


 大剣を正面に構え、まっすぐオーガに向ける。


 見つめあうランジェとオーガ。


 一瞬、時が止まる。


 と、オーガの全身の筋肉がピクリと動いた。


 来るっ!【瞬歩】!


 スキルを発動させ、オーガが1歩踏み出すよりも早く距離を詰める。

【瞬歩】は連続発動は出来ないが、短い距離を詰めるには便利なスキルだ。


 オーガにはランジェが消えた様に見えたかもしれない。

 事実、突然己の懐に現れたランジェを見て、驚愕した表情を浮かべた。


「遅いよ」


 ランジェの持つ大剣はオーガの分厚い胸板を貫いていた。

 オーガの瞳から急速に力が失われていく。


 ズルリと大剣を抜くと緑色の血しぶきが派手に上がる。

 オーガは両腕を上段に構えたまま、頭上に掲げた斬馬刀に引きずられるように前向きに倒れた。


「ふぅ」


 ランジェは一息つくと大剣を振るった。付着していた緑色の体液が草原に飛び散る。

 司令官も倒したし、これで残りは放っておいても逃げ出す事だろう。


 さて、周りの状況はー

 

 ぐるりと辺りを見渡す。黒髪の男が鮮やかな右ハイキックでゴブリンを倒すところが見えた。もう辺りに立っているゴブリンはいない。


 さすが。


 十体以上のゴブリンを相手にしていたはずだが、彼は息1つ乱れていない様だ。ランジェは素直に感嘆した。


 このぶんなら他のみんなも余裕かな?


 しかし馬車の方向を見て、思わずええっと声を漏らす。


 ヨースケの上にゴブリンが馬乗りになっているのが見えたのだ。


 まずい!助けに行かなきゃ!!

 考えるより早く足は動き出していた。


 -馬車まであと二十メートル


 【瞬歩】は今使ったばかりで使用できない。

 馬車の屋根の上にいる魔法使いも、ヨースケとゴブリンの距離が近すぎて魔法を撃てないでいる。

 懐からメイスを取り出しているが、間に合うかはわからない。


 -馬車まであと十五メートル


 馬車の方へ走りながら、ファイアボールを撃つか迷っていた。

 おそらくヨースケも巻き込むだろうが、魔導士とは違い自分のファイアボールは威力が低めだ。最低限の出力で撃てば、おそらくヨースケでも耐えられるだろう。後でヒールをかければいい。

 周りが草原の為、火属性の魔法の使用は控えていたのだがこの際仕方が無い。


 -馬車まであと十メートル

 

 と、ゴブリンが突然ヨースケから離れて、逃げ出すのが見えた。


 何があったんだろう。


 このまま逃がすべきか……いや!


「とどめをさすんだ。ヨースケッ!!」


 大声で叫んでいた。


 逃がして援軍を呼ばれる事を恐れたのでは無い。


 ここでヨースケがゴブリンに止めをさす事が出来なければ、おそらくこの先も敵に止めをさせない事が続くだろう。そうなれば、もはや冒険者として生きていくのは無理だろう。

 命を奪う、奪われる覚悟の無い者は、遅かれ早かれ死んでいく。そんな冒険者をランジェはもう何人も見てきた。


 だからこそ心を鬼にして叫んだ。

 ヨースケにも冒険者としての覚悟を背負って欲しかったのだ。

 

 短剣を手にしゴブリンに向かって走り出すヨースケ。

 そして二つの影は重なり、一つの影がゆっくりと崩れ落ちた。


 それを見てランジェは、ヨースケの無事に心から安堵すると同時に、ごめんなさいと小さく呟いた。



-乗合馬車内-


 

 「いやぁ、みんな中々やるじゃねえか」


 盗賊との戦闘を終え馬車内に戻った一行。


 事を成し遂げた一体感からだろうか、俺達は打ち解けていた。


「俺はジャイってんだ。カサンドラへ行く途中だ」

 黒髪短髪の男はそう名乗るとニカッと笑った。八重歯が牙の様にとがっている。


「儂はレーズンじゃ。目的地はトラットリアじゃ」

 長い槍を携えていた老人だ。これまた長い髭をさすりながら自己紹介する。勝手な印象だが魔導士が似合いそうだ。槍は今は馬車の屋根に取り付けられている。

 しかしレーズンか……名は体を表すというのか。しわっしわである。  


「トラットリア? なかなか遠いなぁ~」とジャイが笑う。


「あたしはキャミィ。行先は内緒だニャー。」

 真っ白い毛並みに赤い瞳。腕には短剣が納められているホルダーが見えるが、肉球でどうやって使うんだろう?


「内緒って聞くと余計気になるんだよなー。ひよっとしたら港町「カサゴ」か!? あそこは海産物が旨いからなぁ」と、ジャイが返す。コイツ誰とでも仲良くなれそうだな。


「ニャニャ。内緒だニャー」


 そう答えると毛づくろいをするキャミィ。


「ふぁぁ。あたしはシレットよ。さっきは危なかったわね、坊や」


 と、あくびをしながら俺に話しかけてきたのは魔導士の女性だ。俺よりは若く見えるが年上なのだろうか。耳がとんがっているのでエルフかな?

 まぁ、この世界では種族が何かなんて気にしたらキリが無いのでやめておく。 


「まぁ。なんとかね。俺はヨースケ、こっちはランジェ。さっきは迷惑かけてごめん」


 ゴブリン一体に不甲斐無い戦いを見せてしまった。


「誰だって最初はそんなもんよ。ねぇ。ふぁぁ……」とシレットがジャイに話をふる。


「そうかぁ? 俺は最初からドラゴン種や魔人種と戦ってたぜ! あっはっは! それよかヒュドラ退治の話聞かせてくれよ!」

「わしは昔過ぎて忘れてしもうたよ」

「ニャ? なんかあったのかニャ?」


 みんなフォローする気は無いらしい。でもそれが逆に気持ちを晴れやかにしてくれる。

 下手な慰めはいらないのだ。


「ねぇ。これ食べてもいいかニャー」


 と死にかけの半魚人をつんつんしているキャミィ。


 やめなさい。お腹壊すから。


「ふぁぁ。ランジェとあたしと2回もヒールかけてあげたのにねぇ」

「気合が足りないんだなっ。あっはっは」


「もう一回ヒールをかけてあげようか」とランジェだけは心配そうに言う。


 するとランジェの前にキャミィがぴょんと座席を飛び越えて前からやってきた。


「ニャ。君キラキラした眼をしてるニャー。それにまん丸だニャー」


 ランジェに近づいてまじまじと顔を覗き込むキャミィ。お互いの顔はかなり近い。


「え? そうかな? ありがとう」


 ランジェはちょっとびっくりしたのか、顔を右にそむける。

 追いかける様にキャミィは右に回り込んでまた顔を覗き込む。

 ランジェは今度は左にそむける。するとキャミィはまた回り込んで左に。


 右に、右に。

 左に、左に。


 何をやっているんだお前らは。


「じゃ最後は私ですな。この度は危ないところを助けて頂きありがとうございました。私はレーベルで<トンテンカンテン>という武具工房を開いているフォルダーと申します。ご入用の際は是非お立ち寄りください。サービスさせて頂きますよ」


 フォルダーがお礼という名の営業を始める。

 逞しいというか、何というか。


 がらっ。


 馬車の前方正面にある小窓が開いた。


「そろそろレーベルに着きますよ」


 そうそう御者も無事だったのだ。

 御者が守っていた馬車前方には盗賊は全く来なかったとの事で、馬も無事だ。

 とても感謝をしてくれて、馬車の無料乗車券を何枚かくれた。やったぜぃ。


 がらがら……がら…………がら。


 馬車がゆっくりゆっくり止まる。


 最初に降りたのはランジェだ。

 屋根から大剣を取り外さなければならないからだ。

 馬車での忘れ物No1は、信じられない事だが武器らしい。


 次いでフォルダーが降りる。

 ほとんど動いていないのに、はぁはぁ言っている。この人は少しダイエットした方がいいな。

 

 最後に俺が降りようとすると、


「またどっかで会ったらよろしくな」


 とジャイが手を振ってくれた。


 たったそれだけの事だが、なんだか冒険者の一員に認められた様で嬉しかった。


「ああ。よろしくな」


 そう答えると俺も手を振りながら馬車を降りたのだった。



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